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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
8/145

07:

ASAHI side




染めてない、色素の薄い、茶色い髪。

ショートが好きだからと言って、小さいころから髪は短く、くせっ毛の髪はいつもふわりと跳ねていた。

女子にしては割と高い身長で、スラリと手足は長い。

色は雪のように白くて、涼しげな目元が印象的だ。

普段は冷たく見えるが、笑った時は花が綻ぶように可愛らしい。

少しばかり天然で抜けているせいか、護りたくなってしまう。


それが、俺の双子の妹、陽向だった。


そんな女を周りが放っておくはずもなく、陽向は小さいころから男子にモテた。

だけど、陽向の隣には綿貫がいたせいかそれにまったく気付かなかった。

おまけに俺が刷り込みのごとく「ブサイク」だとか「可愛くない」だとかを言い続けたせいで、陽向は自分の容姿は平々凡々だと思い込んでいる。

中学まではそれでも面白いと思って過ごせてたけど、高校生になった今は正直後悔してる。


いや、普通気付くじゃん?

自分の容姿がいいか悪いかなんてさ。

こいつ実は鏡見てないんじゃねぇのって、本気で思ったからな。

陽向が自分の容姿に無頓着なせいで、こうやって買い物とか出かけるときは付き添いに行かされるようになった。

…俺が悪いんだけどな。


「陽向どれ?」

「えっとね、」


スーパーについた俺たちは、母さんに頼まれたものをかごに入れていく。

俺は荷物持ち。

人が大しているわけじゃないけど、すれ違う人の視線が鬱陶しい。

陽向は鈍感なのか無頓着なのか、その視線にはまったくと言っていいほどに気付いてない。

俺もこれくらいの図太い神経と鈍さがほしいなぁ‥。


「あっちゃ、売り切れだ」

「どれでもいいじゃん」


陽向は牛乳を見て言った。

俺からしたら牛乳なんてどれも同じにしか見えないから、何に悩んでるのかさっぱりわかんねぇ。


「低脂肪は美味しくないんだってば。って自分が言ったんだよ?この牛乳美味しくないって」

「そんなこと言ったっけ?」

「言ったじゃん。けっこう昔だけど」


そうだったっけか。

まぁ牛乳をそのまま飲むのって俺くらいだからな。

あとはみんなコーヒーとか紅茶とかに入れるし。


「これでいいか」


陽向はかごに牛乳を入れるとレジの方へと向かう。

それについて行ってかごを置く。

店員さんと目が合って、とりあえずといった感じで会釈をすると、店員さんは顔を赤くしてしまった。

…めんどくせ。


「むやみにたらしこまないでよ」

「好きでやってねぇよ」


耳元で言われて、俺より15㎝くらいは下にある陽向の顔を睨む。

陽向は散々見慣れていることもあって、まったく怯まない。

その辺の女子ならこれでビビッてどっかに行くんだけど。


「978円です」

「うっわ、ぎりぎり」


陽向はそう言いながら、母さんに渡された千円札を出した。

その様子を見てから、俺は買ったものを袋の中に詰めていく。

全部詰め終わったくらいに陽向が隣に並んで袋の中にレシートを詰め込んだ。


「お金余ったらジュースでも買って帰ろうと思ったのにー」

「母さんがんな余分な金渡すわけないだろ」

「だよねー。でも私部活あとでのどカラカラなんだって」

「のどカラカラって。お前弓道部だろうが。走り込みもしてねぇのになんでのどカラカラになるんだよ」


おかしいだろうが。

あれにどんだけ体力使ってんだよ。


「緊張するとのど渇くでしょ」

「唇が乾燥するの間違いだろ」

「あちゃ」

「あちゃ、じゃねぇよ」


可愛いけどな。

仕草は可愛いんだけどな。


「仕方ない、自販機で買おうっと」

「自販機で買うくらいならさっき買っとけよ」

「うるさいなー、今気付いたんだから仕方ないでしょー」


陽向はほほを膨らませたあとに、そばにあった自販機に小銭を入れてボタンを押した。

ガコンという音が聞こえてきて、陽向は買った飲み物を取り出してすぐに開けてのどに通す。


「はい」

「ん」


陽向はキャップを閉めないまま俺にペットボトルを渡す。

陽向にしては珍しく炭酸を買ったみたいで、シュワシュワと炭酸独特の感覚がのどを通り過ぎていく。


「お前一口しかいらねぇなら買うなよ」

「いいのー、炭酸が飲みたい気分だったんだから」

「この気分屋」


俺は陽向の頭をこつんと叩いた。

陽向は叩かれた部分を手のひらでさすりながら俺の方を睨んでくる。

はい、逆効果。

別に自分の妹に欲情はしないし、その気もミクロンほども起こらないけど、これをほかの男にもやってると思うと複雑だ。

なんのために綿貫と同じ高校に行かせたと思ってんだよ。


「あ、そうだ旭。帰ってから数学教えてよ。わかんないとこあるんだ」

「いいけど高いぞ」

「だから今炭酸あげたじゃん」

「おま、せこいぞ」

「でも飲んだでしょー。はい、交渉成立ー」

「‥‥ったく」


怒りすらも通り越してあきれた俺は小さなため息をついた。

こいつの自由奔放なところは昔からだ。

いい意味でも悪い意味でも慣れてしまった。

俺は腹いせの代わりに、陽向のくせっ毛の髪をくしゃくしゃにしてやった。











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