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二十三話 良一、村人たちを説得する。また、『競技』に使う道具を確認する

 僕はニニナと川で水浴びをして身を清めた。

 お互い裸で水浴びをして、僕はニニナの薄い茶色の裸を見ることができたけど、とくにいやらしい気持ちにはならなかった。清々しい気分だった。

 まあ、ついさっきまでいやらしいことをしてたんだけど。


 そして僕はニニナと一緒に、また長老のもとを訪れた。


「時間を与えてくれてありがとうございました。おかげで、気づいていなかったことに気づけました。」

 僕はそう言って長老に頭を下げた。

 長老の家の軒先に下げられている風鈴のようなものが、りーんと音を立てた。

「やはり気づいておらんだね。ぬしが『競技』に負けて奴隷に落ちたら、その娘とも一緒にはいられん。」

「はい、気づいていませんでした、すいません。」

「誤ることじゃないが。」

 長老はそこで言葉を切り、木の器に入っていた飲み物を飲んだ。多分お茶だろうが、漢方の薬のような独特の匂いがした。

「それで、一応確認するが、挑みたいのかね、『競技』に。」

「……はい。」

 僕は頷いた。

「では、今から村のものに告げるとしよう。そのあとは、取り消しなどできぬぞ。」

 そう改まって言われると、緊張で息がつまった。

 負けたら、自分は奴隷にされる。

 人間の尊厳を奪われるような調教をされる。

 ニニナとも一緒にいられなくなる。

 ……。

 僕はつばを飲み込み、

「お願いします。」

 そう言った。

 自分の迷いを断ち切るように。

 長老は頷き、すっくと立ち上がった。

 足腰の曲がった老婆のように見えていたが、立ち上がって歩き出したところを見ると足腰はしっかりしているらしかった。

「村のものを集めよ」

 長老は部屋の入口にいた男にそう声をかけて、部屋を出ていった。


 やがて村長の家の前の広場に、たくさんの村の住人が集まった。ほぼすべての村人が集まっているらしく思えた。

 何事かといぶかしがる様子の村人たちに、村長が説明をした。僕が追いはぎの少女に同情して助けたいと思っていること、そのために自分の身分をかけて『競技』に挑もうと考えていること。

 話の趣旨が皆に理解されると、まずみんなは不満を感じたようだった。

「おいおい、うちの畑は何度も荒らされてるんだぜ、あの女がやったに決まってるんだ!」

「あんな女はみんなが見てる前で苦しみながら死ぬべきなんだよ!」

 完全にアウェーの雰囲気だった。

 長老の近くにニニナと一緒に立ちながら、僕はまるで僕が罪人として避難されているような気さえした。

 思わず、助けを求めるように長老の顔色をうかがってしまった。

 けど、長老は無表情でこちらを見返すばかりだった。

 やはり僕が、この村のみんなを説得しないといけないらしい。

「みなさん!」

 僕は声を張り上げた。

 すべての村人が僕の方を見る。

 強いプレッシャーを感じるけど、気圧されてるわけには行かない。

「これは確かに僕のわがままです。でも聞いてください。僕にはあの女の子が可哀想でならないんです。僕はあの子に物を取られたんですが、その報復にあの子の義足を奪ってしまった。あの子は義足をなくしたために、逃げられなくて捕まってしまった。だからあの子が死ぬのは僕のせいであって、僕はそれに耐えられないんです。」

 僕は身振り手振りも、自分の表情も使って、僕にできる限りの訴えをしたけど、村人たちの表情を見る限りあまり感銘を与えた様子はなかった。

「あいつは死んで当然のやつなんだ、あんたは関係ないよ。」

「俺らはいつかあいつが苦しんで死ぬのを見られると楽しみにして来たんだがねえ。」

 あるものは僕を諭すように、あるものは僕に不満をぶつけるように、そんな事をいう。


 僕の脳裏にいろいろな言葉が思い浮かぶ。

『人が苦しむのを見物するなんて、趣味が悪いと思わないのか?』

 そんな事を言ってみようかとも思ったけど、言わないほうが良いような気がした。

 僕は部外者なのだ。

 そんな上から目線で物を言っても心を動かせるとは思えない。

 でも、じゃあ、なんて言えば良いんだ?

