十四話:良一、もし『競技』に負けたらどうなっていたのかを聞く
それほど広くない家で、女の子と二人っきりの夜。
と言う事で、頭の中ではピンク色の妄想が広がりまくっていた。
彼女――ニニナは、体つきこそ子供みたいだが、年齢的にはもう子供を生める歳、らしい。
いや勘違いしないでほしい、別に主人と奴隷と言う立場を利用して強引にどうこう、みたいな事は考えていない。
僕はちゃんとニニナを一人の人間として扱うつもりだ。
恋人同士とか、そう言う関係になるかどうかは、自然な流れに任せる。
しかしニニナのほうが、恩返しみたいなつもりで積極的に迫ってきたりしたらどうしよう。
どういって断ろう。
いや待て、断る必要はあるのか?
同意の上でお互い傷つかないで済むなら何をしても……別に……。
ついついちらっと彼女の方を見てしまう。
今ニニナが着ているのは僕が羽織らせた学生服のブレザー一枚。
その下は一糸まとわぬ全裸。
肉付きはそれほど良くない薄褐色の太ももは、それでいながらかなりセクシーだが……。
……うん。
全裸か。
そう思うと、僕は自分の劣情が少しずつ収まっていくのを感じた。
冷静になってきた。
ぱんつ穿いてないんだよなあ。
それじゃあ、エロスをあんまり感じないんだよな、僕。
よし、落ち着いたところで会話を始めよう。
「今日は楽しかった?」
僕は軽い調子で聞いた。
「はい、楽しかったし、とても幸せでした。」
ニニナがまじめな顔で答える。
「そうか、それはよかった。」
「本当にありがとうございます。一生かかっても返せない恩を感じています。」
うーん。
この子、また真面目モードに入ってるな。
顔つきとかはあどけなさがあるのに。
正直、性格も子供っぽいモードになったほうが、僕は好きだ。
そんな僕の考えを知らずに、ニニナは続ける。
「百万分の一にもならないと思うけど、少しでも恩を返させてください。わたし、おっぱいとか全然ないけど……。」
あ、来たなこれ。
「こんなわたしの体でも、すこしでもご主人様を気持ちよくできるのなら、もしよろしければ……。」
「よろしくないです。」
僕は断った。
「え?」
あれ?
ニニナが悲しそうな顔になった。
と言うか、泣きそうな顔になってる。
「あの、わたし、わたし……。」
っていうかこれ泣く! 女の子を泣かすつもりじゃないんだ!
「待って待って待ってそうじゃない!」
僕はあわてて言った。
「え、あ、はい」
「……つまりね。」
「はい。」
「今日はすごく疲れてるから、その、もうすぐに睡眠を取りたいかなって……。」
僕はそんなことを言ってしまった。
「ああ! 気づけなくてすいません! 許してください! 明日になったら私に罰を与えてください!」
なんだろうこの子。
本人に悪気はないんだろうけどなんだか会話してると疲れるな。
この子にはどういう言葉をかけるのが正解なんだろう。
「明日か。明日はね。君の服を買おうと思う。」
「わたしの、服……。」
「明日にはお金を渡せると思う。それで、君が着る服を買って。」
「ああ、ありがとうございます!」
「いや、僕のためでもあるから。」
「え?」
「僕は、君にはちゃんと服を着ていて欲しいんだ。」
「……はい。」
ニニナは少し考え込んでいるようだ。
「特に下着ね。下着はできるだけ可愛いのを買うようにね。」
「が、頑張ります!」
僕はつい欲望にまみれた言葉を言ってしまったが、ニニナは気にしていないようだしいいだろう。
「よし、じゃあ今日はもう寝ようか。」
僕はそう言って、ニニナのために部屋にあった敷布団のようなものを敷いた。
僕のための寝床は、部屋の奥に簡易的なベッドのようなものがある。
「え、今から誰かこの部屋に来るのですか?」
ニニナが意味の分からない事を言った。
どういう意味だ?
