89:
ワイワイガヤガヤと。
飛鳥さんと一緒に作ったおせちをみんなで食べて。
みなみさんが買ってきたお酒を私と桐生以外が飲んで。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
現在、夜の11時過ぎ。
そろそろ帰らないと終電を逃す。
すっごく帰りたいんだけど、帰りたいなんて言い出せないし、まず酔ったみなみさんが私を放してくれない。
お願いだから帰らせてー。
「完全にできあがってるな」
「だな。誰だよ、西遠にワイン飲ませたの」
「知らね。勝手に飲んだんじゃねぇの?気付いたらワインのボトル空になってたし」
ワイングラスを片手にそんな会話をする一条さんと飛鳥さん。
桐生はじゃんけんで負けてコンビニに買い出しに行かされている。
未成年だけどお酒って買えるのかな。
「見てないで助けてくれません?」
終電あるんです、私。
この家がいくら駅近だといっても5分以上はかかるんです。
そろそろ出ないと、私ほんとに家に帰れないんですけど。
「酔ったみなみ何とかできる人間見たことない」
「寝るまでの我慢だよ、陽向ちゃん」
「それさっきも聞きました!あれから30分は経ってますけどみなみさん元気なんですけど!」
みなみさんは酒に酔うと抱きつき癖があるらしく、特に女の子には恐ろしいほどの執着を見せるんだとか。
旦那の飛鳥さんからしたら何の危険もないし、好きにやってって話らしいけど、抱きつかれてる私からしたらたまったもんじゃない。
「私ずーっと妹ほしかったんだもーん」
ウフフーと笑って言うみなみさんは、最高に可愛らしいんだけど、いかんせん巻きつく腕の力が半端ない。
食ったもの全部出そう。
でもって勝手に妹認定しないでほしい。
私も男兄弟ばっかだったから、お姉ちゃんほしいとか思った時期あったけど。
でも、それとこれとは別だ。
「妹ができたら、一緒に買い物行って、一緒にランチして、いーっぱいお話しするって決めてたの!」
みなみさんは、まるで小さな子どもが駄々をこねるような言い方をして、ぎゅーっと私に抱きついてくる。
もう最上級に可愛いんだけど、力は可愛くない。
そこはやっぱり警察官なだけある。
「みなみさん、それは今度しましょう。私もう帰らないと、」
「や!陽向ちゃんともっといるー」
帰らないとやばいんですー!
終電の時間まであと10分を切ってるんですってば!
「みなみ、わがまま言うのはそのくらいにしとけ。陽向ちゃん困ってんだろ」
ため息まじりに言った飛鳥さんは、私に抱きつくみなみさんをひきはがそうと両手を掴む。
が、そんな飛鳥さんに蹴りくらわして、みなみさんはきつく抱きしめる。
いや、マジか。
旦那に向かって、躊躇なく蹴りいれるとか。
嫁のすることじゃないよな。
しかもクリーンヒット。
「あーあー、もろに食らってやんの。西遠が空手の有段者だって忘れんなよ」
「え、そうなんですか?」
「そうだよー。だから陽向ちゃんも守ってあげるねー」
ほわほわしながら可愛らしく言われても全く説得力無いんですけど。
それよりも早く解放してほしいんだけど。
何でこういう時に限って桐生買い出しになんて行ってんの。
はよ、帰ってこんかい。
「‥みなみてめぇ、」
「いちゃつくなら奥の部屋でどうぞー」
「やーだ!陽向ちゃんと離れないもん!」
あーもー、なんかもうどうにでもなれ。
会話成立してないし、なんかすっごいカオスだし、収拾つけられないし。
だいたいもう電車間に合わないし。
どうするよ、私。
と、悶々と考えていたら、急に締め付けていた力が弱まってぽたりと床に落ちてしまった。
「‥みなみ、さん?」
「お、寝たか。これで静かになるな」
「世話のかかるやつ」
「そういうのを嫁に選んだのはお前だろ」
すやすやと規則正しい寝息を立てて私の背中にもたれかかって寝るみなみさんは、今までで一番可愛いかもしれない。
きっと小さいころとか天使みたいって言われてたんだろうな。
「……神崎?え、お前なにしてんの?」
「聞かないでよ、それ。困ってんのはこっちなんだから」
リビングの扉が開いて、中に入ってきたのは買い出しを済ませた桐生だった。
未成年なのにしっかりとお酒は買ってきてる。
そしてそれをお礼を言って普通に飲み始める警察官僚。
…いいのか。
いいのか、それで。
「で?お前なんでいんの?」
「私だって帰れるもんなら帰ってたわよ」
「みなみの餌食になった」
「‥助けてくれなかったからじゃないですか!」
助けてくれてたら、私だって今頃電車に揺られて家まで帰ってる。
「いや意味わかんない」
「西遠、気付いたらべろべろに酔っててさ。陽向ちゃん放さなくなっちゃって」
「あー‥おっけ理解。姉貴の被害者ね。え、でもお前どうすんの?」
買ってきたものを机にひろげながら、桐生は私を見る。
どうするの?と聞かれてもどうしようもないのが現実だ。
だいたいそれはこっちが聞きたい。
「澪が送ってけばいいだろ」
「そうそう。俺ら酒入ってるから何かあっても対応できねぇし」
一条さんと飛鳥さんはそう言うと、桐生が買ってきたつまみを開けだした。
どうやらこれからここで飲み会をするらしい。
「…送るってどこに」
「家しかないだろ」
「‥いや無理だろ」
「なんで?お前暇だろ」
「いや暇とかそういうのじゃなくって。終電行っちゃったし」
ちらりと時計を見る。
最寄駅の終電の時間帯はもうとっくに過ぎている。
だから早いこと帰りたかったのに。
桐生がそう言うと、それを聞いた2人は顔を見合わせて、頭の上にハテナマークを浮かべる。
「え、ちょっと待って。今理解するから」
「何をだよ」
飛鳥さんと一条さんはうーんと考えて、ハッとなにかを思いついたのか、私の顔を見た。
「…もしかして家、ここから遠い?」
「この近辺じゃないの?」
「‥ここから2駅くらい離れてますけど、」
という私の言葉を聞いた2人は、お酒の勢いも相まってか、いきなり土下座を始めた。




