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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
65/145

64:

「訂正はしていってるんだけどな‥信じてくれないんだよ、あいつら」

「訂正って…何の?」


二股疑惑か?

それとも飽きた疑惑か?

いや、どっちにしろ真実じゃないんだけどね。


「両方」

「ああ、そう」

「でも実際に見たってやつも多くって」

「見たって‥え、なにを?」

「駅から他校の生徒と歩いてるところを見たとか、知らない男とデートしてたとか、…けっこういろいろ聞いた」


もう、あんぐりだ。

ぽかん、でもいい。

今の私の顔を見られたら、旭なら爆笑して写メでも撮るだろう。


「神崎?」

「それ、間違いも甚だしいんだけど」


確かに、はぐれないようにとか言って手つないだり、ちょっとちょーだいって言ってあーんとかしたりされたりしたけど!

誰だよ、事実確認もしないで勘違いした奴!

マジ許さん!


「間違い?」

「多分、ていうかほぼ100%、旭。あ、双子の兄貴」

「……双子の、兄?」


頭に顎を置かれているため桐生の表情を確認することはできないけれど、おそらく桐生は目でも見開いているんじゃないだろうか。


「そーだよ。ていうか旭以外ありえない。それ以外に男の人と一緒に帰ったり買い物したりとかしてないもん」


こんなことを自慢げに言うものでもないが、こういった勘違いは頻繁に起こるため言っておかないと後々面倒なことになるのだ。

まぁ私の愚兄はあとで説明する面倒より今説明する方が面倒だと思うようだけど。

絶対後々説明する方が面倒だよね。


「じゃああの時見たのは‥兄妹か?」

「あの時?」

「いや‥こっちの話」

「ふぅん‥まぁいいけど。旭、日暮高校だからさ部活帰りとかに時間があったら一緒に帰ったりしてるの」


といっても、基本的に旭に校門まで来てもらうんだけどね。

私が駅まで行ったら逆方向だし。


「まぁ全然似てないし、仲もそんなに悪くないからよく間違えられるんだけどね」

「そっか、」


桐生はどこかホッとしたような声を出した。

その言葉にひどく安堵したのは、私の方かもしれない。


「そういや、期末テスト、」

「へ?あー‥あーうん」


目を合わしているわけじゃないのに、目をそらしてしまうのはなんでだろう。

なんていうか、じとーって見られてるような気がするんだよね、ほんと。


「…悔しいけど、おめでとう」

「へ?」

「なに?」

「瑛太に機嫌悪かったって聞いたからてっきり怒ってると思ってた」

「いや怒ってたっていうか、納得はいかないけどね」


その言い方だと、まだ納得いってないって聞こえるんですけど。

あ、まだ納得いってないんですか。


「お前実は頭いいの?」

「さぁ、どうなんでしょう?」


と、とぼけてみれば、頭の上から舌打ちが聞こえてきて、カーディガンに触れていた手がやらしい動きをする。


「…桐生君?」

「で?お前って頭いいの?」


意を決して見上げた先にあったのは、キラッキラのスマイル。

もう直射日光浴びてるんじゃないかってくらい。

が、その笑顔はものすごく黒い。

ああ、やっぱりこいつも笑顔は黒かった。


「とりあえず、その手、止めてもらえます?」


さっきから背中をいったりきたりしてるんですけど。

たまにブラで止まるのもやめてもらえません?

ていうか、バチバチするのやめてくれません?

痛いんです、それ。


「じゃあ俺の質問答えて?」

「口調は優しいのに有無を言わせない圧力があるのはなんでだろーう」

「で?」

「…結構手抜いてました。ぶっちゃけ頭いいです、はい」


自分で頭いいとかどんだけ。

いやでも実際に私の片割れも頭はいいんだし。


「バカにしてるよな、ほんと」

「へ?」

「俺らすっげぇ真面目にやってんのに」

「‥なんでもいいけど、手、動かすのやめてくれません?ていうか手、どけてくれません?」


なんでちゃんと答えたのに、こいつの手はなおも私の背中をさすってるのかな?


「なんで手抜いてたの?」

「なんでって‥面倒じゃん、目立つし」

「は?お前すでに目立ってんじゃん」

「いやいや、あんたと付き合いだしてから目立つようになったけど、それまでは比較的平穏に‥」

「……呆れた」

「え?」

「お前その顔でよく言うわ」

「‥あのさ、とりあえず手どけてくれないかな?」


手癖悪すぎるでしょ、あんた。

しかも手、カーディガンの中に入ってきてるんですけど、どういうことでしょー?

桐生はカーディガン越しではなく、カッターシャツ越しに背中を撫でる。

いや撫でるっていうか、さっきみたいにブラをぱちぱちしてる。


非常事態です。


「神崎さ、」

「うん?」


と、都合よくどいた桐生の顎のおかげで、私は桐生の顔を見上げる。

その時に見えたのは、第二ボタンまで外れて見えた鎖骨だった。


「っ、」


思い出すのは、この前の先輩との会話。

あの時、桐生の首筋には赤い痕が残っていた。

上げた顔をとっさに下に向ける。

今、私は顔を真っ赤にさせてる?

それとも、今にも泣きそうな顔してる?


「神崎、」

「…なに?」

「顔あげて?」


そう言った桐生の手は、いつの間にか背中から私の頭にあって。

桐生は男にしては細くて長い指を髪に絡ませていた。


「神崎」


そう呼ばれて、はじかれるようにして顔をあげた私の頬に桐生は手を添えた。

クイと上げられたあご。

まさかと思った時には遅くって。

気付いたときには、唇は桐生に奪われていた。


「ん…ふぁ…‥や、」


自分が考えるよりもはやく、桐生は私の口をこじ開ける。

入ってきた舌は、私の舌を絡めとり、耳には聞きなりない水音が響く。


「んや……きりゅ、‥ん」


ちゅっというリップ音のあとに離れていった唇に少しだけ寂しさを感じていると、頭の上から声が降ってくる。


「そんな顔されると続きしたくなるんだけど」

「ばっか!」


どん、と目の前にある胸板を叩いてみるが、桐生には全くといっていいほど効いていない。


「じゃ、そろそろここから出るか」

「は?」

「よいしょっと」


ここから出るといった桐生は、足をあげると、あろうことか扉を勢いよく蹴った。

ものすごい音が聞こえてきて、久しぶりに外気に触れた肌は、冷えた風を感じている。


「‥なんで手、」


つないでんの、と言いかけて、桐生の手の甲に目がいく。

書かれているのは、


スペードのクイーン。


「う、そ」

「運命感じちゃう?」


そう言った桐生はいたずらっぽく笑った。








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