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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
82/145

81:

MIO side



「バカ澪」

「開口一番がそれってどういうこった」


除夜の鐘が遠くで聞こえている、大みそかの23時。

「今から行く」という5秒にも満たない言葉を電話で一方的に寄越した俺の悪友、伊織は玄関を勝手に開けるとそう言った。

もっと他に言うことあるだろうが、という文句を呑み込んで、俺は伊織を部屋の中へ通す。

寒そうにしている伊織にコーヒーを出して俺はソファに座る。

伊織もソファに座って、コーヒーを飲んだ。


「なに?」


コーヒーを飲みながら、伊織は俺の方をじっと見てくる。

じとーっと、目だけで「お前ふざけてんのか」みたいな言葉を訴えてきてる。

鬱陶しいことこの上ない。


「部活の後輩に聞いたんだけど」


コーヒーの入ったマグカップを机に静かに置いた伊織は、いつも見せる笑顔も見せないで俺を見据える。


「お前、陽向ちゃんとより戻したんだって?」

「…………は?」


なんじゃそりゃ。

目が点になった俺を見た伊織は「違うのか?」と聞いてきた。


「違うっつーか、なにをどうしたらそんな話になるわけ?」


神崎か?と一瞬思ったけど、神崎に限ってそんなことをするわけない。

その辺のバカみたいな女はしそうだけど。


「この前のクリスマス、お前ら一緒にデートしてたんだろ?」

「いや意味わかんねぇんだけど。デートってなに?そんなのした覚え…‥あー‥?」


ない、と言い切れない悲しさ。

いやでも、でかいスーパーのレジ袋を両手に提げて歩くのってデートにはいんのか?

あれってカウントされんの?


「覚えがあるんだな」

「覚えがあるっていうか‥その日俺バスケ部に駆り出されて日暮高校にいたんだよ。で、神崎も日暮高校で練習があったらしくって。帰りが一緒になっただけだよ」


ちょっと違うけど。

その辺のことを説明したら面倒くさいことなりそうだ。


「聞いた話じゃ、街の方に向かって歩いてたらしいけど」

「…お前なに聞いたの」


そういう尋問の仕方よくないと思うんだよね、俺。

なんていうかさ、じわじわと首絞められていってる感じ。


「2人が仲良さそうに並んで歩いてたって聞いた。ああ、あと、でっかい袋を提げて歩いてたっていう話も聞いた」

「…それだけ?」

「聞きたい?」

「出し惜しみしてないで吐け」


どうせ全部聞きにきたくせに、という意味を込めて睨んでやれば、伊織は鼻でふんっと笑った。


「終電ちょい前の電車に2人でいるのを見たとか?終電に乗ってお前がこっち帰って来たとか?」

「…なんなの、お前。どっかで監視してんの?」


なんでそんなことわかってんの?


「吹奏楽部の部員数なめんな。…否定しないってことは事実なんだな」

「まぁ‥否定できるとこないしな」


だって俺、終電ちょい前の電車で神崎を家まで送って、終電乗ってこっちまで帰ってきたし。

つーか、そんな早い時間でもないのに、なんでそんなに目撃証言あるわけ?


「で、お前は合コンから逃げるために陽向ちゃんと一緒にいたと」

「なんでそんなことまで知ってんだよ」

「やっぱりか」

「は?」

「今のは俺の勘。俺のとこにも人数の埋め合わせで来てほしいっていう連絡があったんだよ」


行ってないけど、と言った伊織は鞄の中から、家から持ってきたのかお菓子を出した。

…こいつ今日帰る気ないな。


「で?お前もう陽向ちゃんとは関わらないんじゃなかったのか?」


やっと本題を切り出した伊織は、ポテトチップスをパーティ開けして食べだした。


「いやさ、確かにそう思ったよ。そう思ったし、最初は赤の他人になる予定だったよ」

「だったら、」

「でもさ、無理だったんだよ」

「…は?」

「手遅れってやつ」


神崎を切り離すタイミングを完全に見誤った。

切り離すのが惜しいと思うくらい。


「それはあれか?開き直りか?」

「まぁそうともいうなぁ」

「陽向ちゃんのためとかじゃなかったのかよ?確かほかに男いたろ」

「あれ、双子の兄貴だって。この前、日暮高校に行ったときに会った」


もし今もほかに男がいるって思ってたら、きっとこの前も一緒になんか過ごしてない。

でも、そうじゃないってわかったから。

俺がとどまっている必要はない。


「…好きにならない約束だったんじゃないのか?」

「そうだな。好きになるつもりはなかったし、向こうは嫌いなタイプだろうな」


まぁ顔はの話だけど。

イケメン嫌いな女子高生とか絶滅危惧種だろ。


「好きにならないってわかってて好きでいるつもりか?」

「好きになっちゃったもん、しゃーねぇだろ」


俺だって好きになるつもりはなかったんだし。


「お前ってそんな一途な人間じゃなかっただろ」

「博愛でもなかったんだしいいだろ」

「……本気かよ。自分で言っといて、自分で約束破るとか、」


伊織は呆れたように言って、大きなため息をついた。

それに俺は苦笑を返してコーヒーを飲んだ。


「陽向ちゃんのタイプじゃないだろ、澪って」

「顔がな」


世間一般の人間には好かれる顔してんのにな。


「いいのか、それで」

「いいよ、別に問題ない」


神崎が俺のことをどう思ってようが関係無い。

イケメンが嫌いだと言うなら慣れさせるまでだ。

俺のことを好きじゃないというのなら、


「惚れさせるまでだ」


どうやら自分でも思ってる以上に、俺は神崎が好きらしい。










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