84:
「まぁすごい人ではあるんだけどな」
「凄い人?」
「ああ。警察学校を首席を死守して卒業。あれ、ああ見えて公安の人間」
「‥え、ここと部署違いません?」
一条さんの仕事ってどう見ても地域課だよね?
なんで公安勤めの人がこんなことしてんの?
「俺と西遠は同期でな。あいつと渡り合える数少ない人間」
「一条さんは飛鳥さんと仲が良いからだろ」
「間違いねぇ」
「飛鳥さん?」
初めて聞く名前に首を振ると桐生は思い出したのか「ああ」という言葉を出した。
「飛鳥さんってのは、姉貴と結婚した怖いもの知らずの人」
「怖いもの知らずってわけじゃないけどな」
「飛鳥さん」
「飛鳥。……お前なんでここにいんの?」
聞きなれない声に顔をあげると、扉に背を預けて立つもっさり髪のイケメンが立っていた。
一条さんみたいに制服を着てるわけじゃなくて、スーツを着ていた。
「お前仕事帰りか?」
「‥‥ああ。さっきみなみから連絡が来た」
そう言ったもっさりイケメンはあくびをかみ殺して桐生を見た。
「澪またなんかやらかしたんだって?みなみが怒ってたぞ」
「俺じゃねぇっての。勝手に向こうが突っかかってきたんだって」
「それで応戦してたらキリがないだろうが」
「じゃあ大人しく殴られろって?」
冗談じゃないと言った桐生は鼻で笑う。
その様子を見ていたもっさりイケメンは呆れたように苦笑した。
頭をかきながら一条さんの隣に立って同じように煙草をくわえて火をつける。
なんていうか、2人が並ぶとすっごい絵になるなぁ。
これはモテたんじゃないか?
「しかも女の子まで巻き込んじゃって」
そう言って、もっさりイケメンは私のことを見た。
目が合ったからぺこりと頭を下げて挨拶をすると、同じようにぺこりと頭を下げてくれた。
「言ってなかったな。姉貴の旦那の西遠飛鳥さん」
「どうも。澪がお世話になってるみたいで」
いや、まったくお世話になってないし、お世話もしてないです。
なんでそんな頭下げられても困ります。
「で、こっちが俺の同級生の神崎」
「神崎陽向です」
「陽向ちゃんね。ごめんな、義弟が迷惑かけて」
「いえ、全然」
迷惑って思ってますけど。
私ただ通りすがっただけなんだもん。
「聴取は終わったのか?」
「終わったつーか、どうせいつものごとくねじまがった感じで出来上がってくる」
「はー‥またか。澪もいい加減にしろよな」
「だから、」
「自分からじゃない、だろ?でもこうやって関係ない人まで巻き込んでんだからいい加減反省しろ」
そう言った飛鳥さんは煙草の火をもみ消して、フーッと白い息を吐き出した。
なんかすごい様になるなー。
「にしてもどういう関係だ?お前ら付き合ってんの?」
「「まさか」」
「お、かぶった。気は合うんだな」
いいこと、いいことと言いながら飛鳥さんは頷く。
その様子を見ていたら隣から視線を感じて、ちらっと見てみると桐生にすっごく見られていた。
「兄と初詣に来てたんですけど、ちょっとした好奇心が働いて巻き込まれちゃった感じです」
「…おい、巻き込んではないだろ」
「いやいや、こうなってる時点で巻き込んでるでしょ」
本来なら、今ごろ旭と初詣済ませておみくじ引いて甘酒飲んで帰ってるわよ。
「神崎が逃げればよかったんじゃん」
「逃げればって…誰だってここまで付き合わされるなんて思ってないから」
「じゃあ神崎にも非があるだろ」
「はぁ?元はといえばあんなとこで喧嘩するからでしょ?なんであんたって私の行くとこ行くとこで喧嘩すんのよ!?」
「あ、バカ、それ言ったら、」
がたっと音を立てて慌てた桐生はとっさに私の口を塞いだ。
が、みなまで言っちゃったから時すでに遅しで。
さっきまで煙草をふかしていたお兄さんたちの方から、なんとも言えない雰囲気を感じた。
「それどういうことかなー。詳しく話してもらおうか」
「ここに椅子がもう1つあることだしなー、俺もその話に参加しようかな」
ガタガタと、席につきだした2人に桐生はぎろりと私を睨みつける。
え、そんな言っちゃいけなかったの?
「澪、お前もう喧嘩はしてないって言ってたよな?俺の記憶が正しけりゃ、1か月前にそう聞いたんだけど」
「そういや、何件か高校生同士がけんかしてるっていう報告が上がってたな」
「で、今の陽向ちゃんの言葉とお前の焦り様」
「どう見ても黒だな」
なんつー連携プレー。
なんていうか、逃げ場を1つ1つ潰されていく感じ?
すっごく居心地悪いっていうか精神的に辛いっていうか。
「神崎のバカ」
「え、私のせい?」
「それしかないだろ!」
桐生は舌打ちをついて、ブラック王子様モード全開で、目の前に座るお兄さん2人を睨みつける。
いつも余裕綽々の桐生しか見てないせいか、焦っている桐生は、なんだか珍しいものを見ているようだった。
「陽向ちゃんにあたるな」
「陽向ちゃんは何回見たことある?」
「えーっと」
これで4回目です、と答えようとして、隣からすっごい視線を感じた。
言ったら殺すくらいの、すっごく物騒な視線。
口は災いのもとってこういうこというのかぁ。
「言ってくれていいよ」
「そうそう。それがこいつのためだから」
とは言ってくれるけど、隣からの圧力半端ないです。
すっごい負のオーラまとってくれてるんですけど。
「まぁ答えようが答えまいが怒るんだけどな」
ハハッと笑いながら言う飛鳥さんの言葉に、ちょっとだけだけど、私を恨めしく睨む桐生に同情してしまった。




