二十八話 二人の巫女による競技が始まる。良一、二人の心理的な癖を見抜こうとする
前回までのあらすじ:
異世界に来てしまった良一は不幸な奴隷少女のニニナと出会い、彼女を助けるため『競技』と呼ばれるゲームに挑み、勝利を収め、ニニナを自分の奴隷にすることで救った。
元の世界に帰る方法を探す旅の途中、良一は二人目の不幸な奴隷少女に出会う。彼女も助けることを決意した良一は再び、負ければすべてを失う『競技』に挑むことを決意する。『競技』が行われる前に、良一はニニナと作戦について相談し、準備を万端にする。
二十八話
『競技』が行われる当日になった。
食料調達に時間をかけたくなかったので朝食は保存食の干し肉で済ませた。
そして朝からニニナと二人で練習ゲームをする。
もう、ニニナのこのゲームにおける癖は読み切ってしまった。10戦勝負すれば10戦とも僕が勝つ。もうほぼ、練習をする意味がない所まで来てしまったのかも知れない。
「休もうか」
「はい」
それだけの短い会話を交わして、僕は家の外に出る。朝起きてから家の外に出てなかった。南国の強い日差しを浴びながら深呼吸する。
近くの木から派手なオレンジ色の、尾の長い鳥が二羽ほど飛び立っていくのが見えた。
村の人達を見ると、いろいろな人がゴザや椅子のようなものを持って移動していた。
「なんであんな物を運んでるんだろう?」
「それは、ご主人さまが挑まれる『競技』を見学するための、席取りだと思います。」
「ああ……みんな『競技』を見るのが好きなんだな。」
「そうですね。……あっ」
ニニナがなにかに気づいて声を出した。
ニニナの目線を追うと、この村の長老の補佐の中年の男がこちらにやってくるところだった。彼は近くまでやってきて、口を開いた。
「旅人、コーヅキよ。本日の『競技』に参加するのであろう? 正午までには村の広場に来るようにな。何なら、今から来てもらっても構わん。」
「……まだ時間はあるのでは?」
僕は確認した。
「そうだな。だが、そろそろ広場に人が集まりつつある。本日の主役の登場が待ち望まれているようなのでな。」
「……分かりました。でも、今すぐは行きません。正午までには。」
僕はそう約束し、男は引き上げていった。
僕はニニナと一度室内に戻り、なにかすることがあるかどうか考えた。
練習ゲームはもう十分やった、と思う。
(じゃあ、もう大丈夫かな……。)
そう思いながら、ふとニニナの方を見た僕は、不思議と急にHな気分になるのを感じた。
ついついニニナが身にまとっている腰布の下に意識が行ってしまう。
少し自分が嫌になる。
体の向きをそらしてから、横目でニニナの表情を見ると、きょとんとしていた。
その幼さを残した顔つきは、肌は褐色だけど穢れのない天使のように思えて、僕は恥ずかしくなって視線をそらす。
そうしたら、ニニナは何かに気がついたようで、すっと手を伸ばし、僕の手をとった。
「ニ、ニニナ?」
戸惑う僕。
ニニナは緩やかに僕の手を引っ張って、ニニナの腰布と肌の間に、差し入れた。
「えっ……。」
ニニナはすこしだけ恥ずかしそうな表情になって、僕の手を更に深い場所に導いた。
僕の指先がニニナの下着に触れて、僕が劣情を抑えられずになりそうになった刹那、ニニナは僕の手を腰布から外に出した。
「お願いです。」
ニニナがこちらをまっすぐ見つめていた。
「今日の『競技』が終わったら、この続きを、してください。」
僕は深呼吸をした。
「ありがとう、ニニナ。」
僕はニニナの心遣いに感謝する。
『競技』に負けた時には僕は奴隷身分に落とされ、ニニナは僕の奴隷ではなくなるのだから、続きをすることはできない。
だから、『競技』が終わったら続きをするという約束は、僕に対する何よりの応援だ。
「行こうか。」
「はい。」
僕は家の外に出た。
密林の中にあるこの村は、緑があふれていて、世界はとても美しく見えた。
何も怖いものはないように感じた。
「おおっ! 挑戦者がやってきたぞ!」
