66:
「冬休みになっちゃったね」
「そうですね」
「今日、クリスマスらしいよ」
「そうみたいですね」
「雪とか降らないのかなー」
「今日は比較的暖かいそうですよ」
………。
なんでこんな日に部活なんだろう。
別にいいんだけどね?
どうせ一緒に過ごすような人もいないわけだし。
でもさ。
部活ってなんか寂しいよね。
「煩いですよ、さっきから。もっと前からわかってたことなんですから諦めてください」
「なんであんたは彼女いるのにそんなに潔いの‥」
普通あんたのほうが怒っててもいいでしょ。
なんであんたそんなに部活一筋なの。
「当たり前でしょう。今日は何があってもあのバカを打ち負かすんです」
「あー‥はいはい、そういうことね」
私の隣を歩く瑛太は、大和撫子が残念がるくらい闘志で燃えていた。
いや、日本男児って言えば聞こえがいいのかもしれないけど…ねぇ?
和風美人な見た目だし。
にっこりほほ笑むくらいがぴったりだよね。
「なんであんなに燃えてるんですか?」
くいっと私の袖を引っ張りながら、千里は小さな声で聞いてきた。
安里に伝えておいてと言ったあの日以来、千里とはまだ少し距離を感じるものの、仲直りしつつある。
「…知らないほうがいいかもよ」
私よりも少し前を歩いて勝手にひとりで勇んでいる瑛太を横目で見ながらため息。
「あんな朝倉先輩初めて見た」
「私もです」
「なんかちょっと怖い」
「あー‥まぁ初めて見る人はそうだよね」
瑛太のあれ。
普段、見た目だけだけど大人しめの控えめで、微笑みながらたたずんでいる姿が印象的だもんね。
それが今じゃ正反対だもんね。
いや、もう別人って認識してもいいけどね、あれは。
「今日行く日暮高校って、スポーツの名門校ってのは知ってるよね?」
「「はい」」
「うん、でね、まぁ弓道部もまー強いわけ」
その辺の大会で名前を馳せるくらいには。
私も男だったら、日暮高校に行って弓道をしたかったくらいだ。
「それであんなに燃えてるんですか?」
「いやー‥瑛太がそんなので燃えるわけない。だいたいあいつ自身、日暮高校に負けず劣らずの実力持ってるし」
なんでうちの高校に来たのかわかんないくらいだもん。
1年生の時に聞いたら「陽向さんが行くって聞いたからですよ」って、サラッととんでもない嘘を吐きやがったのを覚えてる。
あの時は鳥肌がひどかった。
「じゃあ何でですか?」
「瑛太ってああ見えて負けず嫌いなのね?」
「「あー‥納得」」
「そう?でね、小学校の時から、常に瑛太のひとつ上を行く、まぁ簡単に言ったら目の上のたんこぶみたいな人がいてね。その人が今の日暮高校弓道部の主将なんだって」
これは定かではないが。
瑛太がブツブツとひとりで言っていた気がする。
「そんなすごい人と張り合えてるって、やっぱ朝倉先輩ってただ者じゃないですよね」
「そうだねー…あ、あんたたちって見るのも初めてだっけ?」
「「何をですか?」」
「瑛太が目の敵にしてる人」
「「はい」」
「そっか。楽しみにしてなよ」
「なんでですか?」
「それは見てのお楽しみ」
滅多に見れない瑛太を見れるし。
それに、向こうも向こうでなかなか濃いからね、キャラが。
「あ、そういえば、今日は千夏来るんですか?」
「ちなっちゃん?あー‥昨日連絡したときは来るって言ってたなー」
ちなっちゃん、本名を佐伯千夏。
私の1つ下で、双子と同い年の彼女は、弓道部に所属している帰国子女。
中学2年までアメリカに住んでいて、中3から弓道を始めたのに、なんでかすっごくうまい女の子。
確か今はアメリカに住んでる祖父母のところに行ってるんだとか。
「連絡取れたんですか?」
「昨日帰って来たらしいよ」
って、連絡来た。
明日は部活ありますかーって、わざわざクリスマスなのに連絡きた。
どんだけ部活したいんだって思わず思っちゃった。
「…ていうことは、あいつも来るんだ…」
「嫌そうだね」
「当たり前なこと聞かないでくださいよ!」
私の言葉に、安里はキッとなにかを睨むようして言った。
その様子に苦笑して、安里が毛嫌いする彼を思い浮かべる。
この双子と同い年で、日本に中3の頃から留学してるっていう、根っからの外国人な彼。
フランス生まれの彼はおそろしいくらいに紳士的で綺麗だ。
確か名前はアラン。
フルネームは長くて忘れた。
アランも一昨日までフランスに帰ってたらしい。
「ほんっと、あんたってアラン苦手だよね」
「だってなんかムカつくんですもん!」
「いいじゃん、紳士的で」
あんな紳士的な人、いないよ?
と言いかけて、ふと頭に出てくる人がいて、その言葉を呑み込む。
「同じ紳士なら、桐生先輩のほうがいいです」
「…私はアランのがいいけどね」
桐生も確かに紳士だけどね。
猫かぶったらだけどね。
「でもあの2人いつ合流するんですか?」
「あー‥あの2人は現地集合ってことになってるから」
現地にちゃんと着けてるかは知らないけど。
ハハっと笑っていると、前を歩いている瑛太が足を止めた。
どうやら、練習場所についてみたいだった。




