二十二話 良一、寝ぼける。そして良一は自分が気付いていなかったことを知る。
僕はベッドの上で女の子の体を抱いたまま、とても幸せな気分でいた。
夢か現実か分からない気分。
どうしてこうなったんだっけ?
目を閉じたまま考える。
ああ、そうだ。
華花さんに、学校の屋上に呼び出されたんだ。
「ごめんね、上月君、あの時はわたし、どうかしてたの。わたし、上月君が、好き。」
僕は
「刀瀬さん……。」
僕の憧れの人のその言葉に、僕は胸がいっぱいになる。
「華花って呼んで。」
僕は幸せいっぱいの気分で、
「愛してるよ、華花。」
そう言った。
「上月君!」
いつもクールな表情の華花さん。
みんなの憧れの美少女の刀瀬華花さんが、
幸せいっぱいの表情で僕の胸に飛び込んでくる。
僕は華花を強く抱きしめた。
それから……ええと……とにかく、二人は裸の肌を重ねて、何度も愛し合って、それで今に至るんだ。
うん。
むにゃ。
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村の片隅の、集会所の一室で。
上月良一とニニナは、簡素な寝台の上で、裸で抱き合っていた。
二人とも、幸せな気分で、うとうとしていた。
「むにゃ……。」
良一が不明瞭な言葉を口にする。
「ご主人様?」
ニニナが小さな声で囁く。
「……愛してるよ、華花……。」
良一はそう呟いた。
それを聞いたニニナは、まず少し困惑したような顔になり、
ちょっとだけ、悲しそうに眉を下げた後、
穏やかなほほえみを浮かべて、良一の体を軽く抱きしめた。
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むにゃ。
そろそろ起きた方がいいかな。
僕は眠い目を開け、華花にキスをしようとした。
そうして、そこに、ニニナを見つけた。
混乱。
そして覚醒。
「おはようございます、ご主人様。」
ニニナがさわやかな笑顔で言った。
「お、おおおお、おおおはよう。」
動揺しまくる僕。
どうしよう、ニニナに対してとても失礼なことをしてしまった。
エッチしまくったあげく、ほかの女の子の事を夢に見るなんて、ニニナに知られたら死んで詫びるしかないな。
「ご主人様、ひとつ、お聞かせ願えますか?」
ん?
まさか?
僕、なにも寝言とか言ってないよね?
うん、まさかね。
「何だい? 何でも聞いて」
「ご主人様が呟かれていた、ハナカと言うのは……」
「すいませんでしたあ!」
頭を床にぶつけて土下座。
それしかない。
「ごめんなさいーっ、ニニナに悪い事を……」
「いえ、頭をあげてください、いいのです。」
おろおろした様子のニニナ。
「僕は最低なことを……。」
「ご主人様が好きな女の人なのですよね?」
「はいそうですごめんなさい。」
謝罪の気持ちでいっぱいで頭をあげることができない。
「夢に見るほど、好きな人の代わりとして抱いてもらえて、奴隷としてはむしろ名誉なのです。」
「う……」
僕はようやく頭をあげる。
ニニナは優しく微笑む。
まったく怒ってるようには見えない。
「天使か……。」
僕は小さい声でつぶやいた。
「え?」
ニニナが興味深そうに聞き返す。
「え、いやその。」
僕はごまかした。
「ご主人様、抱いてくれてありがとうございました、とてもいい思い出ができました。」
「え、いや、こちらこそ。」
「例えこれから奴隷市場に送られても、もう泣きません。」
ニニナはまっすぐな目でこちらを見て、そう言った。
ん?
何それ。
「え? なんで奴隷市場の話を?」
僕は聞いた。
「そのそれは、もしもの話で、縁起が良くないので、話さない方がいいかも知れないのですが……。」
ニニナは珍しく歯切れの悪い返事をした。
「んー? 一応言ってくれる?」
縁起が良くないって何だ?
「あの、ご主人様は、あの追いはぎの子を助けるために、『競技』に挑まれようとしているのですよね。」
「うん……そこから逃げたら、僕はずっと後悔しそうなんだ。だから……。」
その気持ちに嘘はなかった。
「たとえ負けたら奴隷に落とされて、きつい調教を受けないといけないとしても、その危険があるとしても、僕は挑みたいんだ。」
落ち着いて、自分の気持ちを話す。
「そう、その時、もしご主人様が奴隷の身分になってしまわれたら、奴隷は奴隷を持てませんから……。」
ニニナは穏やかに喋っている。
あれ?
今何て言った?
『奴隷は奴隷を持てない』と言うのは、つまり……。
「その時は、わたしはご主人様の奴隷ではなくなり、わたしは奴隷市場に送られることになりますから。」
それを聞いて、時が止まった気がした。
そうか。
自分が破滅するだけじゃないんだ。
「僕が負けると、僕だけじゃなくて、ニニナも破滅……」
「いえ」
ニニナは僕の言葉を遮る。
「破滅は言いすぎです。わたしは最初から奴隷ですから、元に戻るだけです。ご主人様はご主人様の事だけを心配して……。」
ニニナは喋っているけど、僕のショックは止まない。
一応僕は、ニニナに幸せを提供してあげているつもりだった。
自分が負ければ、それも終わってしまう。
自分は全然考えが足りなかったのだと、思い知らされた。
暗澹たる表情になっていた僕を気遣ってか、ニニナが話題を変えた。
「ところでご主人様、よろしければ、勢いよくこの部屋のドアを開けてみませんか?」
内緒話のようなひそひそ声で、ニニナはそう言った。
「何で?」
こちらもひそひそ声で聞く。
「よろしければ、やってみてください。」
いたずらっぽい表情のニニナ。
よく分からないが、僕は下着を穿いてから、部屋の入り口のドアを勢いよく開けた。
「やばい!」
「キャー!」
「ばれちゃった!」
4人の、小さな子供が、ドアの前にいた。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
ポカーンとする僕。
ニニナが後ろで、クックッっと、この子にしては珍しい笑い方をしていた。
「なにあれ……。」
ようやくそれだけ言えた僕。
「エッチに興味津々な年頃の、この村の子供だと思います。」
「覗かれてたのか! って言うか、女の子も居たみたいだけど!?」
「エッチに興味津々なんです。」
「かなり小さい子もいたみたいだけど!?」
「おませさんですね。」
僕はあきれて、それから、なぜか腹の底からの笑いが湧いてきた。
ニニナも、可笑しそうに笑っていた。
そんな事があってから、僕は改めて、『競技』に挑む意思をニニナに話した。
ニニナはただ、
「頑張ってください。」
それだけを言った。




