十話:良一、『競技』において相手の仕掛けた罠に気づけずにいる
密林の中の村。
祭りが行われている広場。
その中央で行われる『競技』。
この勝負に、あの可哀想な奴隷の少女の運命がかかっている。
そしてこの時点では僕はしっかり把握していなかったが、僕の運命もしっかりかかっていたのだ。
冷静になれ。
自分にそう言い聞かせる。
たしかに相手に一度手番を渡したら、一気に四牌を的中させられた。
それは驚異的だ。
あと三牌を言い当てられたら僕の負けなのだから。
けど、この競技は、宣言が的中し続ける限り、相手に手番は回らない。
単純な事だ。
僕がこれから七回、宣言を的中させれば、それで僕の勝ちなのだ。
簡単な事ではないけれど。
先ほどイメージした牌の一覧を脳裏に呼び覚ます。
777
666
555
4
33
2
1
前の手番で5を宣言し、それは外れた。つまり僕の手牌に5は一枚もない。
それを考えに入れると僕の手牌にありうるのは、
777
666
4
33
2
1
こういうイメージになる。
一番可能性があるのが7と6。三枚存在しうる。
次に可能性があるのが二枚存在しうる3。
可能性が低いのが4,2,1。
素直に行こう。
そう思った。
可能性の大きい7か6を宣言するのだ。
さっきはそれで裏目だったが、かといって捻くれた手を打つ理由はない。
僕は息を吸い込み。
「我、汝に問う! わが手牌に6の牌、有りや無しや!」
そう叫んだ。
「有り。」
対戦相手の紫の衣の男はにやりと笑みを見せた、ような気がした。
彼はすっと手を伸ばし、僕の手牌の6を倒す。
よし。
まず一牌減らした。
脳内の可能性イメージは、6が一つ減る。
つまりこうだ。
777
66
4
33
2
1
次の宣言も素直に行こう。
三枚存在しうる、7を宣言するのだ。
「さあ、宣言の権利はいまだ汝にある。宣言を続けられよ。」
男が厳しく言う。
言われるまでもない。
僕は大声を出す。
「汝に問おう! わが手牌に7の牌、有りや無しや!」
「有り。」
男の手が僕の手牌から7の牌を倒した。
これで僕の手牌は五牌。
この調子だ。
脳内イメージは、
77
66
4
33
2
1
可能性を考えると7か6か3がいい手だ。
4と2と1は可能性が低い。
ついでに言うと5は宣言して否定されたので可能性はゼロ。
「今一度問う。わが手牌に7の牌、有りや無しや!」
格好をつけたポーズで決めて叫ぶ。
「無し。」
冷静に返された。
宣言、的中せず。
僕は無意識に唇をかんでいた。
やばい。
相手は最初の手番に連続で四牌を的中させた力量があるのだ。
今から三牌を連続で的中させられたら、僕の負けだ。
何の抵抗もできずに終わる。
それはいやだ。
あの可哀想な奴隷少女にどの顔をして会えばいいのか。
あの子の、あまり感情を見せない、一見冷たく見える瞳が脳裏に浮かんだ。
きっとあの子はいままでたくさんの辛い目に会ってきたのだ。
だから世の中に絶望して、半ば心を閉ざしているのだ。
そんな不幸な子に幸せを教えてあげたい。
希望を持たせて、やっぱりダメでしたなんて言いたくない。
今、相手の手牌は、6,4,2の三牌。
相手が、宣言を的中させない事を祈る事しかできない。
「では問わせて頂く。わが手牌に1の牌、有りや無しや?」
目の前に光がさした気がした。
相手は、宣言を外したのだ。
「無し。」
そう答える。
思わずニヤリと笑みがこぼれた。
もう一度、僕に手番が回ってきた。
その喜びで感覚が麻痺していたのだろう。
この時の僕はまだ気がついていない。
相手が1を宣言した、その裏に潜む意思を。
無理もない、この時の僕はこの競技を、単に残り牌を数えて可能性の多い牌を宣言するゲームとしか捕らえてなかった。
だから相手の仕掛けた罠に、気づく事もなかった。
ただ、
(あれ? 1を宣言したのか……。)
と言う、微妙な違和感だけはあった。
そしてそれは、極めて重要なポイントだったのだ。




