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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
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57:

HIJIRI side



化学実験室から出ていったっきり帰ってこなかった私の親友の荷物を持ってため息をつく。

そんな私を見たかっちは、苦笑を浮かべている。


「神崎でもサボるんだな」

「どうせ教室の鍵が開いてないとかそんな理由でしょ」


あいつ何も考えずにここから出ていったみたいだし。

絶対今日の板書見せてあげないんだから。


「まぁまぁ。教室にはもういると思うし」


かっちと教室まで戻っていき、陽向の姿を捜す。

まぁ捜さなくても、自分の机に突っ伏してたんだけど。


「陽向?あんた授業サボるなんていい度胸してんじゃないの」


連絡のひとつくらい入れろっつーの、という意味を込めて言ったのに、机に突っ伏す陽向からは全くの応答なし。

え、寝てんの?


「陽向、」

「……ごめん、」


もう一度名前を呼んだ私の声に返ってきたのは、陽向の何とも弱々しい声だった。

思わず、隣にいたかっちと顔を合わせて首をひねる。


「陽向?」


もう一度呼びかけると、陽向は顔をあげて私とかっちを見た。

目に入ったのは、今にも泣きそうな顔をしてるのに、むりに笑っている陽向だった。

思わずこっちが切なくなるその表情に、私とかっちはなにも言えなくなる。


「ごめん、私、ちょっと保健室行ってくるね」

「え、あ‥わかった」


ガタリと席を立った陽向は、また、儚げな笑顔を見せてから教室から出ていく。

その姿を見送ったあとに、隣から盛大なため息が聞こえてきた。


「ここ最近の神崎ってずっとあんなんだよな」

「もぬけのからって?」

「そう、そんな感じ。心ここにあらず、みたいな」


かっちにしては、珍しく的を射ていると思う。

最近、というか、桐生と別れたあの日から、陽向はいつもあんなふうに笑うようになった。

どことなく悲しげで、寂しげで、儚げで。

陽向が少しやつれて見えるのは、きっと気のせいなんかじゃないだろう。


「陽向、ちょっと痩せたよね」

「あいつもう痩せるとこないだろ」

「でも痩せた。おまけにうまいこと隠してるけど、目、腫れてるよね」


いったい毎日どれだけ泣いてるんだか。

あんな陽向を見るのは初めてで、正直どうしたものかと悩む。

この原因をつくったのは、間違いなく、彼だ。


「神崎ってさ、普段全然好きとかそんな素振り見せないけどさ」


かっちは陽向の席に座って、陽向の化学のノートをパラパラと見ながら言葉を続ける。


「桐生といるときって、なんだかんだ言って楽しそうなんだよ。なんていうの?恋してますって、全身で伝えてきてるっていうかさ」

「‥そうねー、確かにそうかもしれない」


だけどそれは、目の前にしてる人間にはまったくと言っていいほど届いていない。

不憫にも思えてしまうけど、でも、お互い様だとも思う。


「でもさ、桐生も神崎のことけっこう好きだと思ってたんだけどな」

「うーん‥どうだろうねー、それは」


王子様っていつもあのキラキラスマイル振りまいてるし。

ああやってあの笑顔振りまいて自分の感情とか全部隠しちゃってるんだもん。


「俺さ、たまに桐生と神崎が一緒にいるところ見るんだけどさ、なんていうか‥桐生のあの王子様スマイル以外の笑顔初めて見たもん」

「なにそれ」

「だから、普段見ないような笑顔してた」

「あんた女子か」


その気付き方。

女子でもそんな目敏くないぞ。


「それだけ気許してたんじゃないの?」

「どうだろうね、それは」


わからないけれど。

もしかしたら、陽向の言う秘密と関係があるかもしれない。


「けっこうお似合いのカップルだと思ってたんだけどなぁ」

「あれ、あんた陽向のこと好きなんじゃなかったの?」

「…はぁ?なんでそうなんの?」


私の言葉にかっちは顔を顰める。

あれ、ずっとそうだと思ってたんだけど。


「違うの?」

「違うよ。まぁ友達としては好きだけどな」

「陽向が友達と思ってるかは知らないけどね」


でも違ったんだ。

いつも陽向に絡んでちょっかいばっかかけてるからてっきり好きなんだと思ってた。

うーん、新しい恋になるかと思ったんだけど。


「だいたい俺好きな人別にいるし」

「え?ほんと?誰それ?」

「うっせぇ」

「えぇ!?そこまで言ったんなら教えなさいよ!私だって教えたようなもんなんだから」

「いやいやいや、お前はオープンすぎるんだよ」

「いいじゃない、ここに本人いないんだもん」


いないならどれだけ言っても、伝わんないじゃない。

ていうか、今こうやって言ってるうちの2割でもいいから伝わってくれないかな。

いい加減辛いんだってば。


「あれ、てーことは、かっちの好きな人ってこの学校の人?」

「たいていの人間がそうだと俺は思うけどね」

「確かに」


この学校、共学だもんね。

好きな人なんて作りやすい環境だもんね、ここ。


「で?誰よ、その子」

「言うかよ。…多分、叶わないし」


そう言ったかっちは珍しく、しょげたような笑みを見せた。

本気で好きなんだろうな、なんていうのがわかった。


「でもかっちに思われてるって、幸せ者かもね」

「……なんで?」

「だってかっちって、意外と一途なところあるから」


お調子者で愛されキャラだから、誰とでも仲良いしふらふらしてるイメージ結構あるけど。

いつだったか、好きな子にはとことん尽くすタイプだということは判明した。


「一途に真っ直ぐ思われるなんて、女の子からしたら幸せの何物でもないよね」

「…あっそ」


ぷいっとかっちは私から顔をそらしたけれど、髪からのぞく耳は真っ赤だった。


「(…そう思うんなら、とっとと気付けよな)」


なんてかっちが思ってるなんて、今の私は知らなかった。






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