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「あ、てめ、俺のから揚げ!」
「旭がご飯返してくれないからでしょ!」
「じゃあとっとと吐け」
「べーだっ!」
「…お前ら何してんの?」
必死にお昼を取り返そうとしていた私たちにかけられた言葉に振り返ると、ジャージ姿のかっちと桐生がいた。
…………桐生?
え、なんでここにいるの。
しかもなんでジャージ姿。
「こんなとこでいちゃつくなよ」
「別にいちゃついてないんだけど」
お昼ご飯取り返してただけだし。
旭が悪いんだし。
「いや、その状況でいちゃついてないとか説得力無い。なぁ?」
かっちは桐生に同意を求めるようにして言った。
桐生は頷き難いのか、あいまいに笑って返す。
その顔は戸惑ったような、複雑そうだった。
「えー‥」
その状況ってどんな?と思いながら、今の自分の状況を見つめ直す。
旭の足の間に座る私。
私が届かないように腕を上に伸ばしている旭の肩に手を置いて、覆いかぶさるようにしてコンビニ袋に手を伸ばす私。
不安定な私の体勢を支えるために腰に回された旭の手。
たまに肩に置いてある手を掴むものだから、旭に倒れこむ私。
……え、兄妹のじゃれあいじゃない?
きょとんとした顔で2人を見れば、かっちに大きなため息をつかれた。
「ていうかかっち、勘違いしてるよ」
「勘違い?」
うん、と頷いて体勢を整えるように旭の足の間に座りながら、2人のほうを向く。
「ね、旭」
「‥知らね」
ふいっと向こうを向いた旭は、腕を下ろして私の膝の上に袋を置いた。
「そんな態度とるから誤解生むんじゃない」
「うっせぇな」
旭はそう言うと、空になったから揚げパンの袋をくしゃくしゃと丸める。
それを受け取ると、中に入っていたもう1つの袋に入れた。
「なぁ桐生。俺にはあれのなにが勘違いなのかさっぱりわかんねぇんだけど」
「同感だね」
「勘違いだってば。これ、私の兄」
「「……は?」」
「だ・か・ら、私の兄!」
「兄って‥神崎って同い年、……ああ!」
かっちは思い出したように言うと、私と旭の顔を食い入るように見た。
旭はさほど興味がないのか、私の膝の上にある袋からガサガサと次に食べるものを探している。
「わかってくれた?」
「…わかったけど…似てない」
「それねー、よく言われる。ね、旭」
ね?と旭に言うと、旭は力なく「ああ」とだけ言って袋の中からサンドイッチを取り出した。
「ちょ、それ私の」
「やだ、俺これがいい」
「から揚げパンも食べたんだからそれは私の」
「じゃあ半分な」
そう言った旭は半分を自分の口でくわえると、もう半分を私の口の前に持ってきた。
それをほぼ条件反射でぱくりと口に入れて顎を動かす。
「仲よ過ぎるだろ」
「そう?」
そうかな?という思いで旭を見上げると、旭は首を振って袋から取り出したブラックコーヒーを飲んだ。
好きだね、ブラックコーヒー。
「ていうか、なんで2人ともここにいるの?」
「今日バスケ部の試合」
「バスケ部の?」
いや、それは旭もいるから知ってるけど‥と言う顔をすれば、かっちにため息をつかれた。
「俺バスケ部」
「嘘」
「嘘ついてどうすんだよ」
「‥桐生は?」
「助っ人。どっかのバカたちが部活サボってデートに行ってんだよ」
「あー‥寂しいね、かっち」
そう言えば、かっちにうるさいと言われた。
それに笑ってると、サンドイッチを食べ終えたのか、旭はまた袋の中をあさりだした。
相変わらず細身のくせによく食べる。
「桐生ってバスケできたの?」
「桐生、普通にうまいよ」
「そうなの?」
「‥初めて見たけど敵にはしたくない」
旭がここまで言うなんて珍しい。
たいていの人なら「別に」とか「そうでも」とか言うのに。
そんなにうまいんだ、桐生って。
まぁ運動なら何でもできそうだもんね、桐生って。
そつなくこなすっていうかさ。
「……俺に似てる」
ぼそりと2人には聞こえないだろうけど、小さくつぶやいた言葉に思わず噴き出してしまった。
いきなり噴き出した私を見た2人は首を傾げていて、旭は舌打ちをついて私の頭を小突いた。
「陽向、部活何時まで?」
「んー‥多分ニナと瑛太の自主練に付き合わされるからそんなに早くないよ」
何で私が付き合わされるかよくわかんないんだけどね。
「旭は?」
「俺も多分自主練して帰る」
「一緒に帰る?」
「そうだな、時間が合えば」
おっけーと笑って言って、私たちの前にいる2人の方に視線を移す。
なんでそんなに見てるんだろう。
「陽向、俺もう戻るわ。暇あったら体育館こいよ」
「そうだね。多分時間あるから見に行くね」
旭のバスケしてる姿とか中学校以来だ。
きっとあの時よりもうまくなってるんだろう。
旭は立ち上がると、袋から栄養ドリンクを取り出して体育館の方へと歩いて行ってしまった。
「行っちゃった」
背中にあった温もりが急に無くなったから、少しだけ寂しく感じた。
「そういやかっちたちここに何しにきたの?」
「へ?……あー!俺の昼飯!」
そう言うとかっちは、何も言わずに校門の方へと走っていってしまった。
お昼ご飯、買い忘れてたんだね。
かっちらしいけど。
と、行ってしまったかっちのことを思っていると、ふいに首元に温もりを感じた。