「いよいよ盛り上がってきたな!」
村の広場につくとその場にいた村人みんながこちらを見た。
意外なほど、緊張は湧いてこない。
自分の精神のコンディションは悪くないと思った。
広場の中央には、昨日まではなかった六角形のテーブルが置いてあった。
そこで『競技』が行われるのだろう。
もう一つ、昨日までそこになかったものが近くにあった。
あの、追いはぎの少女が閉じ込められている檻が、簡易的に組み上げられた台の上に置かれていた。
少女がこちらに気づいて、少し笑顔になった。こちらに向かって、ほとんど動かせない手を振ってくる。
僕は大きく手を振って返事をした。
近寄って話をしようかと思ったけど、他の村人が集まってきて、口々に話しかけて来た。
「これから『競技』やるってどんな気分?」
「負けたら奴隷になっちゃうんだぞ! 分かってる?」
「勝ったらどうするの? たくさんお金もらえるんでしょ?」
「ね、これ食べる?」
すこし鬱陶しかったけど、大事な戦いの前の緊張をほぐすのに良いかも知れないと思ったから、全てに返事をした。
『これ食べる?』と言った子供が渡してくれた数の子みたいな食べ物はニニナにも分けて美味しく頂いた。塩辛かった。
時は過ぎ、ついに、『競技』が行われる時間になった。
村人たちが歓声を上げる中、3人の巫女が広場中央のテーブルにやってきた。
まず、巫女の年上の二人による対戦が行われるようだった。
ニニナは近くにいてはいけないらしく、離れたところから僕を見守ることになった。
僕は二人の巫女の戦いをテーブルの横で観戦することを許された。
(これは、チャンスかも知れない)
僕はほくそ笑む。
僕が対戦するのが、二人の巫女のどちらになるのかは分からない、今からの勝負で勝ったほうが僕と戦うのかも知れないが、とにかく今から戦う相手の戦いぶりを見学できるのは、助かる。
このゲームでは、相手の心理的な癖を把握することで有利に立てる。
積極的に最短距離で勝利を目指すか、それとも搦め手を使うか。
そういった相手の性格を把握していれば、相手の考えが読めて、相手が持っている情報を推測できる。
それは小さな有利かもしれないが、それが馬鹿にできないゲームなのだ。
僕はどんな小さなことも見逃すまいと決意する。
背の低い幼い巫女が、テーブルの上に二十八枚の牌を置いた。
対戦する二人の巫女が、優雅な手付きで二十八枚の牌を裏向けてかき混ぜる。
『競技』が始まろうとしている。
やがて、二人の巫女が7枚ずつ牌を取り、表面が自身には見えず対戦相手に見えるように置く。
テーブルの対角に座る二人の巫女を、僕は横から見ているので、二人の巫女の手牌を僕はすべて見ることができた。
二人の巫女は外見でほぼ区別がつかないけど、僕は片方を姉、片方を妹と認識することにした。
姉の手牌は
2 2 3 5 5 7 7
妹の手牌は
3 4 4 6 6 6 7
(なお、手牌は昇順に並んでいるわけではないが、便宜上そのように書いておく。)
残り14の牌のうち、7つの牌が幼い巫女によって表向きにされる。
公開された7つの牌は
1 3 4 6 7 7 7
だった。
残り7枚の牌の表面はゲーム終了まで明かされることはないが、二人の手牌を見ることができる僕には、消去法でその内容を特定することができる。
このゲームに使われる牌は『1』が1枚、『2』が2枚、『3』が3枚と数字の数だけ存在し、『7』が7枚で計28枚。
頭をフル回転させて、僕は伏せられている7牌を頭の中で突き止める。
伏せられている7牌は
4 5 5 5 6 6 7
であるはずだ。
「『競技』を開始してください。」
幼い巫女が宣言すると、村人たちが歓声で応えた。
幼い巫女が、僕が姉と認識している方に手を向け、先手であることを伝えたようだった。
「わたしは、7を宣言します。」
姉の方の巫女が、静かな声で言った。
村人たちのざわめきが収まった。みんな固唾を飲んで見守っているのか。
僕は、姉が7を宣言した意味を考えだす。




