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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
69/145

68:

「午後練は1時から始めます。それまでにここに戻ってきてください」


ニナがそう言って入ったお昼時間。

手にしていた弓を壁にかけて、荷物のある場所までいけば、ふいに私に影が出来た。

…寒いから影つくるのやめてほしいだけど。


「もしよかったら一緒にお昼食べようよ」

「校内もちょっと案内するし」


私に話しかけてきたのは、袴の上にコートを羽織った日暮高校の弓道部員。

ため口で話してくるところを見ると、多分私と同い年なんだろう。


「えっと、」


先約があるから無理だと断ろうとしたとき、ぐいっと彼らに手を引かれた。


「さ、行こう」

「いや、ちょっと、」

「早くしないとご飯食べる時間減っちゃう」


ぐいぐいと腕を引っ張る彼らに顔をひきつらせながらどうしたものかと考えていると、こちらを見るニナと目が合った。


「おい、お前ら」

「なんだよ?」

「その手放してやれ。嫌がってんだろ」


面倒臭いと一刀両断されそうなほど呆れた口調で言ったニナの態度は、私たちを出迎えてくれた時とは180°違う。

まぁこっちが素なんだけど。

なんていうか、桐生みたいだね。


「は?んなのお前に関係なくね?」

「そうそう。お前だってさっきあの双子ちゃん口説いてただろ」

「そうなの、ニナ」


あんた前、年下には興味ないとか何とか言ってなかったっけ?


「まさか。トイレの場所を聞いてきたから教えただけ。お前らと一緒にすんな」


鼻で笑ったニナは「つーかさ、」と言葉を続ける。

さすがブラック瑛太と対峙するだけのことはあって、ものすごい迫力がある。


「俺が猫かぶってない時点でいろいろとわかってほしいんだけど?」


ね?っとにっこりと笑ったニナの笑顔に、背筋が凍りそうになったのは気のせいじゃないと思う。

やっぱりニナって怒らせたらだめな人だよね。


「それより陽向、なんな約束あったんじゃないの?」

「‥へ?…ぁあ!やっばい」


ばっと鞄の中にあったコンビニ袋と携帯を持つと、私はコートを来てばたばたと弓道場を出ていった。


「さっむ、」


弓道場もなかなかに冷え込むけれど、やはり外の方が寒い。

バタバタして出てきちゃったから、マフラー巻いてくるの忘れちゃった。

はぁ、と、手に息をかけながら、校内を歩いていると、大きな建物から見知った人物が出てきた。

上下黒のジャージを着たその人は、眉間にしわを寄せてこちらに歩いてくる。

それだけで迫力が出るというのに、女の子がキャーキャー言うのはなんでだろう。


しかも、


「遅い」


第一声がこれ。


「‥それが人に昼飯持ってきてもらう人の態度か」


おかしくない?

なんでそんな偉そうなの。

昼飯がいらないのか、こいつは。

そう言うと、旭はあからさまに気に入らないという顔をして私を睨んだ。


「なんかほかに言うことあるでしょうが」

「…っち」

「旭?」

「……悪かったよ。助かった」

「最初からそう言えばいいんだよ、ほんとに」


どう育てば悪態が先に出るんだ、この愚兄は。

もっと素直に真っ直ぐに育ってほしかったんだけど、妹としては。


「ていうか、合宿なんだからご飯くらい出るんじゃないの?」

「出るけど‥」

「けど?」

「ここ男子校だからマネージャーいないんだよ」

「うん、で?」

「だから飯は弁当頼むんだけどさ。その弁当が揚げ物とか多くって胃に入らねぇんだよ」


そう言いながら、旭はご飯を落ち着いて食べれそうな場所を探す。

きょろきょろと見渡したあと、そばにあった芝生に座ってコンビニ袋をあさった。

…そこに座るんだったら、探す必要なかったよね、とは口が裂けても言わないけど。


「とか言うわりにから揚げパン食べてるし」

「これは美味い」

「‥味の問題か?」

「いや俺の胃袋の気分の問題」

「…あっそ、」


呆れてなにも言えない私を余所に、旭はから揚げパンを頬張っていく。


「あっれ、旭、お前こんなとこいたの?」

「……ニナ、」


旭の不機嫌を隠しもしない顔を見た後に、声のした方を見ると、ニナがコートに首にはマフラーを巻いて立っていた。

その顔にはいいものを見たと言わんばかりに、ニヤついている。


「体育館で女の子達が捜してたよ?」

「…なんでお前が体育館事情知ってんだよ」

「さっき尊から連絡が来た」

「‥っち」

「それはそうと」


ニナはにっこりと笑うと、旭から私へと視線を変える。

あ、やだ、また冷や汗。


「こんなところでそんなことしてたら、誰かに見られたら勘違いさせるよ?」


フフっと笑いながら言ったニナは「それともそれが狙いかな?」と付け足して、から揚げパンを食べる旭を見る。

旭は無視を決め込んだのか、ニナのほうを全く見ようともしない。


「ああ、それと」


ニナは旭の態度を全く気にすることなく笑うと、去り際に言葉を付け足す。


「さっきみたいなの、気を付けた方がいいよ、陽向」

「ちょ、」

「ひとりでこの学校歩かない方がいいよ」


ヒラヒラと手を振ったニナはお昼ご飯を買いに行くのか、校門の方へと歩いて行ってしまった。


「陽向?」

「えーっと、」

「さっきみたいなのって?」

「いやー‥うん、なんのことかなー」

「吐け」


そう言うと、旭はコンビニの袋を取り上げてしまった。

あの中には私のお昼ご飯も入っているのに。


「ちょ、私のご飯!」


私から遠ざけたご飯を取るために旭にかぶさるように足の間に体を入れる。

が、悲しいかな、手の長さが足りない。

あと数センチ、届かない。


「うう、」

「ほら、とっとと吐け」

「いーだ!」

「これ没収な」

「え、やだ!私のご飯!」


ありえない!と思った私は、旭がかじっているから揚げパンの反対側をぱくりと食べてやった。







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