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「あんた神崎君のなに?」
強気な言葉を言った彼女は私をきつく睨みつける。
彼女の言葉に、その周りにいる女の子達もいろいろと言っている。
あーもー、なんでこうなったんだ。
携帯で時間を確認する。
瑛太に言われた1時間という時間が、もう少しでタイムリミットを迎える。
そろそろ弓道場に戻りたいなぁ。
「ちょっと聞いてんの!?」
「‥っと、」
トリップしていた私にイラついたのか、真ん中に立つ彼女は手を出してきた。
その手を条件反射で避けると、彼女はさらに怒りをあらわにして睨みつけてきた。
せっかくの化粧をした顔もこれじゃあもったいない。
「神崎君のなになのって聞いてんだけど」
「そういうあんたたちはあいつのなんなの」
「私達は神崎君のファンクラブよ!」
威張るようにして言った彼女たちは相変わらず私を睨んだままだ。
ファンクラブってそんなに偉いの?
「そのわりには桐生に色めき立ってたけどね」
かっこよければ誰だっていいんじゃないの?という言葉は呑み込んでため息をつく。
「だ、だからなによ?神崎君のファンクラブには変わりないわ。抜け駆けは禁止って決まってるのよ!」
「抜け駆けって‥‥私、ファンクラブでもなんでもないし」
そもそも立ち位置違うんですけど。
「なら尚更神崎君に近づかないで」
「は?なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないの?」
意味わかんないんだけど。
あまりに理不尽すぎる言い方に、私の方もだんだんと苛立ちが募っていく。
そりゃあ旭が嫌がるわけだよ。
「あと思ってたんだけど」
真ん中にいる彼女に少し隠れながら言う彼女はちらちらと私、というよりは私の上着を見ている。
「それ、誰の上着?」
「は?」
「それ、日暮高校バスケ部のウインドブレーカーでしょ?どうしてあなたがそれを着てるの?」
「どうしてって‥貸してくれたから」
当たり前なこと言わないでよと言わんばかりに言えば、彼女たちが顔を顰める。
あれ、なんか墓穴掘った?
「誰の、それ」
「へ?」
「まさか‥神崎君のとか言わないわよね?」
…これって旭のって言わない方がいい感じ?
なんかそのほうが物事穏便に済みそうじゃない?
と思っていると、目ざとくも小さく書かれている『A.Kanzaki』という文字を発見されてしまった。
それに気が付いたとたん、彼女たちの目の色が変わったような気がした。
「‥信じらんない」
今にも泣きそうな、だけど怒りだけは確かに持った彼女は、私を睨みつけると近くにあった木の棒を手にした。
「‥いや、嘘でしょ?」
まさかそれを振り上げて殴ろうなんて、そんな危ない思考してるわけじゃないよね?
さすがにそれで殴られたら痛いじゃすまないんだけど。
目の前の彼女の奇行に目を点にしていると、彼女はブツブツと何かを言い出した。
「‥神崎君の隣に相応しいのはこの私よ‥‥私以外ありえない、」
ふらりと1歩ずつ私に近づいてくる彼女は恐ろしく見えた。
周りにいた女の子たちも彼女の様子がおかしいことに少しだけど引いているようだ。
「あんたなんか‥あんたなんか!」
「ちょ、やめ、」
殴られる、と思った瞬間目を閉じたけれど、いっこうに痛みはやってこない。
おそるおそる目を開くと、目の前には見慣れたよな、だけどあまり見ることはなかった背中があった。
「…桐生?」
声をかけると、目の前の人物はため息をつきながら顔だけをこちらに向けた。
桐生は冬だというのに汗だくで肩で息をしていた。
もしかして、試合のあとすぐに来たのだろうか。
「お前バカか。目ぇ瞑ったら避けられねぇだろ」
「喧嘩慣れしてるあんたと一緒にしないでよ」
「…で?なにこれ」
桐生は目の前の女の子から無理やり木の棒を奪うと、その棒を折ってぽいっと放ってしまった。
カラカラと棒が転げ行く音だけがやたらと大きく聞こえた。
「旭の追っかけに捕まった」
「は?」
「意味わかんないって顔しないでよ」
「いや普通に意味わかんねぇ。だいたい旭って」
「いいよ、言わなくて。こっちのほうが多分旭にとっては都合いいと思うし」
そう言うと、桐生は不満だけど‥と言いながら何も言わずに彼女たちを見た。
「ていうか桐生、試合は?」
「俺助っ人だから。ミーティングには参加しない」
「あ、そうなんだ」
「それよりなんでお前ここにいるんだよ。部活は?」
「あー‥うん、まぁいろいろあってね。そろそろ瑛太たちに怒られるから戻るけど」
「送る」
「へ?」
「だから送る」
「いい!」
全力で遠慮させていただきます!
ちょっと忘れてたけど、元はといえば、私こいつのことで弓道場追い出されたんだもん!
送ってもらったら意味ないじゃん!
「いいから送る。ほら行くぞ」
「ちょ、桐生!?」
ぐいっと無理やり掴まれた腕を引っ張って、桐生は弓道場の方へと進んでいく。
どんどん体育館が遠くなるかわりに、どんどん弓道場が近くなっていく。
これ見られたら、みんなに何て言われるんだろう。
心の中でため息をついていると、それに気が付いたのか、桐生は足を止めた。
そこはちょうどさっき桐生と話していた場所だった。




