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二十一話 良一、再び競技に挑むことを決意し、ニニナは良一を誘惑する

 僕は長老にあって訳を話した。

 あの追いはぎの少女から義足を奪ったのは自分なのだと説明した。

 それが原因で少女が捕まって、そして処刑されることになって、自分は罪悪感を感じている。

 また、その少女に同情もしている。

 なんとか処刑を許してあげる訳にはいかないだろうか?


 最初は長老は険しい顔をしていた。

 だけど話だけは聞いてくれた。

 長い押し問答になりそうだったが、頭を下げに下げていたら、少しだけ長老の態度が軟化した。

「ぬしも頑固者よな。追いはぎの娘一人を助けたところで何になる?」

「助けて何になるとかではないんです。助けられなかったら、僕が苦しいんです。」

 僕は正直に答えた。

 長老はため息をつく。

「助けようとするならいくつか厳しい条件がある。」

 この言葉で、初めて『助けてもいい』と言うニュアンスが出てきた。

「その、条件って何ですか?」

「一つはあの娘をお前の奴隷にして、これ以上罪を重ねないようにすること。そうした場合、あの娘が罪を犯せば、それはおぬしの罪になる。」

「そうします。その他の条件は何ですか?」

「あの娘の公開処刑の見物を楽しみにしておる村の者がたくさんおるじゃろう。ぬしは彼らを説得させねばなるまいて。」

 公開処刑の見物を楽しみに。

 その言葉の酷薄さに胸の内が黒く塗りつぶされるような気がした。

 だけど、今はそれについて意見を言う時ではないと感じた。

「まだ他にも条件がありますか?」

 それだけを言った。

「あの娘の有罪は神の掟により決まっている事ゆえ……。」

 長老は、口を開いた。

「それをなかったことにするには、神に許しを請わねばならぬ。そのために、大きな籠十二個分の食料を捧げねばならん。」

「はい。」

 僕は頷いたが、心の中ではこれは難題だと思っていた。

 大きな籠と言うのがどれぐらいの大きさか分からないが、手持ちの保存食では足りないであろう事は予想できる。

 僕はどう言えばいいか分からなくなった。

 必死で何を言えばいいか考える。

「あの娘を助けたいのだな?」

不意にまた長老が口を開いた。

「はい。」

 その問いには即答した。

「神への捧げ物について悩んでおるようだが、村の皆を説得する事は考えているのかね?」

「それは……一生懸命にお願いすれば……。」

 長老は鼻で笑った。

「お願いで皆の心が動くものかね。無理だよ、お願いでは。」

「では、何なら?」

「誰かが、自分の身分を賭けて『競技』に挑むなら、村のものはそれを見て楽しむだろうね。処刑見物がなくても我慢できるかもしれないさ。」


 競技。

 その言葉がまた僕の前に立ちふさがった。

 やります。

 そう答えようとして、僕はあることを思い出し、声が出なくなった。


 競技に負けた挑戦者のたどる運命。

 奴隷身分に落とされる。

 人間の尊厳を失うよう教育され、調教される。

 その恐怖。

 だけど。


「やります。」

 僕は答えた。

「『競技』に挑ませてください。それで、村のみんなが納得するのなら。」

 長老は片方の目を大きく開いていた。

 僕の答えに驚いたのかもしれない。

「そこまでの決意なら、そうするがよかろう。」

 長老はそう言った。

「競技の勝利賞金を貨幣でなく、食料で受け取る事を選択すれば、神への捧げ物もまかなえるだろうよ。」

「ああ……そう言うことができるんですか。」

 僕は安心した。

 神への捧げ物の問題もこれで解決だ。

「嬉しそうな顔をしておるな。」

 長老の口調はすこし呆れたような雰囲気を含んでいた。

「あの子を助ける事ができるかもしれないと思うと嬉しいです。」

 僕は正直に言った。

「忘れている事があるのではないか?」

「負けたときの事は覚悟しています。」

 僕はきっぱりと答えた。

 うん、今の僕、結構輝いてるんじゃね?

「負けたときどうなるか、理解しているというのだな?」

「ええ、その……尊厳を失うように教育されるとか……聞きました。」

「それだけか?」

「え。」

 それ以上に何かあるんですか?

 あれ?

 額に冷や汗が伝ってるような気がする。

 長老はため息をついた。

「……ぬしは奴隷の子を連れておったな。まずはその子と、落ち着いた時間をすごすがよい。」

 長老の言葉は僕には少し突飛に思われた。

「それは、どういう……。」

「どれ、少し用件を思い出した。しばらく会う時間はない。ぬしがぬしの奴隷と、しばらくの時間をすごした後、また来るがいい。」


 長老の意図は分からないが、僕は仕方なくその部屋を出て、僕らにあてがわれた部屋に向かった。

 ニニナが入り口のところで、心配そうに僕を待っていた。

「ただいまニニナ。」

「お帰りなさいませ、ご主人様。」

 ひょこっと頭を下げるニニナ。

 とても可愛らしい。

 いつもはご主人様呼ばわりされるよりも、友達のように接してくれたら嬉しいと思っていた僕だが、この時はなぜかご主人様とよばれたのがしっくりきた。

 ただ単に慣れたのかも知れない。


 部屋の中に入って、ドアを閉じた。

 隙間だらけのドアから窓に風が通り抜けて、涼しくて快適だった。

「今まで、どんなお話をされていましたか?」

 ニニナが、なぜか緊張したおももちで聞いてきた。

「ああ……あの子を助けたいって長老に話したら、いろいろ条件があるって話になって……それで、僕が『競技』に挑んで勝てば万事解決って話になって……」

「ご主人様!」

 ニニナが、大きな声を出した。

「え?」

 僕はきょとんとした。

「あ……いえ……すいません大きな声を出してしまって……何でもないんです……。」

「え、いやいや、なんでもないって事はないだろ? 何かあるなら言ってよ。」

 ニニナはうつむき、その小さな肩は震えていた。

 どう考えても「何でもない」状況ではない。

「あの、それよりも……。」

 ニニナが言った。

 それよりもってなんだろう、話をごまかそうとしてるんじゃないのか?

「教えてほしいんですけど……。」

 相変わらず何かを隠している感じで、ニニナは言う。

「何?」

「下着の付け方……これでいいんでしょうか……?」

 え?

 下着?

 混乱していると、ニニナはおずおずと服のすそを持ち上げた。

 細めだけど柔らかそうな太ももがよく見えた。

 そして、大事なところを隠している下着も。

 ひも状の、たいへん布地面積が少ない方の下着だった。

 彼女の浅めの茶色の肌が、とてもなまめかしく見えた。

 僕は自分の股間の変化に気づかれると恥ずかしいので、体の向きを逸らして、

「どうしたのかなニニナは。もしかして襲われたいのかな?」

 冗談めかしてそう言った。

「はい……襲われたい……です。」

 ニニナはうつむいて、恥じらいの表情でそう言った。

 落ち着け僕。

 この子、絶対に何かをごまかそうとしてるぞ。

 しかし、僕の理性は陥落寸前だった。

 よし仕方ない、一度ごまかされよう。

 あとでニニナが隠している事を追求すればいいんだ。

「じゃあ、僕がその下着に顔を近づけて、匂いをかいだりしてもいいのかな?」

「それだけじゃなくて、もっとすごい事もしてくれないと、いやです……。」

 ニニナの言葉に、僕の理性が陥落した。

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