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十二話:良一の競技、決着する

 やはり僕は正しかった。

 勝利の確信。

 体が震えた。

 それは、勝利の喜び。

 天から暖かい光が降り注いでるようにすら感じられた。


 男が僕の6の牌を倒し、今や僕の手牌はただ一つ。

 その牌は「4」以外ありえない。


「精霊の声が教えてくれた……」

 高揚感に包まれながら、僕は天を仰いでから、

「宣言する! わが手牌に、4が在る!」

 その言葉で決めた。


 つもりだった。


「否。」


 これ以上ない、簡潔な否定の言葉。

 冷酷な否定。

 全身の血の気が引く。


 ゲーム開始以来、積み上げてきたロジックが崩壊した瞬間だった。

 激しく混乱する。動揺する。

 たぶん、思考能力は半減以下のレベルまで落ちていた。


 そんな中、相手の番が始まる。


 男は4を宣言する。

 彼の手牌は6,4,2の三牌。

 的中である。


 僕は震える手で、彼の4の牌を倒した。


 彼の手牌は二枚。6と2。

 そして彼が宣言する番は続く。


 彼は冷酷に、6を宣言した。

 的中である。

 ついに相手の手牌はただ一枚になった。

 その牌はもちろん「2」だ。


 次に彼が、「2」を宣言したら、僕の負けだ。

 そして彼が口を開く。

「我、汝に問う」


 やめろ。


「わが手牌に」


やめてくれ。


「4の牌、在りや無しや?」


 かろうじて、と言う印象。

 助かった。

 彼は宣言を外したのだ。

 僕が宣言する番。

 だけど。


(何を宣言すればいいんだ?)

 この最終局面で、ここまで頼りにしていたささやかな僕のロジックは完全崩壊している。

 だって、このゲーム、自分の手番にやる事は1から7のどれかの数字を宣言する事なのだ。

 七択だ。

 宣言した数字の牌が僕の手牌にあれば的中、残り牌一枚の僕はここでただ一度、的中させれば勝利確定なのだ。

 だが、僕のロジックによれば、1から7の数字、全てがありえないのだ。

 どこかでロジックの組み立てを間違えたのだ。

 今から、最初からロジックを組みなおす時間はないだろう。

(完全に勘で、1から7のどれかの数字を言うしかないのか!?)

 思考がまったく働かない。

(どうせ言うなら、7がいいだろうか?)

 そう思った。

 だって、7は七枚あるんだから。

 一番可能性が大きい。

 僕のロジックが完全崩壊した今、そう言う基本に戻るしかない……。

 混乱しきってくらくらしている頭脳で考えても無駄だろう。

(7を宣言しよう。七枚ある。一枚しかない1の七倍の確率……。)

「我、汝に問う、わが手牌に……。」


 七の牌、と、ほとんど言いかけたその刹那。


 脳の奥深いところが、何かに気づいた。

 だけど、それが自分の意識まで届かない。

(何だ? 僕は今、何に気づきかけてるんだ?)


「1」のイメージが浮かぶ。

(1がどうしたって言うんだ? 相手があの時1を宣言した。だから僕の手牌に1はない。間違いないだろう?)

 僕は自分の脳みそに問いかける。

(相手は僕の手牌が見えてるんだ、もし僕の手牌に1が在ったら、1を宣言するはずは無いだろう? 1は一枚しかない、だから……。)

 なんだろう。

 知恵の輪のようなパズルが、解けかけている感覚。


(相手が、僕の手牌に1が在るのを見ながら、つまり自分の手牌に1が無いのを知りながら、あえて1を宣言する可能性は? つまり……。)


 複雑な知恵の輪が、するりと解ける感覚。

 ようやく、僕は気づいた。


 相手は僕の手牌に1を見ていたのだ。

 だから当然、彼の手牌に1が無い事を彼は知っている。

 だが、あえて1を宣言した。

 そうすれば、僕が、自分の手牌に1がないと読む。

 その思考を予期して。

 彼は一回手番を損することを承知で、1を宣言したのだ。

 ぞっとした。

 その作戦、罠は功を奏し、僕はこの最終局面で大混乱し、危うく7なんて宣言をするところだった。

 もし、7なんて宣言をしていたら。

 手番は相手に移り、手牌が一枚の彼はほぼ間違いなく宣言を的中させ、勝利していただろう。


 僕の思考は現実に戻った。

 日に焼けた肌の対戦相手、紫の衣の男は、僕の言葉の続きを待っている。


「我が手牌に!」

 僕は高揚感に包まれ、特撮の変身ヒーローの変身ポーズみたいな動作をして、

「1の牌! 在りや無しや!」

 そう突きつけた。


「在り。」

 彼は意外なことに穏やかな笑顔で微笑み。

 すっと手を伸ばし。

 僕の最後の一枚の手牌。

 「1」を。

 倒した。


 こうして、神聖な競技ゲームは幕を下ろした。

 僕の勝利で。

 観衆の、大きな大きな声援が僕を包んだ。


「おめでとう」

 本当に意外なほど朗らかな笑顔で、対戦相手の神官の男は僕を祝福した。


「さすがだぜ達人!」

「競技の達人!」

「よく見破ったな!」


 村人たちも祝福の声援をあげていた。

 あれ?「達人」ってだれのことだっけ?

 そう思ってから、僕は思い出した。

 僕が、そう自称したんだった。

 僕はくっくっと小さく笑ってから、

「あっはっはっ!」

 爆笑した。

 笑いが止まらなかった。

 最高の気分だった。

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