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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
72/145

71:

「何があったって聞かなくてもいいくらい、矢がブレブレなんですけど」

「‥全く、これじゃしめしがつかないんですけどね」


両部長にぐさぐさと心無い一言をいただいた私は項垂れながら、自分が射た的を見る。

的の真ん中は穴ひとつ開いていない。

午前中の練習が嘘のような私の違いに、日暮高校の人は戸惑いを隠せないようだった。


「で?どうかしたって聞かなくてもどうかはしたんでしょうけど、何があったんですか?」


瑛太は至極面倒くさそうに私に聞いてきた。

落ち込んでいる私の頭に、がらでもなく綺麗で細い手を置いて優しい手つきで撫でた。


「‥人の頭撫でるの慣れてないね」

「うるさいですよ」


こつんと頭を小突いた瑛太はそう言うと、また私の顔を覗いた。

その顔にはとっとと言えと言っていた。


「‥別にこれといったことは、」

「ないとは言わせませんよ」

「あ、陽向さん」

「アラン?」


とことこと私のところに来たアランは瑛太にぺこりと礼をして私を見た。


「どうした?」

「さっき体育館にいた友達に聞いたんですけど、」


アランは遠慮気味に切り出して、しきりに瑛太を気にしていた。


「なに?」

「…僕しばらく帰ってたんで知らなかったんですけど、陽向さんよりを戻したんですか?」

「え?」


アランの言葉に瑛太は鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。

私はといえば、思わず顔を引きつらせてしまった。


「なんでそれ、」

「さっきバスケ部の友達が聞きに来ました。知らないから知らないって言いましたけど」

「陽向さん」

「瑛太?」

「この短い昼休みいったい何をすればそんな面白いことになるのか教えてもらいたいですね」


…やだ、瑛太が本気でキレてる。

女子が騒ぐ綺麗な笑顔が真っ黒すぎて怖いわ。

思わずニナに助けを求めてしまうのは不可抗力だと思うんだけど。


「俺も気になるなぁ、その話」

「ニナ!」


にやにやとしながらこちらに歩いてきたニナは、話を聞いていたのか私に「ね?」と言って微笑みかけた。

私はその笑顔に騙されないんだから!


「1年君、詳しく話聞かせてよ」

「僕も人伝に聞いただけなんでよくわかりませんよ。ただ陽向さんが学校一人気のある先輩とそこでキスしてたって‥」

「ヒュー、やるねぇ陽向」


いやいや待て待て。

キスってなんだ、キスって。

でもってなにがやるねぇだ。

私は何もやってないっての。


「あれは事故だし!ていうかキスしてないから!」


そりゃあ確かにキスしそうなくらい近かったけど!

息かかってたけど!

ふっざけんじゃない!


「どんな事故があればそんなことになるんですかね?」

「え、瑛太?」

「自分が人一倍、精神状態が弓道に出るってわかってます?」

「‥‥十二分に」

「1時間あげます」

「…瑛太?」

「1時間の間に普段通りの弓が引けるようにしてください。それまではこの弓道場は出禁です」


…瑛太君?

にっこりと私に笑いかけた瑛太は有無を言わさないという感じで私の腕を引っ張ると、簡単に外に出してしまった。

いやいやいやいや、瑛太君?

どうしたものかと考えていると、ぽいぽいっと中から、さっき桐生が首に巻いてくれたマフラーが出てきた。

いや、まじか。

まじで出禁か。


「しゃーない、」


これは塀をこえて入るしかないか。

はぁ、とため息をついてそんなことを考えていると、急に目の前の扉が開いた。


「おっと、」

「ちなみに言っておきますけど」

「うん?」

「塀を乗り越えて入ろうなんて野暮なこと考えないでくださいよ?そんなことしたら射ますから」

「え‥瑛太君?」


ぴしゃりと。

そんな音が聞こえてきた気がした。


「‥容赦ない」


なさすぎるよ、マジで。

またため息をついた私は、とりあえず言われた1時間をどう過ごすか考える。

まぁ考えるっていってもほとんど答えは出てるんだけどね。

こんな自由時間もらえたなら行くところなんて限られている。


「‥体育館行こう」


パタパタと、さっき旭が行った道を小走りに行けば、大きな建物が見えた。

近くまで行けば、キュッキュッというバッシュと体育館の床の摩擦する音が聞こえる。

それと一緒に、応援の声や笛の音が聞こえてきた。

どうやらこの体育館で間違いなさそうだ。

そーっと中を覗けば、バスケをしている男子の姿が目に入った。


「‥?えーっと?見学?」

「へ?」


中を覗いていた私の背中に声がかけられて振り返ると、これまたイケメンなお兄さんが立っていた。

なんか周りにイケメン多くない?

イケメンってこんなどこにでも転がってるようなもんなの?

もっと希少価値高くていいと思うんだけど…あれか?

私のストライクゾーンが広いのか?


「迷った?君見たところ弓道部だよね?」

「え?あー‥休憩だからちょっとこっち来てみただけです」


さすがに主将に弓道場出禁にされましたなんて、口が裂けても言えない。

そんなの言ったら恥かくだけだもん。


「ということは、霧学?」

「あ、はい」


神崎の妹です、とはあえて言わない。

言ったら言ったでいろいろと面倒なことになりそうだから。


「霧学の応援?」

「いや、さっきバスケ部が来てるの知ったんで」

「そうなんだ?あ、次霧学とうちだから見ていけば?」


ビーッというブザー音が聞こえてきて、それを聞いた彼はくいっと顎で体育館の中を示して言った。


「霧学のベンチだったら、そばで見られるんじゃない?」

「んー‥でも見に来たのは旭だし、」

「え、旭の応援?」


霧学の生徒なのに?と首をひねった彼は、一瞬考えた後に片眉をあげた。


「あいつの追っかけ?」

「旭の?まさか。旭の追っかけなんて死んでもごめんです」


その言葉に彼は目を丸くした後にククッと笑いだした。

‥私なんで笑われてんの?








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