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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
92/145

91:

見慣れない浴室。

使い慣れないシャワー。

普段と違うシャンプー類。


ありえない。

ありえない。

ありえない。

マジでありえない。


頭の中で同じ言葉がぐるぐるとまわる。

まわってまわって一周して、また同じことを考える。

無限ループってこういうこと?ってひとりで納得してみたり。


「なんでこうなった。私のせいか?私のせいなのか?」


ひとりで悶々と考えて、悩んで、そして撃沈。

そしてまた考える。

もんもんもん。

もんもんもんもんもんもん。


「あーもー、ありえない。ありえなさすぎて無理」


完全にキャパオーバー。

どんなベタな少女漫画でも付き合う前にお泊りなんかしないぞ。

少女にあるまじきことだな。

ていうかこれじゃあお嫁に行けない。

まぁそんな乙女チックな思考持ち合わせてないんだけど。


「だいたい、」


あの男は何を思って私をここに泊めたんだ。

下心?

単なる親切心?

前者であってほしいと願う自分と、それもどうなんだと思う自分。

桐生は何を思ってこうしたのだろう。

その答えが、ほしい。

真意が知りたい。

彼は私のことを、どう思っているのだろう。

知りたいくせに、知りたくない。

怖がってる自分がいる。

だってこれを知ってしまったら、私は桐生のそばにいられなくなる。


「…って、始めはそうする予定だったっけ」


諦めるから離れる。

離れないと諦められない。

だから、さよならをしたあの日から桐生とは会わなくなったのに。


それが実際どうだ。


離れられない自分がいて。

桐生の横にいたがっている自分がいて。

このままでと、願っている自分がいる。

諦められない。

どんどん好きになる。

だけど好きが大きくなるにつれて、どんどん辛くなる。


「…あがらなきゃ、」


のぼせてきちゃった。

なんだか頭がボーっとしてきた。

ヤバいと思って湯船から体を出して、浴室の扉を開けた。


「……え?」


浴室の扉を開けた私の目に飛び込んだのは、タオルを抱えた桐生の姿。

……え、桐生って♂、うん‥♂。

やだ、頭回らない。


「うっわ、ごめん!」


その言葉で我に返った自分。

そして気付く。

私今、なんも身につけてない。


「やだ、!」


桐生はすぐにドアを閉めて、扉の向こうで何度も謝る声が聞こえた。

その声を聞きながら、また頭の中でありえないを連発する。

見られた‥‥!

しかも、全裸っ!

信じられない…。

これは本格的に私お嫁にいけないんですけど。

ため息をついて、私は桐生が持ってきたタオルで体をふく。

そしてさっきみなみさんから(勝手に)借りた下着をつけて、桐生に借りたスウェットを着た。

まー、ダボダボ。

袖とか指先すら見えないんですけど。

あいつどんだけでかいの。


「…桐生?」

「な、に」

「その…なんていうか、見た、よね?」


これで見てないってほうがあれだけど。

とりあえず確認はしておきたい。


「‥‥ごめん」

「や、その、私が気付いてなかったから」


絶対ドア開ける音とかしたと思うし。

考え事しすぎたかな。


「俺も、その、まだ上がってこないと思ってたから。…ごめん」


遠慮がちに言ってくる桐生の言葉を聞きながら、私はドアノブに手をかけた。

…開けても、大丈夫だよね?ね?


「おさき、」

「‥…おお、」


桐生はドアを背もたれにして座っていたみたいで、ドアを開けてすぐに桐生の背中があった。

私を見上げた桐生の顔は少しばかり赤らんでいた。

まぁ私も顔赤いと思うんだけど。


「でかいな、やっぱこれ」


そう言って桐生はダボダボのスウェットのズボンを引っ張った。

別に引っ張られたくらいでずり落ちるわけでもないので、勝手に引っ張らせておく。


「まぁ男物だし、桐生もこれでかいんでしょ?」

「大きめを買ったからな」

「なら仕方ないんじゃない?」


というところで会話終了。

やばい、さっきのことがインパクトでかすぎて話題がない。

こういうときってどうしたらいい?


「‥あ、ドライヤー使う?」

「貸してもらっても?」

「そこにあるの使って」


そこ、といって指をさした先を見ると、確かにドライヤーがあった。

それを借りて、私は短めの髪をドライヤーで乾かす。


「あ、そういえば、リビングどんな感じ?」

「…入らねぇほうがいいぞ」


お酒を飲んでる2人の様子を聞いただけなのに、桐生はなぜか顔を顰めた。


「すっげぇ酔ってる。明日は非番だからってとことん飲むらしい。さっきから度数の強い酒からなくなってる」

「うわー、あの2人って酒豪だったんだねー」


一条さんなんかお酒弱そうに見えたのに。

人って見かけによらないんだね。


「今はただの飲んだくれだから、近付かないほうがいいぞ」

「だーれが飲んだくれだって?」


リビングのドアが開いて、そこから一条さんが顔を出していた。

少し頬が赤らんでいるだけで、めちゃくちゃ酔っている人には見えない。

ただすこーし呂律がまわってない。


「こんなところで密会かー?」


と、お酒を飲んでやたらと陽気になっているらしい飛鳥さんまで顔を出してきた。

こっちはほどほどに顔に出ているみたいで、ほっぺが赤くなっている。

とりあえず、自分の父親がそうであるように、酒に酔った人間は面倒くさい。

面倒くさいの一言につきる。


「神崎髪乾いた?部屋案内するから」

「え?あ、うん」


桐生は私の腕を引っ張ると、2人の前を通り過ぎて、自分の部屋のドアを開けた。

背中から、


「青春だねぇ」


とかいうジジ臭い言葉が聞こえてきた、そんな気がした。









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