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二十九話 二人の巫女の戦い。良一は二人の心理を推察する

前回までのあらすじ:

 異世界に来てしまった良一は不幸な奴隷少女のニニナと出会い、彼女を助けるため『競技』と呼ばれるゲームに挑み、勝利を収め、ニニナを自分の奴隷にすることで救った。


 元の世界に帰る方法を探す旅の途中、良一は二人目の不幸な奴隷少女に出会う。彼女も助けることを決意した良一は再び、負ければすべてを失う『競技』に挑むことを決意する。『競技』が行われる日になり、良一の戦いの前に二人の巫女が『競技』をすることになる。良一は対戦相手になるであろう巫女の心理・戦法を分析し始める。

 今更だが、この競技ゲームは自分から表面が見えない自分の手牌をすべて当てれば勝ち、というルールだ。


 二人の巫女の戦いは、姉が先手で、「7」を宣言するところから始まった。


(なぜ「7」を宣言したんだろう。)

 僕は考える。

 複雑になるけど必死に考える。


 姉から見えているのは、対戦相手の妹の手牌、


3 4 4 6 6 6 7


 及び、公開されている7牌、


1 3 4 6 7 7 7


 この14牌。


この競技ゲームに使われるすべての牌を種類順に並べると、こう。


22

333

4444

55555

666666

7777777


すべての牌から姉に見えている14牌を引くと、


22

55555

66

777


 こうなる。これが、姉の手牌にありうる牌だ。

「1」 は存在し得ない。

「2」 は最大2枚存在しうる。

「3」 や「4」は1枚は存在しうる。

「5」は最大5枚存在する。

「6」は2枚存在しうるし、「7」は3枚存在しうることが分かる。


 ここで、『姉』は一番可能性が多い「5」ではなく、「7」を宣言した。

(どうして一番可能性がある「5」じゃなくて「7」を宣言したのか。それは、多分対戦相手である『妹』に情報を与えないためだろうな。)


 配られた牌に偏りが少なければ最初の宣言は「7」になりやすい。

「7」は7枚と、一番多いからだ。

 つまり「7」を宣言するというのは一番クセがない、対戦相手に情報を与えない手なのだ。

 僕は、対戦相手になるかも知れない「姉」がそういう性格なのだな、と心に刻んだ。


 幼い巫女が『姉』の手牌の「7」に手を伸ばし、それを表向きに倒す。

 周りで見ている観衆がどよめいた。

 『宣言』は成功。『姉』は勝利に一歩近づく。

 幼い巫女が手で『姉』の方を指し、連続で『姉』の手番であることを示した。


「続けて宣言させていただきます。宣言は『7』です。」

(やっぱり同じ数字を宣言してきたな。)

 僕は思考を巡らせる。

(「7」は一番多い数字だから単純に可能性が大きいってこともあるけど、それよりもこれは相手に情報を与えない意味が強いんだろうな。)


 『姉』の手牌に『7』はまだあるので、宣言は成功だ。

 幼い巫女がまた一枚、『姉』の手牌を表向きに倒す。

 これで『姉』の手牌は5枚になる。あと5回宣言に成功して、手牌をなくせば勝利だ。

 幼い巫女は先程と同じように手で『姉』の方を指して『宣言』を促す。

「宣言します。私の宣言は、『6』です。」

(宣言を変えてきたか……。)

 僕はその事実を考える。

(普通なら、ここはもう一度『7』を宣言したくなるところだろう。『7』はもう自分の手牌にない可能性が高いと感じるだろうけど、もしあれば儲けものだし、なければないでそれ以降『7』の事を考えなくて良いことになる、考えるのが楽になる。その安心を求めて『7』を宣言したくなるところだろうけど、この『姉』はそうしなかった。)

(対戦相手に情報を与えまいとする慎重さと、安易に安心を求めずに攻めに行く心の強さを持ってる……。)

 僕は対戦相手になるかも知れない『姉』をそう評価した。


 ともあれ、『姉』の手牌に『6』はない。宣言は失敗だ。幼い巫女は手で『妹』の方を指し、手番が移ったことを示した。


(さて、『妹』の方はどう出るか。)

 僕が注視する中、『妹』は、

「宣言します。『6』です。」

 そう言った。


 ぼくは『妹』から見えているものを考える。

 『妹』から見えているのは『姉』の手牌5枚と公開されている7枚、姉の手牌だった2枚。


 この競技ゲームに存在する28の牌から『妹』に見えている14枚を引くと、こうなる。


444

555

666666

77


 つまり、「1」や「2」はありえず、「3」は一枚ありうる、「4」や「5」は3枚ありうる。「6」が最も確率が高く6枚存在しうる。「7」は2枚まではありうる、という事になる。

(ここで「6」を宣言したってことは、一番確率が多いところに、素直にいったって考えられるな。まだ断定するのは早いけど、そういう性格なのかもな。)


幼い巫女が『妹』の手牌から『6』を一枚抜き取り、表向きに倒す。

 そして手で『妹』の方を指し、次の宣言を促した。


「宣言します。次の宣言も『6』です。」

(だよな。)

 僕は頷く。

(「6」の可能性はまだダントツで高いし、さらに同じ宣言をすることで相手に考えを読まれないし、どう考えてもここは『6』の宣言をする所だよな。)


 競技ゲームは粛々と進む。


 『妹』は『6』を宣言し、手牌を当てることに成功、また一枚手牌を減らす。

  『妹』はそのあとも『6』を宣言。しかしもう『妹』の手牌に『6』はない。宣言は失敗となって手番は『姉』の方に移る。とは言え『妹』は手牌を3枚減らし、4枚とした。


 頭脳で戦う二人の巫女の動きの一つ一つに観衆はどよめいたり称賛の声を出したりしている。

 しかし僕は二人の戦いに集中しているので観衆のことは気にならなくなっていた。


 その後の「姉」の宣言は「5」。

 これは成功、これで『姉』の手牌は

2 2 3 5

の4枚になる。

(ここは一番確率の多いところに来たな。)

 僕はそう理解する。


 『姉』の次の宣言も『5』。

 これも成功。


 『姉』はさらに『5』を宣言、これは失敗。

 しかし『姉』は手牌を

2 2 3

の3枚にまで減らした。


 そして『妹』の手番。

 『妹』視点で、『妹』の手牌にありうる牌を羅列すると、


444

555

77


 つまり「4」と「5」が一番可能性が高く、次に可能性が高いのは「7」、「3」の可能性は低く、他の数字はありえない。


(ここは『妹』の性格、心理を垣間見られそうだな。)

 僕は息を呑み、次の展開に注目する。


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