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三十五話 良一と『妹』の最後の攻防、良一は勝利を確信する

ここまでのあらすじ:

奴隷少女を助けるために負ければすべてを失うゲームに挑んだ良一。対戦相手の巫女、『姉』はすべての手牌を看破し、これにより良一は敗北したかと思われたが、そうではなかった。一人が上がった時点で終了というルールではなかったのだ。良一の反撃が始まった。

 幼い巫女が僕の手牌から一枚を抜く。もちろんそれは『7』だ。

 四連続で当てた。ここまでは順調。

 僕は改めて、僕の手牌に存在しうる牌を頭の中で列挙する。

 それは次のようになる。


33

44

66

777


 単純に考えると、『7』が一番可能性が高いわけだ。

 だが、ゲーム開始直後に『姉』が『7』を宣言したときに考えたことだが、今自分の手牌に『7』はさほど多くないはずだ。

(もう、『7』を宣言するのは、やめておくか? だけど、『7』がまだあるか、もう無いかを確定させないまま戦い続けるのは気分的にスッキリしない……。よし。)

 僕は心を決めた。

 『7』はもうないかも知れない。

 が、ここは『7』を宣言する。

 あれば儲けものだし、なければ『7』がないということを確定して、次の手番以降を戦える。

「次なる我が宣言は、『7』!」

 僕は言った。

 幼い巫女の反応を確認すると、彼女は黙って、手を『妹』の方に向けた。

 外したか。僕の手牌に『7』はなかった。今から『妹』の手番になる。


 今までほぼ無表情だった巫女の姉妹だが、今は対戦相手の『妹』の表情が固くなっている。

(本気になってるなあ。)

 そんな印象を受けた。

(こっちは負けたらすべてを失うのに、あなた達は負けても別にペナルティないんでしょ? もうちょっと気楽にやってくれてもいいんじゃないかなあ……。)

 すこしそんな気の抜けたような考えが浮かんだ。

 自分の心に余裕が出来てきているのかも知れない。


 この時点での『妹』の手牌は『3』『4』『5』『5』『6』『6』。

「わたしは『6』を宣言します。」

 『妹』が言った。

(さあ、どこまで当ててくる? お手並み拝見だな。)

 万が一、6牌全部を当てられたら僕の負けだが、そうはならないだろう。

 明確な根拠はないが、そう思った。

 ともかく『6』は当たりだ。

 彼女の手牌から『6』が引かれる。


 次の彼女の宣言は『4』だった。

 これも当たり。

 ここまで、彼女の宣言は至って普通だ。

 数字の大きいところから指摘していくのが普通だが、最大の数字である『7』はすでに無いと前回の手番で判明している。

 また、『5』に関して言えば、僕がすでに3枚持っていた。

 彼女の手牌に『5』が少ないと感じたのだろう。

 納得できる。

 だから『7』と『5』を避けて、大きい順に『6』→『4』と来たのだろう。


 ここで、僕はあることに気づいた。

 『妹』が少し目を閉じて、何かを考えるような表情になったのだ。

 いや、違う。

 あれは考えると言うよりは、祈っているような……。


「次は、『6』を宣言します。」

 『妹』は言った。

(これは……!?)

 少し変わった宣言の仕方だ。今までになかったパターン。

(ここだ。ここの心理を読み解けば、相手から見えている僕の手牌が推測できる!)

 ここをどう読むかで、勝敗が決る。そう言っても過言じゃないだろう。

 とりあえずこの宣言も当たりだ。

 彼女の手牌から『6』が抜かれる。


「次は、『3』を宣言します。」

(『3』か……。)

 僕は彼女の宣言の意味を深く考える。

 これも当たりであるから、彼女の手牌から『3』が抜かれる。


「次の宣言は、『5』です。」

(当ててくるなあ……。)

 次も当てられたら、僕の負けだ。

 だが、不思議と、それはないという気がしていた。


「次に宣言するのは、『4』です。」

 この宣言は外れだ。

 まず、残ってる手牌全部を当てられることは無いだろうと思っていたが、やはりそれはなかった。


(さて、面白い宣言だったな。6→4→6→3→5→4、か。)

 彼女が宣言した数字を順に思い浮かべる。

 そして、思考を巡らせる。

 今や頭の中は最高のコンディションだ。

 読める。

 彼女が何を思ってそのような宣言をしたのか。

 つまりは、彼女が見ていたもの。

 僕の手牌が、今やすっかり明らかになった。

 僕は勝ちを確信した。


「良い戦いだった。」

 僕は言った。

 対戦相手の『妹』が眉をひそめた。

「どういうことだ、挑戦者よ。」

 長老の補佐の男が言った。

「まだ競技ゲームは決着しておらぬぞ。」

「決着したようなもの。我は、我が手牌を看破したがゆえに。」

 僕は不敵な表情を作り、格好をつけて言った。

「挑戦者よ、まだそなたの手には3枚の牌があるのだぞ。それをすべて看破したと?」

「いかにも。」

「では、一つずつ宣言されるがよい。そして、ただしくこの競技ゲームを終わらせるのだ。」

「承知。」

 僕、『承知。』なんて言葉の使い方、初めてしたかも知れない。

 観衆のざわめきが僕の心を高揚させる。

 みんな、僕の発言に驚いているのだ。


「我、宣言す、その数字は『2』!」

 僕が言うと、観衆から驚きの声が上がった。

 幼い巫女が睨むような上目遣いで僕を見たあと、僕の手から『2』の牌を抜く。


「何だあいつ……小さい数字から当てやがった……?」

 村人の一人がつぶやいたのが聞こえた。

 いい気分だ。

「聞くが良い、我の次なる宣言は『3』である!」

 幼い巫女は、信じられないと言う表情を一瞬見せた。

 しかし、自分の役目を放棄することはせず、僕の手牌から一枚を抜く。

 もちろん、表向きにされたそれは『3』。


「あ、あいつこのまま当てるのか?」

「いや、無理だろう、だって……。」

「シッ! ヒントになるような事は言っちゃ駄目だよ!」


 村人たちの話が聞こえた。


「これが最後だ。我が宣言を見るがいい。それは『6』だ!」

 僕は確信を持って言った。


 村人たちのざわめきが止まった。

 正解が出た時にその牌を抜く役目を果たしてきた幼い巫女の動きも止まった。


「どうした?」

 僕は幼い巫女に語りかけた。

「宣言が当たった時、その牌を引いて、表に向けるのは君の役目だろう? さあ、僕の最後の手牌を表向きにするんだ。」

 僕は少し柔らかい口調で言った。

 僕の宣言が間違っていたのではないかという思いは浮かばない。

 僕の最後の一枚は『6』なのだ。

 そうでなければ、『妹』の最後の宣言は、あの6→4→6→3→5→4の形にならない。

「さあ。」

 僕が促した時、僕の横に、あの長老の補佐の男がやってきた。

「……なにか?」

 僕は聞いた。

「幼きものを怖がらせるでない。」

 男は、僕の方に軽く、ぽん、と手を置いた。

 見上げると、無表情のいかつい顔。

 この時になって、僕は自分に自信がなくなった。

 まさか、僕の考えは間違ってたのか。

 最後の一枚は『6』ではない!?

 そんなことが……?

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