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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
81/145

80:

「説明してもらいましょうか」


あと2日もしたら新年を迎えるだろう今日。

家の年末掃除から逃げてきた聖は、私の家のソファに女王様のように座りながら綺麗な笑みを私に見せる。

ひやりと首筋を汗が伝った気がした。


「これはどういうつもりかしらね、陽向」


これ、と言って、聖は自分の携帯を取り出してある画面を見せた。

画面にはラインが開かれていて、ある文章が書かれている。


『神崎さんが桐生君とより戻したって聞いたけどほんと!?』


情報が光速並みにはやい。

そもそも今冬休みなんだけどね。

女子高生の情報網って侮れない。


「陽向?」

「別により戻したわけじゃないんだけどねー」


ただ、なんていうか、結果的にそうなったっていうか。

いや、勝手にみんながそう思ったっていうほうが正しいんだけど。

私なにも悪くないと思うんだよね、うん。


「じゃあなんでこんなうわさがまわってるのよ。聞いた話じゃ、キスしてたって話だけど?」

「誤解だってば。桐生が後ろに引っ張ったから体勢崩しちゃっただけ!」


あんな真昼間に、それも誰が見てるかわかんないのに、キスなんてするわけないじゃん。

ていうかキスなんてするような仲でもないし。

と、自分の中で自己解決して、私はコーヒーを飲む。


「でも一緒にはいたわけね」

「…そうだね」


だってご飯一緒に食べても?って聞かれてダメとか言えないじゃん。

私だってご飯まだ食べてたんだし。

別に一緒にご飯食べてたっていいじゃない。

別れてからも仲良しな人っているでしょ。


「あんたどうしたいの?」

「どうって、」

「王子様とは付き合ってるふりだったんでしょ?」

「そうだね」

「で、今は別れちゃったんでしょ?」

「うん」

「でもあんたは好きなんでしょ?」

「…うん」

「どうしたいの?」


聖は同じ質問を最初と最後に言って、コーヒーを口に運んだ。


「好きになるわけない、なんて、なんでそんなわかんないこと約束するかな」

「だってタイプじゃなかったし」

「顔は、でしょ」

「そうだけど、」


第一印象って大事じゃない。

顔が無理って、けっこう大きい割合占めると思うんだよね。

だってその顔、毎日見ることになるんだしさ。


「だから忘れることにしたんじゃない」

「忘れてから言ってくれる?結局今も近いままじゃない」

「…それは、」

「中途半端なんだよね、今のあんたたちって」


ふぅっとため息をついた聖は、コーヒーと一緒に出したケーキを食べた。

2日ほど遅れたクリスマスケーキを旭と食べたそのあまりだ。

まぁ手作りなんだけど。


「ふったくせに関わろうとする向こうも向こうだし、離れられないあんたもあんたよね」

「まったくの赤の他人になるはずだったんだけど」


好きになるって、本当に誤算だったのよ。

もっとはやく、桐生のそばを離れられてたら、私って今こんなふうになってなかったのかな。


「あたって砕ける?」

「砕けたら意味ないんだけど」

「でもそうでもしないと、あんた踏ん切りつかないんじゃないの?」

「そりゃまぁ一理あるけど、」


でも砕けちゃったら元も子もないじゃない。


「後悔先に立たずって言うじゃない」

「もう後悔しちゃってるから」


遅いっつーの。


「だーかーら、今動かなかったら、この先後悔するよって言ってるんじゃないの」

「そうだろうねー」

「だろうねー、じゃなくって!ほんとに諦めちゃうの?」


聖の言葉に私は曖昧に首を振る。

諦めたいかと聞かれれば、答えはノーだ。

でも、諦めてるかと聞かれれば、答えはイエスだ。

自分でそう考えながら、矛盾してるなーって思う。


「忘れられないなら、好きでいたらいいじゃない。告白してみればいいじゃない」

「相変わらず簡単に言うなぁ」


確かに忘れたいと思った。

桐生を。

桐生を想うこの気持ちを。

忘れられるなら、どんなことだってするって思ったときだってあった。

だけど、聖の言う通り忘れられなかった。

気が付けば桐生のことを考えていて。

気が付けば桐生を目で捜していて。

気が付けば桐生を目で追っていた。


「忘れたいなんて強がり、いらないんじゃないの?」

「なかったものにしたかったんだけどなぁ」


そしたら、こんなにも悩まずに済んだ。

だけど、心のどこかでそうしたくないと思う自分もいて。

そう思うたびに、自分ってやっぱり桐生が好きなんだなぁと痛感させられる。


「またふりでもするの?」

「なんで?」

「これ。冬休み明けたら質問攻めだろうね」

「‥しないよ。これ以上、桐生と関係を持つのは避けたい」


もう近くなりたくない。

そばにいたら、いつかこの気持ちが溢れてしまいそうで。

そばにいたら、今よりも好きになっちゃう気がするから。

そばににたら、もう離れられなくなりそうだから。

この気持ちを、しまっておくことなんか、できそうにないから。


この気持ちが風化して、過去のことになるまでは。

やっぱりそばにはいられない。


「案外向こうも同じような気がするけどね」

「桐生に限ってそれはないんじゃない?」


だって彼は。

誰にも靡かない、難攻不落の王子様なんだから。



手が届きそうで、やっぱり手が届かない人、なんだもん。









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