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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
7/145

06:

「ただいまー」


生徒手帳がやっと返ってきた私は、久しぶりに寄り道をせずに帰ってきた。

まさか王子様が持ってたとは。

そりゃあ見つからないわけだよ。


「お帰り。今日は早かったんだね」

「ん、まぁね」


リビングに入ると、お母さんが声をかけてくれた。

キッチンで晩ご飯の準備をしているみたいで、部屋は美味しそうな匂いがしていた。


「今旭がお風呂入ってるから。晩ご飯までもう少しかかるから旭のが早かったらお風呂入っちゃいなさい」

「はーい」


お母さんの言葉に返事をして自分の部屋へと上がる。

風呂場の前を通った時に、ガチャンと扉が開く音がした。

多分、旭があがってきたんだろう。

お風呂に行く準備をして、制服のまま階段を降りると、ちょうどお風呂から上がりたての旭がいた。

水も滴るいい男よろしく、髪から水を落とす兄は身内のひいき目をなしにしてもかっこいい。

もうどこぞのAV男優も目じゃないくらいだ。


「髪くらい乾かしてから出なよ」

「うっせぇな。わざわざ早めに上がってきてやったんだから礼くらいしろよ」


相変わらず可愛くない性格してる。

今日王子様に散々口が悪いって言われたけど、9割くらいこの双子に兄のせいだと思うんだよね。


「旭、上がったの?」

「上がったけど?」


リビングの扉越しに、お母さんの声が聞こえてきた。


「陽向もいるの?」

「‥私これからお風呂ー」


行ってこいって言ったの、お母さんだからね。


「牛乳と卵としょうゆが切れちゃったのよ。悪いんだけど買ってきてくれない?」


パタパタというスリッパの音が聞こえてきて、開けられた扉からお母さんが出てきた。

その手には財布が握られている。


「はい、お願いね」


お母さんはそう言って、財布から千円札を取り出して私と旭を交互に見た。

…え、私も行くの。


「旭に任せといたら、何買ってくるかわかんないから。陽向も一緒に行ってきて」

「陽向だけが行けばよくない?」


タオルで黒い髪をわしゃわしゃとふきながら旭は言う。

ぴんぴんと髪から水滴がはねて私に飛んでくる。


「8時だから危ないでしょ」

「大丈夫だって。陽向を襲うような物好きいないって」

「うっさい。悪かったわね、あんたみたいに顔がよくなくて」


自分の顔が平々凡々ってのは嫌ってほどわかってるわよ。


「…なに」

「一緒に行きなさい」

「…っち。着替えてくるから待ってろ」


大きな舌打ちをついた旭はどたどたと二階上がっていった。

その姿を見ていると、隣に立っていたお母さんから視線を感じてそっちを見た。


「なに?」

「確かにあんたたち似てないけどねー‥なんで自分の顔がよくないとか思うの」

「そりゃあ旭に昔っからブサイクって言われ続ければこうもなるでしょ」

「…そう」


なんかすっごい深いため息つかれたんだけど。

いや、なんで?


「じゃあとりあえず牛乳と卵としょうゆお願いね。1つずつでいいから」

「…え。私が行くの決定なの」

「当たり前でしょ。旭だけで行かせたらいつになっても晩ご飯できないわよ」

「モテる兄を持つと大変だなー」


日和の時もそうだけど、1人で行かせると、その辺の女の子に捕まって帰ってこないことが多い。

昔からだからもうだいぶ慣れたけど。

ほんとイケメンとか滅べばいいのに。


「ぼけっとしてねぇで行くぞ」

「え、ちょ、待ってよ」


私の腕を引っ張った旭は、ジャージ姿から私服に変わっていた。

白無地のシャツに紺のカーディガン、ベージュのチノパンをはいた旭は、身長もあるせいか、高校生というよりは大学生に見える。

…日和の影響かなぁ‥。

日和、こういう格好よくするからなぁ。


「メガネ、あるほうがいいよ」

「持ってない」

「はい」


私は自分のカバンから伊達メガネを取り出して渡した。

旭は何も言わずに伊達メガネをかけて玄関のドアを開けた。


「母さん、何買って来いって言ってた?」

「牛乳と卵としょうゆだってさ。スーパー、ギリギリになっちゃうなぁ」


ていうか8時過ぎになってからスーパーに買い出しに行かせるってどうなのよ。

旭の隣を歩きながら近くのスーパーを目指す。


「そういえば、旭この前のテストも1番だったんだって?」


私の双子の兄は、本当にチートだ。

それこそ王子様ばりに何でもそつなくどころか完璧にこなす。

顔良し、頭よし、運動もできて、気遣いもそこそこできる。

まぁ性格に多少難はあるし、口はおそろしいくらい悪いけど。

ほんと、世の中不公平だ。


「陽向は手を抜いてるのがありありとわかる点数だったな」

「ひどいなぁ。あれでも精一杯やってるんだよー?」


そういうと、旭は盛大なため息をついて私を見た。


「毎回毎回クラスで15~20番台、学年で80番前後。よくまぁこれだけふつうの成績修めてられるな」

「それ褒めてる?」

「んなわけないだろ」

「ですよねー」


皮肉たっぷりですよねー。


「俺と同じ学力してんだ。なんでこんな半端な点数取ってんだよ。綿貫か?」

「んー、聖を応援したいっていうよりは面倒なんだよねー」

「この面倒くさがり」

「え、そこはお互いさまでしょ」


ていうか、私が学年トップにいたら、なかなかに性格悪い課題を聖に与えたよね。

本当に性格悪い。

なんでこんなやつがいいんだろうね、みんな。







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