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『号外!難攻不落の王子、より戻す!王子宅から一緒に登校!』
桐生が完全復活した日から2日後。
朝からあたらとテスト明けでもないのに掲示板に人が集まっていると思ったら、そういうことだった。
新聞部が報じた記事を要約するとこうだ。
桐生が完全復活したのは、私が看病した日の朝だった。
あの日私は知らないうちに寝ていたみたいで、気が付いたら桐生の部屋で朝を迎えていた。
で、それが朝の6時とかならまだしも、起きたのは朝の8時。
普段もう少し早起きしてればよかったなんて後悔したのもつかの間、学校に行かないと間に合わないことが判明。
幸い、桐生の家から駅までは走ればすぐに着く。
と、一安心したものの、次の問題が発生。
家に帰らないといろいろやばい。
主に風呂とか。
で、茫然となっていたところに復活した桐生から一言。
『この前みたいに姉貴の下着使えば?んでシャワーくらいならする時間もあるから。朝飯は購買な』
遅刻だーとぱにくっていた私は、これがベストな案だと思い込んで有無を言わずにその通りに動いた。
今思えばこれが間違いなんだよね。
ワタワタと2人して家を飛び出し、電車に乗ってギリギリ学校に間に合った。
と、いうことだ。
いや、うん、なんでばれたんだろう。
確かに家から学校まで一緒に来たけど。
何人かここの制服を着た生徒を見たけど。
「おはよう、噂の人」
「…伊織君」
「澪も参ってるみたいだよ。さっきからどうやって新聞部をもみ消そうか思案してる」
「物騒だけどやってのけそうだね」
桐生の一言ってけっこう影響力あるからね。
「で?あの記事の真相はどうなってんの?」
「桐生から聞いてないの?」
「あいつ言ってくれないんだもん」
「桐生が言わないなら言わない」
勝手になんか言って怒られるの私だもん。
私の言葉に、伊織君はわざとらしく舌打ちをついた。
「新聞部もバカだよなー、わざわざ澪を敵に回さわなくてもいいのに」
ケラケラと笑いながら言った伊織君は、掲示板の横を私と一緒に通り過ぎる。
その時にわざわざ掲示板に近い方を歩いてくれたのは、私を隠そうとしてくれたからかもしれない。
「王子様、けっこうご立腹?」
「そりゃあもう。ご乱心」
「だから今日遅いの?」
「澪?いや、今日はもう来てんじゃない?電車で見なかったし」
下駄箱でいったん別れた私たちは、自分の靴を履きかえた後にまた合流する。
そういえば、今日は聖を見ていない。
最近一緒に行くことがめっきり減ったけど、どうしてだろうか。
「で?陽向ちゃんはこの先どうするの?」
「え?この先?」
「そう。澪とよりを戻したことになってるけど。今度はそれを否定する?それとも肯定する?」
階段の途中。
人があまり通りそうにないその階段で、伊織君は笑いかけながら言った。
私より数段下にいるはずなのに、その笑顔はすごく迫力があって。
出てきそうになった言葉を呑み込まずにはいられなかった。
「2人がただの友達に戻ることってあるの?」
「ただの‥友達」
「うん、そう。男と女の友情なんてないってよく言うけど。2人の間に友情なんてあるの?」
笑顔で問いかけてくる伊織君はやっぱり怖い。
時たま見るこの笑顔が、恐ろしく思えて仕方ない。
「だって今築き上げてるものって、友情じゃないよね?」
その答えはきっとイエスだ。
だけど。
この想いが実ることがないのなら、その答えはきっとノーだ。
この仲を友情で終わらせるように。
「あんまり中途半端にしとくと、あとで辛い目に遭うよ。早いとこ澪を捕まえとかないと」
ね?と笑った伊織君の顔は、いつもと変わらない愛嬌のある笑顔だった。
ふっと自分の緊張が解けたのがわかる。
私は知らないうちに緊張していたみたいだ。
「それって、助言?」
それとも。
それとも、それは、牽制?
ねぇ、伊織君はどういう思いでそれを私に言ってるの?
「…前の俺なら牽制の意味で言ってたかもな」
「今の伊織君は?」
「どっちだろうね?」
伊織君は私の疑問に疑問で返す。
その時の伊織君は、すごく迷いがある表情をしていて曖昧に笑っていた。
「陽向ちゃんと一緒にいることが正解だと思わせてほしいね、俺は」
「…それって」
「俺に答えが出せるわけじゃないから。ただ、澪は俺の友達だから。澪に害があると思ったら、俺は引き離すよ、全力で」
曖昧に笑っていたくせに、そういう伊織君の目は真剣だった。
その瞳が、どことなく聖に似ていた。
友達思いで、大切な人の為なら、どこまでも酷薄になれる人。
「陽向ちゃんはどうするの?この先のこと」
「そうだね…」
そんなの考えてなんかない。
私が動いたところで事態がよくなるとは考えにくい。
それなら私が取る行動は1つだ。
「桐生に任せるよ、今は」
「澪に?」
「別に丸投げするわけじゃないよ。でも、桐生に考えがあるならそれに任せるだけ」
だめなら別の方法を考えるけど。
と、付け足すと、伊織君は小さな声で「そっか」と呟いた。
「で?あれってガセ?」
「………、」
「そっか、事実か」
「私何も言ってない!」
「だんまりは肯定でしょ?」
そんなことも知らないの?というように言った伊織君の言葉に、瑛太がだぶって見えた。
「6組の思惑が思ったよりうまくいっちゃったみたいだな」
「ほんと、余計なことしてくれたよね」
6組の思惑がなかったら、こんなことにならなかったんだし。
でもポストに突っ込んどけばよかったのか…?




