十一話:良一、勝負の中にゲームの奥深さを見出す
とにもかくにも、競技は続く。
今から僕が宣言する番だ。
脳内に例の残り牌のイメージを浮かべる。
66
4
33
2
1
間違いない。6と3が二枚ありえて、4,2,1は一枚しかありえない。
5と7は、宣言をして否定されたのだから、もはや僕の手牌に残っていることはありえない。
あくまで素直に行くなら、6か3の二択だ。
そして僕は素直に行くつもりだった。
「我、汝に問う。わが手牌に3の牌、有りや無しや!」
「有り。」
僕は頷いた。
相手が僕の手牌から3の牌を倒す。
これで僕の手牌は4枚まで減った。
気分的に一息ついたとき、ふと、先ほど一瞬だけ浮かんだ疑問が気になった。
相手が1を宣言した事への違和感。
もしかして、自分は今、何か見落としているのではないか?
例えば、攻略のヒントになる何か……?
(相手が「1」を宣言した……。)
僕はつらつらと考える。
(相手は、自身の手牌に「1」があるかも知れないと判断したって事だよな……。)
そこから、何か結論が導き出せないか?
(「1」が自身の手牌に存在しうると思ったって事は、奴から見える牌に、「1」は無いってこと。)
そこに来て、僕の全身に冷たい感覚が走った。
僕は一つの結論に達した。
(相手から見える範囲に「1」は無い! そして、相手から見える範囲には僕の手牌も含まれる! つまり、僕の手牌にも「1」は無いってことだ!)
相手の宣言した数字から、自分の手牌の情報を得る。
それまで自分が持っていなかった発想だった。
(ゲーム開始時から明かされている七牌にも、相手の手牌にも、僕の手牌にも「1」はない。伏せられている七牌の中に眠ってるんだ。)
その結論は間違いないように思えた。
(僕の手牌に「1」が無い事が分かった。これは大きいぞ。)
そう思った。
(この先、「1」を宣言するか他の数字を宣言するか迷った挙句、間違うような展開もありえたわけだけど、もうそれは無い。僕の手牌に「1」は無いんだから。)
相手はこの競技にある程度以上熟達しているのだろうけど、その差を少しでも埋められたかと思った。
ともかく、脳内の残り牌イメージを確認する。
66
4
3
2
(間違いない、3が一枚減って、1がない事が分かったんだから、これでいいはず。)
では、やる事は一つだ。
じゃんけんのチョキを握りかけた手を自分の顔の前に持ってきて、格好をつけながら。
「我、汝に問う。わが手牌に6の牌、有りや無しや!」
そう突きつけた。
「有り。」
心なしか、対戦相手の男の顔が悔しそうに見えた。
男が僕の手牌から一枚倒す。もちろん「6」だ。
これでようやく僕の手牌は三枚まで減った。
(追いついた……。)
そう、ここまで頑張って、やっと追いついただけなのだ。
そして。
難しい局面だった。
脳内に描く残り牌の図は、こうなっている。
6
4
3
2
6,4,3,2が自分の手牌にありうる牌。
どれも残り枚数は同じ、一枚。
難しいともいえるが、考えても仕方ないとも思えた。
僕は勘で2を選択した。
「我、汝に問う、2の手牌、わが手牌に有りや無しや?」
「有り。」
男が僕の手牌を倒す。表向きに倒れたそれは「2」。
ついに。
ついに残り手牌は二牌。
相手よりもリードした。
(この流れに沿って行こう。)
今、自分はうまく行く『流れ』だと感じた。
『流れ』とは確率の概念を超越する何か。
すべてのギャンブラーが信じている根本原理。
こういうゲームは、ギャンブルと通じているところがあるのだ。
僕は迷わず。
「問う! わが手牌に3の牌、有りや?」
見栄を切る感じに言った。
「無し。」
冷たい返事が返ってきた。
『流れ』なんてなかった。
いや、ギャンブルの根本原理があるかどうかは分からないが、僕に流れは来ていなかった。
ともかく――
相手の手番だ。
相手の手牌は6,4,2の三牌。
彼がそれを当てない事を祈る。
そして、彼は今までどおりの台詞で、「7」を宣言した。
宣言を外したのだ。
「無し。」
そう答える僕の額から汗が流れた。
自分が緊張している事がどうしても意識される。
(平常心が理想なんだけどな。)
状況はかなり、煮詰まってきている。
一枚しかありえない2を的中させて、3の宣言を外して3が手牌に無い事が分かったのだから、ありえるのは6と4だ。
(あれ? もしかして?)
それは、回答。
ジ・アンサー。
(僕の二枚しかない手牌は、ずばり6と4か!? そうだ、そうに違いない!)
「我、確信を持って問う、わが手牌に、6、有りや?」
そう、確信を持っていた。
僕の手牌に6があると。
「有り。」
彼は答えた。




