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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
80/145

79:

「食ったー」

「ね。2人分にしてはちょっと作りすぎちゃった」


普段は4人分か5人分作っちゃうからね。

ちょっと分量とかわからなくなるんだよね。

使ったお皿やコップを流し台に持っていき水を流していると、桐生が残りを運んできてくれた。


「片付けくらいするよ」

「いいよ、別に。桐生お風呂いっちゃえば?」

「‥‥‥え、」

「いっちゃいなよ。私これ片付けたら帰るし」


そっちのほうが私も暇を持て余さないし、いろいろ考えなくて済む。

ね?と後押しするように言えば、桐生は少し迷った後に風呂に行く準備をしだした。

それを見送った私は、小さくため息をこぼした。


「あ、勝手に帰んなよ」


ちらっと顔だけ出してそれだけ告げた桐生は、おそらくだけど風呂場に向かった。

まさか念押しされるっていうか、釘刺されるとは思わなかった。


「‥帰んなよって、」


逃げたいよね、やっぱり。

こうやって1人になると、いろいろと頭の中を考えがめぐる。

いろいろな複雑な気持ちが心を揺さぶられる。


私はここにいていいのだろうか。

彼のそばにいていいのだろうか。

さよならをしたくせに。

関係は終わったのに。

忘れたいと願ったのは、記憶に新しくて。

この気持ちに蓋をしようと決めたのは、ここ最近の話で。


なのに。


そう思えば思うほど、彼の存在は大きくなって。

名前を聞くたびに、姿を見るたびに、締め付けられるような感覚を覚える。

私じゃない誰かと一緒にいるだけで、ちくりとした痛みを感じる。


会わない日が続けば続くほど、彼が好きだという気持ちが大きくなる。

日に日に気付かされていく。


「好きになんかならなきゃよかったね」


なんてね。

そしたら、こんなにも辛くなかったのに。

こんなにも悲しくならなかったのに。

思うことはたくさんあるけれど。

それでも強く思うのは。


私は今でも、桐生が好き。



「神崎?」

「……へ?」

「へ、じゃなくて。上がったよ。ぼーっとしてたけどなんか考え事?」


風呂上がりの桐生は火照っているのか、いつもより顔がほんのり赤かった。

少し茶色がかった髪は乾かされておらず、水が滴っている。

それがどことなくエロい。


「神崎?」

「髪くらい、乾かしなよ」


風邪ひくじゃない、と言って、顔を下に向けると、赤くなった頬に気が付いたのか、桐生は笑いながら私の顔を覗いてきた。


「顔真っ赤」

「うっさい」

「かーわい」

「…っ、」


桐生は笑いながら、私がさっき洗ったコップを2つとも取り出して、ご飯を食べていた机に置いた。

その机の上には、見覚えのないシャンパンが置かれている。

…‥なんでシャンパン?


「なんでって顔してる」

「そりゃするでしょ。シャンパンなんて買ってないもん」


さっきの買い物でシャンパンは買ってない。

そんなものがなんであるのって、普通疑問に思うよね。


「今日は何の日でしょう」

「何の日って…クリスマス?」

「ピンポーン」


茶化しながら言った桐生は笑いながら、さっと後ろから小さめの白い箱を取り出した。

見覚えのあるその箱を桐生は机の上に置いてそっと開けた。

中から取り出されたのは、可愛らしいサンタさんが乗ったホールケーキだった。


「‥‥‥うそ、」

「せっかくのクリスマスだしな」


信じられないものを見るようだった。

ケーキなんて買った覚えもないし、いつ買いに行ったかもわからない。


「‥あ、もしかして、さっきの?」

「あーまぁ。どうせならケーキとかほしいじゃん、せっかくだし」


桐生は照れているのか、わしゃわしゃと自分の髪をタオルで乱暴で拭いた。

照れてるのはこっちなんですけど。


こんなことされて、惚れないわけないのにね。


「まぁ遅くなったのはこれ買ったからだけど」

「………え、」


スッと、ケーキの横に置かれたのは茶色い紙袋だった。

紙袋にはクリスマスをモチーフにしたシールが貼られている。


「これって、」

「クリスマスプレゼント」

「‥もらえないって」


クリスマスプレゼントを渡されるような仲じゃないし。

そもそも、私は桐生に返せるクリスマスプレゼントを持ってない。

そんなの、もらえない。


「なんで?」

「だって、」

「料理も作ってもらったし、そのお礼も込めてあげるんだけど」


桐生はそう言って、机の上に置いた袋を持って私の前に差し出した。


「もらえないってば」

「もらってくれなきゃ、これごみ箱行きなんだけど」


困ったように笑った桐生は、差し出したその手を引こうとはしない。


「…ずるい」


そんなふうに言われたら、受け取るしかないじゃない。

私が紙袋を受け取ると、桐生は満足そうな笑顔を向けてくれた。

その笑顔もずるいよね。


「開けても?」

「どうぞ。気に入ってくれるといいんだけど」


頬をポリポリと掻きながら言った桐生は、キッチンの方へ行って包丁と取り皿を持ってきた。

その間に、私は紙袋をそっとあける。

中には、見覚えのあるものが入っていた。

見覚えはあるけれど、今日ずっと人のをつけ続けていたもの。


「似合うと思うんだけどなぁ」


桐生は私の手から取ると、そっとそれを私の首にかける。

少し大きめのそれは、ぐるぐるっと私の首をまわった。

空気に触れていたそこは、包まれて温かさを感じる。


「ほら似合う」


桐生はそう言って、私にワインレッドのマフラーをかけた。







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