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三十話 二人の巫女の戦い、終盤へ

前回までのあらすじ:


 異世界に来てしまった良一は不幸な奴隷少女のニニナと出会い、彼女を助けるため『競技』と呼ばれるゲームに挑み、勝利を収め、ニニナを自分の奴隷にすることで救った。


 元の世界に帰る方法を探す旅の途中、良一は二人目の不幸な奴隷少女に出会う。彼女も助けることを決意した良一は再び、負ければすべてを失う『競技』に挑むことを決意する。『競技』が行われる日になり、良一の戦いの前に二人の巫女が『競技』をすることになる。良一は対戦相手になるであろう巫女の心理・戦法を分析し始め、姉の方の心理の癖を掴む。

 二人の巫女の勝負は中盤から終盤と行った所だろう。

 『姉』の手牌は3枚、『妹』の手牌は4枚。

 手牌をすべてなくせば勝ちのルールだから単純に考えると姉のほうが勝利に近いが、今から妹の方の手番であることを考えると五分の状況と言えるかも知れない。


 ただ、今の僕にとって重要なのはこの二人の巫女のどちらが勝つか、と言うことではない。

 僕の運命を決する、僕自身が参加する次の試合。

 僕と、この二人の巫女のどちらかとの勝負になるんだろうけど、その戦いに備えてこの二人の心理の癖を見抜いておかないといけない。

 絶対に勝たないといけない勝負なんだ。

 開始前に対戦相手の心理ぐらい把握しておきたい。


 今から妹の方の手番、彼女は少し長考しているようだった。

 僕は妹が何を考えているか推測する。

 ここまでのゲームの状況から、妹が自分の手牌にあり得ると考えられるのは、


444

555

77


 となる。

 文章で表記するなら、


「3」は1枚あり得る。

「4」は3枚まであり得る。

「5」も3枚まであり得る。

「7」は2枚まであり得る。

 その他の数字は一枚もありえない、という事。


「私は4を宣言します」

 妹はついに言った。

 この時の妹の手牌は

3 4 4 7

 「4」は含まれるので宣言は成功だ。

 手牌の「4」が一枚、手牌から引かれる。


 宣言に成功したのでもう一度妹が宣言することになる。

(ここが重要だな。)

 僕は考える。


 妹の脳内にあるであろう、手牌にあり得る牌のイメージは、


44

555

77


 となっているはずだ。(先程の状況から、今当てた「4」が一枚減っている形)

 つまり、今彼女にとって、一番可能性があるのは「5」という事になる

(素直に可能性の一番多い、「5」を宣言してくるか?)

 そう考えていると。


「宣言します。『4』です。」

 妹は、そう宣言した。


(「4」を宣言か。これはどういう心理だろう……。)

 考えを巡らせる。

(たぶん、「5」の宣言に行こうとは思っただろうけど、その前に「4」の件を終わらせておきたかったんじゃないかな。)

 つまり……今この瞬間だけを考えるなら「5」を宣言したほうが良い。

 だけど、「4」がまだ手牌にあるかも知れないという疑念を抱いたまま、「5」を宣言するのは、少しだけ事態が複雑だ。後でまた「4」を宣言する必要があるかも知れない。覚えておかないといけないことが少しだけ多い。

 だから「4」を宣言した。

 もし宣言が成功して、自分の手牌に「4」があれば勝利に近づくのはもちろんのことだ。

 宣言が失敗した場合は、「もう自分の手牌には4はありえない」という情報を得ることになる。それにより、考えることはそれだけシンプルになる。

(紙にメモを取りながら戦うことが許されてるわけじゃないからな)

 僕はそんなことを思った。

 これぐらいの情報、覚えておけるように思うかも知れないが、実際にこのゲームをやってみるとそれはなかなか難しいことを知るだろう。

 僕はボードゲーム会でこのゲーム(と、同じルールのゲーム)を遊んだときのことを思い出した。

 それほど勝ちに執着して遊んだわけではなかったとは言うものの、自分がほんのちょっと前になにを宣言したかも忘れてしまう事もあった。

 すでに宣言して、その宣言が失敗に終わって、もうその数字はありえないという数字を、うっかりまた宣言してしまうことすらあった。

 特に僕の脳みそがお粗末ということではないと思う。そういう難易度なのだ。


 さて、妹の方の巫女が「4」を宣言したわけだが、この時の彼女の手牌は


3 4 7


 4が含まれているので宣言は成功、4の牌が手牌から取り除かれて手牌は


3 7


 の2枚になる。そしてまだ妹の手番が続く。


「わたしは4を宣言します」

 またしても4を宣言した。


(やっぱり、自分の手牌に「4」があるかどうかを、しっかり確認しておきたいんだな。)

 僕はそう考えた。

 これは、この妹の方の性格、心理の癖と考えて良さそうだ。


 4が宣言されたわけだが彼女の手牌にはもう4はない。

 横にいた幼い巫女が姉の方を手で指し、宣言が失敗して手番が移ったことを伝えた。


(姉の方の思考を追わなきゃ。忙しいな。)

 姉のから見えている牌すべてを種類別に羅列すると、


33

444

55

6666

777777


 となり、ここから彼女が手牌に存在しうると考えるのは、


22


 という事になる。2が一番可能性が高く、3,4,7にも可能性はある、ということだ。(単純な消去法では5や6の可能性も残るが、これはすでに宣言失敗により否定されている。)


「わたしは2を宣言します」

 よく通る静かな声で姉は言った。

(ここは順当だな。)

 宣言は成功、


2 2 3

だった手牌が、2が一枚抜かれて


2 3

へと変化する。


 勝利へ近づいたが、同時に難しい状況になった。


 姉視点で手牌にあり得るのは



 つまり2,3,4,7、どれを選んでも同じ確率だ。考える材料はないはず。なにを選んでも同じ確率……。


 とにかく今やどちらも残り手牌は2枚。

 手牌を無くせば勝ちであるこのゲームの終着はもう近い。

 僕は最後まで二人の心理の癖を確認しようと、集中している。

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