「みなさん!」

 僕はもう一度顔を上げて、村人たちの顔を見ながら口を開いた。

「みなさんは『競技』を見るのは好きではないですか? 僕は『競技』に挑むつもりです。ここに来る前に訪れた村では、祭りの日の『競技』に参加して、見学してもらえた人には結構楽しんでもらえたと思ってるのですが……。」

 村人たちの反応を伺うと、彼らは少し迷ったようにお互いの顔を伺っていたりしていた。

 今度の言葉は、さっきよりは心を動かしたのかも知れなかった。

「まあ、あんたが『競技』に勝つことができれば、たしかにそれはちょっとした見ものかも知れないな。」

 一人の村人が言った。

「でしょう!?」

 僕はすがりつくような気持ちで同意を求めた。

「でもよ、『競技』で挑戦者が勝つところなんて、そうそうは見られないぜ?」

 別の村人の男が言った。

「おい、お前が『競技』で負けたら、あの追いはぎの娘は好きにしていいんだよな?」

 別の声がそう言った。

 僕は言葉に詰まる。

 それは考えたくない可能性だった。

 僕が口を開けずにいると、長老が低くよく通る声で言った。

「その通り。これなる客人、コーヅキが『競技』に敗北した場合、あの娘を処刑することを止めるものはおらん」

 村人たちが口々に「それなら、まあ……」などといい出していたが、しかし自分が負けたケースのことを想像すると胸に黒いガスが充満するようなイメージを感じた。

「よし分かった! 旅人さん、あんたが『競技』に勝てたらあの娘の処刑はなしだ、あたしはそれでいいよ」

 ついに村人の一人、中年の女性がそう声を上げた。

 ほかの村人も「まあいいか」などと小声で言っているようだった。

「ありがとうございます!」

 僕は大声で礼を言った。


 最後に、『競技』は明日の夕方に行われると長老が宣言して、集いは終わった。

 村人たちはみなバラバラに帰っていった。

 しかし、3人の娘だけがその場に残っていた。

 彼女らは他の村人と違って肌の露出の少ない服を着ていた。服の色も淡いピンク色で、とても目立っていた。


 3人の年の頃は二人が僕より年上に見えた、どちらも18歳ぐらいだろうかと僕は思った。

 残る一人は小学校低学年ぐらいの少女だった。

 その3人が、僕の方に向けて歩いてきた。


「ええと、何でしょうか」

 僕は少し困惑して聞いた。

「私は巫女」

 18歳ぐらいに見える二人が全く同じタイミングで、そう言った。

「巫女?」

 オウム返しにした僕を、二人は無表情な瞳で見ている。

 今気づいたが二人は顔が似通っていた。双子の姉妹か何かだろうか。

「『競技』において、あなたと私達が戦います」

 また、二人が全く同時にそう言った。

「あ、ああ。よろしくお願いします」

 僕は握手のために手を差し出したが、二人はどちらもその手を無視した。

「『競技』は神意を問う儀式」

 また二人が同時に言う。

「ゆめ、不真面目な気持ちで挑まれることなきよう」

「……はい」

 僕は応じた。

「……あなたには、『競技』で使う道具をあらためる権利があります」

 二人が行った言葉に、僕はハッとした。

 そう言えば、今回の『競技』はどんなルールのものが行われるのか、僕は知らないのだった。

 道具を見れば、どんなルールなのか分かるかも知れない。少なくとも推測はできるだろう。

「ぜひ、確認させてほしいです」

 僕は言った。

「……来なさい」

 二人の巫女は小さく頷き、そう言って歩き出した。

 二人のあとに同じ服装の幼い少女が続き、僕とニニナはその後に付いていった。


 この村の建物はすべて原始的なイメージの高床式の家だった。どの家も床が地面より高いところに作ってあるのだけど、3人に案内されてついた倉庫のような建物はとりわけ高い位置に床があった。地面から2メートル以上高い。


 二人の巫女と僕だけが建物の中に入った。

 巫女たちが部屋の中央に置かれていた木の箱を開け、中にはいっているものを僕に見せた。

 精巧に加工された、石の牌が28枚。

(28枚?)

 僕の脳裏にひらめくものがあった。

「手にとって確認してみて構いませんか」

 僕が聞くと、

「ゆめ、傷つけたりすることなきよう、丁寧に扱ってください」

 二人の巫女がそう答えた。

 僕は緊張に震える手で牌を確認する。

 調べてみると、牌の表面には1つから7つまでの丸が刻まれている。

 丸が1つの牌は一枚あった。

 丸が2つの牌は二枚。

 丸が3つの牌は三枚、以下同様、丸が7つの牌が七枚。

 これは。

 前の村でやった『競技』と同じ道具だ。

(どうやら同じルールの『競技』か)

 無論、勝てるかどうかは依然分からないが、それでも事前にルールがわかっていれば対策を練ることはできる。

(勝てる。いや当然だ、絶対勝つんだ)

 僕は決意を新たにした。

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