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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
88/145

87:

「陽向ちゃん、悪いんだけど伊達巻って作れる?」

「作れますよー。出汁巻じゃなくていいんですよね?」

「そ、甘いやつ。頼むね」


はい、と私にはんぺんと卵を渡した飛鳥さんは、コンロの方へと向き直って筑前煮を作っていた。

煮物のいいにおいがして、たまに飛鳥さんの鼻歌らしきものまで聞こえてきた。

料理作るの好きなんだなーとか思ったり。


「伊達巻終わったら、紅白なます作れる?」

「了解でーす」


でも味付けは我が家の味付けになりまーす。

そこんとこご了承くださーい。

とは、言わないで黙々と伊達巻を作っていく。

個人的には伊達巻より出汁巻の方が好きだったりするんだけど、正月と言えば伊達巻だって人が多い。

あんまり甘いの好きじゃないんだよね、私。


「へぇ…うまいね」

「え?そうですか?正月っていつも手伝わされてたからですかね」


母がすぐに手を抜きたがるから、いつも私がいろいろ作らされてたんだよね。

そのくせ、自分はしっかりおせち食べるし。


「澪もいい嫁見つけたなー」

「じょ、冗談やめてくださいよ!私と桐生はほんとに何もないですから」

「ふぅん?」


飛鳥さんは顎をさすりながらきょどる私を見る。

思わずその目から自分の目をそらしてしまったのは不可抗力だと思う。


「何もない、は嘘でしょ」

「え、」

「澪って普段猫かぶってるのにあんたの前じゃ全然だし。何かはあったでしょ」

「‥なにも、ないですよ」


ちらりと桐生の方を見る。

桐生はみなみさんと一条さんに挟まれて、何かを問いただされているみたいだった。

必死に抵抗してる桐生が、いつもより子供っぽく見えて、つい自分の頬が緩んでしまう。

それを隣に立つ飛鳥さんが見逃すはずもなく。

飛鳥さんは「へぇ」という言葉を漏らした。


「好きなんだ?澪のこと」

「え!?な、なんでそうなるんですか!?」


思わず巻いている伊達巻を握りつぶしちゃいそうになった。

何言ってるんですか、という意味を込めて飛鳥さんを見上げれば、フッと優しい笑みを向けられた。


「だって澪のこと見てた時の顔、愁がみなみを見てる時と同じ顔してた」

「…え?」


それって。


「愁はみなみが好きだったんだよ。まぁ今は愁にも彼女がいるから本当に過去形だけどな」

「…なんて複雑な交友関係してるんですか」


昼ドラも夢じゃないなぁ。


「で、今の陽向ちゃんはその時の愁の顔にそっくりだった。愛しそうに、でも悲しそうに見てる感じ」

「…なんでもお見通しですね」


これもこの人が警察の人間だからか?

観察眼がめちゃくちゃ鋭いとか。

それとも私がめちゃくちゃわかりやすいとか。


「そうかー、澪をちゃんと見てくれる人がやっとでてきたか」

「ちゃんと見てくれる人、ですか?」

「…ここだけの話な。澪、顔だけはいいからさ、周りの女が放っとかないんだよ。おまけにあいつ頭もいいから将来的にはいいとこまでいけるだろうし」


そう言いながら、飛鳥さんの手は着々と重箱に料理を詰めていっている。

なんていうか手際のいい人だなぁ。


「あいつのスペックに惚れる女が多かったんだよ」

「スペックですか」


まぁ確かにハイスペックな人間だよね、桐生って。

だってついでにって感じで運動もできちゃうもんね。

あいつの頭の辞書に欠点って言葉載ってんのかな。


「そ。でも陽向ちゃんはそうでもないみたいだしな」

「…そうでもないですよ。私はただいつも近くにハイスペックな人間がいましたから。あいつが横にいなかったら、私だって周りの子と何一つ変わらなかったかもしれません」


私が特別なんじゃない。

ただ旭がそばにいて、ずっと旭を見てきたから。

ちょっと他の女の子よりそういうことに耐性がついただけ。


「そう思えるだけ、陽向ちゃんは他の子と違うんじゃない?陽向ちゃんはさ、澪のどこに惚れたの?」

「…それ今ここで聞いちゃいます?」

「なに、みんなが寝た頃に密会しちゃう?」

「ふざけたこと言わないでくださいよ」


なにが密会だ。

あやうくかまぼこ切り損ねるとこだったじゃない。


「で?澪のどこが好き?」

「どこって聞かれると正直困ります」

「なんで?」

「…私イケメンって嫌いなんです。イケメンの前で言うことじゃないですけど」


この部屋にいる男の人、みんなイケメンだからもれなく全員を否定してるっていう事実。

はい、すいません。


「でも、なんていうか、一緒にいることが当たり前になっちゃったんですよね」


桐生に出会って、いきなり呼び出されて、付き合う宣言されたあの日から。

さよならを言って、それでも諦められなくて、ぐだぐだとか細い付き合いをしてる今この瞬間まで。


「どうしようもないくらい居心地がいいんです、桐生の隣って」


旭とはまた違った居心地の良さに気が付いてしまった。

ワーワー言いながらも、楽しんでいる自分がいたことを知ってしまった。


「それだけじゃ、ダメですかね」


私が桐生を好きな理由には、ならないんですか。

そういう意味を込めて飛鳥さんの方を見ると、飛鳥さんはさっきと同じような優しい笑みを向けてくれた。


「マジで澪にはもったいねぇな。俺が今フリーだったら確実に狙ってるわ」

「イケメンは守備範囲じゃないんです」

「同じセリフを澪にも言ってみろよ」

「同じ言葉じゃないですけど似たような言葉で実証済みです」


伊織君にも言った気がする。

仕方ないじゃない、たまたま惚れた人の上に乗っかってた顔がイケメンだったってだけなんだもん。

乗っかってる顔が平凡であっても惚れてたと言い切れる自信はある。


「あー‥‥言っちゃってるわけね」


私の言葉を聞いた飛鳥さんは、なんでかよくわからないけれど複雑そうな顔をして桐生を見ていた。










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