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桐生に連れてこられた部屋は、黒と白で統一されていた。
なんていうか、桐生らしい部屋だと思った。
「さっきからずっとあんな感じ」
「あの2人?」
それってすっごい面倒くさいんじゃない?と言えば、桐生は顔を顰めながら頷いた。
多分だけど、2人のいいおもちゃにされてるんだろうな。
「まったく寝る気ないっぽい」
「あー‥朝まで飲むって言ってたもんね」
「マジでめんどくせぇ…ここ俺んちなんだけど」
そう言いながら桐生は扉の向こうにいるだろう2人に向かって睨んだ。
そんな桐生に苦笑していると、桐生は少し乱れていたベッドの布団をきれいにして私を見た。
「寒い?」
「まぁ冬だしね」
「そういうこと聞いてるんじゃないんだけど」
私の答えに苦笑した桐生は、エアコンで煖房を入れてくれた。
「タイマー設定だけしとく」
「ありがとー、なんか勝手に押しかけたのに悪いね」
「いいよ、ここに無理やり連れて来たの、姉貴だし」
まぁ否定はできないんだけど。
みなみさん、私のこと妹認定しちゃったし。
「むしろ悪かったな、家に帰してやれなくて」
そう言った桐生は、整えたベッドの上に座り込んだ。
それにならって、私もベッドの上に座る。
「今更だってば。私もちゃんと言ってなかったし、おあいこってことで」
そうでも言わないと、なんかどっちが悪いってずっと言い続けそうだ。
桐生はまだなにか言いたげだったけれど、私がもう一度「おあいこ」と言うと、渋々って感じではあったけれど頷いた。
「兄貴、許してくれたの?これ」
「‥許すどころか、」
お年玉だとか言って恩着せがましく泊まるのを推奨してきたっての。
どこの家にそんな兄貴がいるよ?
妹に男の家に泊まってこい、なんならなんかあったらいいなって、どうかしてると思うんだけど。
「神崎?」
「‥ごめん、ちょっと思い出してイラついた」
「眉間にしわ寄るくらいイラついたのな」
「嘘、寄ってた?」
「よってたよってた。可愛い顔が台無しなくらい」
「可愛くないんで問題ないですー」
旭に小さいころからブサイクたら可愛くないたら言われてきているのだ。
そんな言葉で簡単にコロッといかされる私ではない。
「神崎って自分で思ってるより可愛いよ?」
「…冗談きついんだけど」
「冗談じゃなくてけっこうマジな話。まぁ可愛いってよりは美人だけど」
「うっそだぁ!散々可愛くないって言われ続けてきたもん!」
「誰に」
「旭とか?」
「ほかには?」
「‥‥ほか?…うーん」
やだ、旭しかいない。
いやでも旭ってけっこうなウェイト占めてるよね?
高校に上がるまでは四六時中一緒にいたもんね、私達って。
影響力すごいんだから。
「お前、世間一般に言えば、顔がいい部類に入るから」
「入らない」
「いや入るから。10人中9人はそう言うから。認めろ」
そう強く言った桐生の顔には「信じらんない」と書かれていた気がした。
なんか言いくるめられたみたいですっごいやなんだけど。
私の顔がいいとかありえないんですけどー。
「なんで自分の兄貴の顔がいいのに、自分の顔は平々凡々だと思うわけ」
「いやー‥なんていうかさ。いつも旭のことしか言われなかったから」
旭君ってかっこいいよね、とか。
旭君のこと好きなんだ、とか。
旭君と仲とりもってほしいな、とか。
「それ、向こうも同じように言われてたと思うぞ」
「えー‥そうかなぁ」
「そうだって。お前さ、無自覚なとこもあるけど、その無防備なところ、なんとかしたほうがいいと思うよ」
無防備?
私が?
……あれ、なんか似たようなこと、ちょっと前に伊織くんに言われたような。
なんだろう、すっごく既視感を覚える。
「伊織に言われたの、覚えてるよな?」
頭の良いお前なら、と厭味ったらしく後付した桐生はじとーっと私を見る。
その視線がなんだか居た堪れなくて、すいーっと桐生の方から目をそらした。
って、目そらしたら覚えてますって言ってるようなもんじゃん!
「覚えてないわけじゃないけど、」
「けど?」
「忘れてた」
そう言うと、桐生から盛大なため息が聞こえてきた。
だって仕方なくない?
同い年の男の兄妹がいたら、同い年の男の子への対応って近くなっちゃうもんじゃない?
「でも無防備だからって、なんか問題が起こったわけでもないし」
「…ふぅん?問題が起こればなんとかなるわけ?」
「‥…へ?」
桐生の雰囲気が変わった気がした。
それに気が付いて、桐生を見ようとしたけど、気付けば私の視界には部屋の天井がうつっていた。
そしてそれと一緒に、桐生の顔も見えた。
……あっれ、押し倒されてる‥?
「…桐生?」
「無防備すぎてムカつく」
「は?」
なにその理由。
理不尽すぎやしませんか。
「‥‥桐生、」
「もっと他にも座るとこあるじゃん。なんでわざわざ俺の横になんて座んの?」
「え‥それは、」
そんな行動に、きっと意味なんてない。
意味なんてないんだろうけど、でもきっと、桐生の隣に座りたかったっていう気持ちはあった。
それが桐生に言えたら、どんなにいいだろう。
「神崎もっと自覚して。…頼むから」
桐生の声は弱々しくて、目に映った桐生の顔は今にも泣きそうだった。
そんな表情を見たことがなくて、そんな声を聞いたことがなくて、私はその言葉に頷くしかなかった。