あ、まさかこの子。
「君がこの布団使って。」
僕は言った。
「え、いいの! あ、いいのですか?」
今一瞬子供っぽい地が出た感じだな。
っていうかこの子はどれだけ虐待みたいな扱いをされてきたのか。
いまさらながら胸が痛む。
「こ、このご恩は……このご恩は……。」
ニニナは言葉を捜しているようだ。
「恩とか、そんなに気にしなくても良いから。」
「そ、そういうわけには! そもそもご主人様は、ご自身の身分を失う危険を冒してまでわたしのために『競技』に挑まれて……。」
「え。」
身分を失う危険って何だ? 全てを失うとは聞いていたけど……所持金を取られるだけじゃ済まなかったのか?
「え?」
ニニナも不思議そうな顔をしていた。
「いや、知ってた! 身分を失うって知ってたよ!」
僕はつい嘘をついた。
「で、ですよね?」
「ああ知ってた、知ってたけどその、細かいところまでは知らなかったと言うかその……。身分を失うとどうなるんだっけ?」
「奴隷にされてしまいます。」
ぞっとした。
ぞっとしたが、ぞっとしているのを知られるとみっともないと思ったので、できるだけ平静を装っていった。
「そ、そうだね、奴隷にされるんだった分かってたよ。うん、勝てて良かった。」
「身分を失って奴隷に落とされる事は、特に辛い事だと聞いています。一年間は服を着る権利も無いし、尊厳喪失調教も受ける事になりますし。」
尊厳喪失調教!?
なんだかすごそうな単語が出てきた。
怖いもの見たさみたいな感情で、つい聞いてしまった。
「尊厳喪失調教……どんな事をする……される……んだっけ?」
「男の人の場合ですか?」
「え、ああ、うん。」
「たくさんの人が見ている前で、何回も射精するまで自慰をさせられるとか……。」
きっつー!
きついわそれは!
「そ、そそそうか、そうだね、それは辛いよねー。」
「あとはやっぱりたくさんの人の目の前で、家畜のブタとせいこ……。」
「うわあああああ!」
すごく怖いことを言われそうになって悲鳴を上げてしまった。
だがその悲鳴でニニナの言葉が中断できて良かった気がする。
「あと他には、ブタのはいせつぶ……。」
「ぐわあああああ!」
誰か助けて。
いや、と言うか!
「まさか、君も過去に、そう言う辛い目に!?」
「いいえ。」
ニニナが否定の返事をしてくれてほっとした。
「わたしは奴隷の両親から生まれた生まれつきの奴隷なので、特にそう言う辛い事は。」
「そ、そうか。」
とにかく、もう二度と『競技』には挑まないぞと、僕は心の中で誓った。
ただ、この誓いは、後に僕が二人目の奴隷少女に出会ったことをきっかけに破られる事になる。
「そう言えばさ、君の両親ってどうしてるの?」
「お父さんは病気で死にました。お母さんはご主人様……じゃなくて、前のご主人様がお金に困ったときに、売られていきました。」
「売られた?」
「大きな都会の奴隷市場に送られたそうです。」
「そうか。」
それ以上かけるべき言葉が見つからなかった。
と同時に、別のことが気になった。
大きな都会。
そうだ、当然、この村の外にも広い世界が広がっているのだろう。
僕はたった今まで、目の前の状況に対応する事で精一杯だったが、これからはもっと、僕はどうするのか考えないと駄目だろう。
元の世界に戻るにはどうすれば良いのか。
この村でそれが分からなかったら、大きな都会とやらに行く事も必要になるだろう。
これからが大変だ。
僕はため息をついた。
「それじゃあ、もう本当に寝るよ。おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
ニニナのかしこまった声。
(もっと子供っぽい口調にならないかなあ……。)
そんなことを思いながら、僕は眠りに落ちた。




