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掃除用具庫に2人きり…
ドキッとするシュチュエーションではあるけど、実際あったらやだ(笑)
「なん、で…いるの」
ここ、掃除用具庫の中だけど。
なんで箒や塵取りやバケツみたいな掃除用具がひとつも入ってなくて、代わりに人が入ってるんですか。
そしてどうしてそれが桐生君なんでしょうか。
先生、どうしてでしょうか。
これは、神様の悪戯とかいうやつでしょうか。
なんて言ったら、神様なんて信じてないだろとか言われそう。
…信じてないけど。
「なんでって。それ聞く?」
「あー‥いやいいや。なんとなく想像ついた」
うん、ここにいる理由なんてひとつしかないよね。
はぁ、とため息がこぼれたところで、教室の扉が勢いよく開けられた。
掃除用具庫の扉を背にして入ってしまった私には、教室に誰が入ってきたのかはわからない。
「なーんだ、いないじゃん、桐生君」
「おっかしいなぁ、この教室に入っていくとこ見たんだけど」
聞こえたのは女子の声だった。
そして女の子たちは桐生を捜しているようだった。
ちらりと桐生の方を見上げれば、桐生の綺麗な顔の眉間にはしわが寄っている。
と、そこにまた扉のあく音がした。
「あれ、一条?あんた何してんの?」
「人捜しだ。お前らは何してんだ?」
「桐生君見なかった?」
どうやら知り合いのようで、教室にいる人達はなにかを話している。
「桐生?さぁ見てないな。それよりお前ら、神崎陽向は見てないか?」
「神崎‥?」
先輩の言葉に思わず体が強張った。
今まで私を追いかけていた声と態度とは、おそろしいくらい違うが、私を捜しているということは同一人物で間違いなさそうだ。
「神崎陽向って桐生君の元カノでしょ?」
「‥そうだ」
「で、あんたの好きな相手と」
「そうだ」
「さぁ、見てないわね。私達さっきからここにいるけど」
お、ナイス女子の先輩。
良いこと言ったぞ、と感心しながらさっきの会話を頭の中で少し思い出す。
……私、今大事なこと聞き流さなかったか?
「ふぅん‥あの先輩、お前のこと好きなんだ?」
「っ、」
そうだ、それだ。
桐生に言われて、思い出して、思わず声が出そうになる。
それをいち早く気が付いた桐生は咄嗟に私の口元を手で押さえた。
「ていうかなんでその子追ってるわけ?ペアでもないでしょ」
「それはお前たちほうだろ?俺はれっきとしたペアだ」
「は?マジで言ってんの?」
「おおマジだ」
「うへ、なんか執念が生んだって感じだね。でもさ、神崎陽向って今良い噂無いじゃん」
「そうそう、やめとけば?」
ねーと女子の先輩は言い合ってくすくすと笑う。
その笑い声とは別に、こつこつとこちらに近づく足音。
すっかり汗は冷えてしまったのに、首筋に冷や汗が伝った。
そして聞こえてきた、ガコンッという鈍い音。
「っ、」
「…ンの野郎」
微妙に痛い。
というのも、鈍い音は私の背中の方から聞こえてきたのだ。
おそらく、というか間違いなく、誰かが掃除用具庫の扉を叩いた音だ。
というか、叩いた、といよりは蹴った、というほうがいいかもしれない。
「彼女のことを悪く言わないでくれないかな。陽向ちゃんは桐生に利用されたんだ。悪いのはあの猫かぶりの男だ」
「な!桐生君が悪いわけないでしょ!?あの子がふったんだから!」
「そうよ!しかも浮気ってありえないでしょ」
先輩たちの口論は次第に激しくなり、声は大きくなっていく。
掃除用具庫の中にいる私たちにはしっかりとその言葉が耳に届く。
「「「傷つけたのは桐生(神崎)だ(よ)!!」」」
そう聞こえたのが、最後だった。
その言葉以降、外からは音という音が聞こえてこなかった。
どうやら、先輩たちは教室から出ていったらしい。
桐生との間に、気まずい空気が流れる。
「…出ないの?」
ふに聞こえてきた声に顔をあげると、無表情ともとれる桐生の顔が目に入った。
その声に何を返そうかと迷ったけれど、とりあえず事実を告げる。
「えーっと…なんていうか…さっきからこれ開ける努力はしてるんだけど、ね?」
開かないのよ、これ。
びくりとも動いてくれないのよ。
「先輩が外からものすごい力で殴ったか蹴ったかしたから、かなぁ」
それしか外部要因ないもんね、だって。
えへっと笑って言うと、桐生からため息が返ってきた。
それにすら、ちくりと胸が痛む。
「どうすんだよ、これ」
「それがわかったらもうここにいないんだけどね」
でしょ?
と見上げるようにして桐生を見れば、桐生はまたため息をついて顔をそらした。
「…変な噂、立ってるんだってな」
「へ?」
「噂。二股かけてたとか、俺に飽きたとか、」
そう言って桐生は私の頭に自分の顎を置いた。
そのことで私は今の自分の状態を思い出す。
掃除用具庫に高校生2人はかなり狭い。
おまけに扉は少し凹んでしまったがために、通常よりもなお狭い。
そのため自然と体は密着状態。
息が髪にかかるほどに近く、もしかしたら心臓の音が聞こえてしまうんじゃないだろうか。
桐生の手は後ろに回されていて、足はなんでかよくわかんないけど、片方が私の足の間にある。
正直、マズイ。
だけどそんなことはお構いなしというふうに桐生は話を続けた。




