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こんな場面、前にもあったなぁとか。
これがこいつとの出会いだったんだよなぁとか。
あの時生徒手帳落としてなかったらなぁとか。
目の前の光景を見ているだけで思い出すことはたくさんあるって残念。
なによりも
喧嘩してる場面に遭遇して、こんな感慨にふけってる私って残念だよね。
しかもこれが何の変哲もない1日の終わりだとか。
学校の中でのできごとだとか。
それならまだいいのだけれど。
新年早々、これってどういうこった。
「‥夢で富士山見たのに」
縁起がいいんじゃないのか、くそ。
なんで新年早々、初詣に行こうと思って家から出た矢先。
神社のちょっと木々が茂った場所から物音聞こえるなとか思って向かった私。
出くわしたのがけんか。
もうありえなーい。
しかも喧嘩してる本人が、学校1有名な王子様。
やだ、デジャヴ。
「…もっと私の知らないところでやれっての」
これでこの男のけんかする場面を見るのは4度目だ。
…自分で言ってて思ったけど、けっこうな回数見てるね。
なんでこう、見えないところでやってくれないんだろう、ほんと。
今なんて、まだお昼にも達してないんだよ?
「こら、お前たち何してるんだ!」
ぼーっと、茂みに隠れることもなく、桐生がこわもてのお兄さんたちをのしているを見ていると、ガサガサと誰かが声を出しながら来るのが聞こえた。
大きな音とともに出てきたのは、見覚えのある青色の服を着た30代くらいのお兄さん。
………て、警察じゃん!
そりゃあそうだよね!
普通、警察来ますよね!
「…あ、一条さん」
「澪、またお前か!」
桐生は胸倉をつかんでいた手をパッと簡単に離して、焦ったようにやってきた警察官の名前を呼んだ。
つーか知り合いかよ。
しかもあの警察官のお兄さん、桐生に向かって『また』って言ったよね。
『また』ってどういうこと。
「一条さん、明けましておめでとう」
「うん、おめでとう……じゃねぇよ!お前新年早々なにやってんだ!ちょっと来い!」
にこやかにあいさつをした桐生を一条さんという人は引っ張っていく。
「てめぇらも立て、オラ」
「いって!なにしやがる!」
「あ?なにお前ら。俺にたてつこうっての?」
‥なんだろう。
一条さんって人、その辺のチンピラより怖い。
実はやくざが本職なんです、とか言われてもなんか頷けちゃうんですけど。
「とっとと行くぞ。…君もとりあえず来てもらおうかな」
ね?と、さっきの恐ろしい顔とは一変して優しい笑みをして、一条さんは私に言った。
「‥…え、私?」
私、傍観者Aですけど。
「こいつらの意見だけじゃ偏りがあるから。君、ずっと見てたでしょ」
「いやー‥見てたっていうか…そもそも途中からだし、」
「うん、それでも来てもらおうかな。さ、こっち来て」
紳士的にエスコートしてくれてるんだけど、なんでだろう。
喧嘩してた人達に警察官だからかなぁ…私すっごい居心地悪い。
何も悪いことしてないのに、補導されてるって。
「陽向?」
「げ、旭」
「げ、とは挨拶だな。お前なにやってんの?とうとうなんかやらかした?」
「なんもやってない!ちょーっと巻き込まれただけ!悪いんだけど、昼ごはん自分で何とかしてくれる?」
一緒に初詣に来ていた旭にそういうと、旭は「わかった」と言って、私から桐生の方へと視線を変えた。
それは今まで私に向けていたものと違っていて、どちらかというと睨むに近かったかもしれない。
「旭?」
「なんでもない。じゃあ俺帰ってるから。迎えいるなら連絡して」
旭はそう言うと、どこかへと行ってしまった。
‥迎えいるならって。
今までそんなこと言ったことないくせに。
どんな心境の変化よ‥。
「話終わったか?じゃあこれから帰るぞ」
「帰る?どこに?」
「交番」
「私、巻き込まれただけなんだけどなぁ」
自然とため息がこぼれた。
その様子に苦笑した警察官のお兄さんは、私の後ろでいがみ合っている桐生と強面のお兄さんたちを睨みつけた。
「お前ら向こう着いたら、西遠とこ行け」
「「「え!?西遠!?」」」
「なんだ、嫌か?警察署随一の美人警官だろうが」
西遠という名前を聞いただけで、お兄さんたちはすっごく大人しくなった。
その様子を横目で見ていた桐生は、何とも言えない顔でため息をついた。
「さ、着いたぞ。西遠もさっき連絡しておいたから出てるはずだ」
一条さんの言葉に、警察署の入り口を見ると、確かに青色の制服を着た女の人が立っていた。
セミロングの茶色い髪をした、儚そうにも見える女の人。
だけどその顔にはどことなく見覚えがある。
「悪いな。こいつら頼むわ」
「え、こっちなの?」
聞こえた声は鈴が鳴ったような可愛らしい声。
だけど少しだけ、不服そうな色が見えたのは間違いじゃないだろう。
その人は唇をとがらせて、一条さんを見上げていた。
あーもー、マジ可愛い。
「わかったわ。‥あら、女の子もいるの?」
「この子は参考にだ。こいつらの喧嘩に居合わせてた」
「そう。新年早々、災難だったわね」
そう言った女の人は私から男ほうへと視線をずらしていく。
同じように視線をずらしていくと、俯いている人たちの中でただ1人だけそっぽを向く男がいた。
向こうを向いていてどんな表情をしているかはわからないけれど、桐生を見るお姉さんはにこやかな笑顔を向けていた。
…なんだろう、既視感。
この嫌な汗がぶわっと出てくる感じ。
ああ、あれだ。
桐生とか聖とか、真っ黒な笑顔を向けられた時だ。
「なに、」
ぼそりと呟いたのは桐生だった。
お姉さんは綺麗な笑顔を携えたまま、桐生の前にまでやってくると笑みを深めて言った。
「謝罪のひとつぐらいしろや、ボケ」
…………。
えっと。
今のすっごいドスのきいた低い声はあの女神みたいな笑顔をしたお姉さんが言ったんだよ、ね?
それであってるんだよね?
嘘だって言ってほしいんだけど。
「高校生にまでなって手間かけささないで。それとも怒らしたいのかなー?」
「‥西遠、それくらいにしとけ。桐生も行くぞ」
一条さんは黙ったままの桐生と、お姉さんの変貌ぶりに驚いている私の腕を引いて署の中に連れて行った。




