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「すまん!てっきりここから近いのかと思ってた!」
ズザァーという音が聞こえてきそうなほど、潔い土下座を見せてくれた2人の体勢を直して話を聞くと、どうやら勘違いをしていたらしい。
いや確かに、家の場所言わなかったけど。
でも11時前には帰してよ。
何かあったらどうすんのさ。
「ここより学校の方が断然近い」
「うわー‥マジか。ほんっとにごめん!」
「いや、別にいいんですけど、」
いや全くよくないんだけどね、実際。
でもいいって言っておかないと、なんかまた土下座でもしそうな勢いだし。
そう思っていたのがばれたのか、桐生はため息をつくと私の頭を小突いた。
「なんもよくないだろ。お前今日どうすんだよ」
「‥‥どう、しようかなー。時間が時間なだけに友達の家は無理だし…近くのビジネスホテルか漫喫?」
お金もかかるし漫喫かなぁ。
あーでもビジネスホテルでもいいかもしれない。
ベッドもあるし、しっかりと休める。
「兄貴に迎えに来てもらえば?」
「‥旭…じゃなくて日和に?うーん無理かな。日和学校にいると思うし」
それに日和は電車通学だ。
終電が行っちゃった今じゃ迎えなんて無理だ。
やっぱりビジネスホテルだな、これは。
「お前この時間から、それも高校生がビジネスホテルって…補導されても文句言えねぇぞ」
「桐生にだけは言われたくない」
「「間違いないな」」
「帰れなくなった原因をつくったあんたらに言われたくない」
桐生のその言葉に小さくなっていく飛鳥さんと一条さん。
「ラブホよりマシでしょ」
「……そうだな」
「何その間」
「いや、何でも」
いや明らかになんかはあるでしょ。
意味深すぎるんですけど。
「つーか予約取ってないのに行けんの?」
「あ、やっぱ無理?」
「俺使ったことないから知らねぇけど、どこのホテルも予約はいるだろ」
うーん、やっぱり予約がいるのか。
部屋空いてますか?って聞いていけるかなとか軽く考えてたのに。
「じゃあやっぱり漫喫か‥」
肌荒れそうだなー。
明日までお風呂も我慢か。
「つーか泊まれば?」
「は?」
「‥飛鳥さん?」
いきなり何言ってんすか。
目が点になってる飛鳥さん以外の人は、飛鳥さんのことをじっと見る。
飛鳥さんは飛鳥さんでひとりで納得しているのか首を縦に振っていた。
「みなみの部屋で一緒に寝ればいいじゃん。あいつもう寝てるし、朝まで起きないだろうから抱きつかれる心配もないし」
「あー、ありだな、それ。危険もないしな」
いや、いろんな意味で危険だけどね、それ。
うんうんと頷き合っている2人とは対照的に、桐生は困ったような顔をしていた。
「桐生?」
「姉貴の部屋って確かベッドじゃなかった?」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「うちんち、敷布団ってないよ?」
「は?この前まではあっただろ」
桐生は飛鳥さんの言葉に、うーんと首をひねって考える。
「いやさぁ、ちょっと前に姉貴が来たときに、何を思ったのか洗濯始めてさ。布団ずたぼろ」
「………マジか。…みなみならやりかねないけど」
「否定できないあたりが空しいな、」
「だから2人の布団もないよ」
「いやー俺らはそれでもいいんだけどよ。明日は非番だから飲んで過ごすし」
「じゃあ2人はリビングでいい?っていかいいって言わなきゃ追い出す」
反論は許さないとでもいうような言い方に、一条さんはため息と一緒に苦笑を漏らした。
「…澪ってやっぱり西遠の弟だよな」
「そんなところで再確認しなくていいから」
「で?どうすんの?」
「俺もここで寝るから、神崎悪いんだけど俺の部屋で寝てくれる?」
………へ?
俺の部屋で寝てくれる?
「え、嫌です」
「考える間があったわりに答え出すの早いな」
いやいやいやだって考えてみ?
私が家主のベッドで寝て、家主がリビングで寝るっておかしくない?
ていうかそもそも、女子が男子の部屋で寝るって間違ってない?
「じゃあこのオッサン2人に付き合わされながら一緒に寝るか、姉貴のベッドで抱きしめられながら一緒に寝るか、俺の部屋で快適にひとりで寝るかだったらどれがいい?」
「…なんか選択肢に偏見が見えるんですけど」
言い方に偏りがあるように見えるのは私だけ?
ていうか選択肢その3つ?
「漫喫、」
「却下」
「なんで!?」
「なんでも」
「いや理由になってないんですけど!?」
なに却下って!
却下される理由がわかんないんだけど!
「うーん、俺も澪の意見に賛成かな。帰れなく原因をつくっちゃった俺が言うのもあれなんだけどさ。危ないよ、こんな時間に女の子ひとりで漫喫は」
「確かにな。何があるかわかんねぇし。泊まってけば?澪の部屋使えばいいよ」
そんなおさないでください。
男子の部屋になんて泊まれません。
それこそ何があるかわかんないじゃないですか。
「澪、風呂の準備ってできてんの?」
「とっくにできてるよ。ていうか2人も酒入ってるのに入れんの?」
「なめんな。これくらいじゃ倒れねぇよ」
「はいはい。倒れても助けてやんねぇからな」
「じゃ、陽向ちゃんからお風呂使ってくれる?」
にっこりと優しい笑みを向けて言ってくれるけれど、それって私がここに泊まるの決定なの?
私の反論はどこいった。
「つーことだから。大人しく泊まってけ」
「‥…信じらんない」
まさか泊まることになるなんて。
それも好きな男の家に。
‥‥ありえないんですけど。




