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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
55/145

54:

「あの2人別れたらしいよ?」

「え、マジ?じゃあ王子様今フリーなんだ」

「なんでも神崎さんがほかの男と二股かけてたとか!」

「うっわ、最悪!ちょっと可愛いからってありえないんだけど」




桐生と別れて1週間。

学校に行くと、必ずと言っていいほどこの話題を耳にする。

女子は私を見るなり、毎回同じ言葉を聞こえるように口にする。


それが結構、精神的にくる。


「言わせとけばいいんだよ、あんなの。ただの僻みなんだから」

「‥そうだね」


聖はじろっと廊下の外にいる女子を睨みつけて言う。

腕を組んで見下すようにしているその様子はまさに女王様だ。


「ただ、二股ってのが気になるけど」


ため息まじりに言った聖はちらっと私を見る。

一瞬私を見ただけなのに、その目は「言え」と雄弁に語っている。

そして私と聖の異様な空気を感じたのか、よくわからないけどかっちがいきなり隣に座り込んだ。


「あんたは呼んでないんだけど」

「いいだろ、別に。味方は多い方がいいぜ?」


ニッと白い歯を見せるようにして笑ったかっちは、微笑むような笑みを私に向けた。

‥かっちのくせに。


「神崎ってそりゃあ、無自覚に男をたらしこんでるところはあるけどさ、二股とかはかけないと思うんだよね」


うんうんと頷きながら言うが、私たちが頷ける要素が何一つない。


「根拠は?」

「男の勘だ!」

「‥男の勘ほど当てにならないものってないんだよね」

「同感」

「お前らなぁ!とにかく言えって!味方が多いにこしたことはないんだよ」

「まぁ‥それはその通りかもね」


珍しくかっちにしてはいいこと言う、と、褒めてるのか貶してるのかよくわからない言葉を言った聖は、かっちから私の方に視線を移す。


「そもそもさ、浮気の情報源はどこなわけ?」

「2組の斉藤と、3年の先輩らしい」

「なんであんたがそれ知ってんの。まさか嗅ぎまわってんの?」


聖は引き気味にかっちに尋ねる。

かっちならやりかねないから嫌なんだよなぁ。


「お前ら俺が何の委員会に所属してると思ってんだよ」

「なんの?」

「委員会?」

「知らねぇのかよ!」


なんで知らねぇんだよ!と一人でうるさくしているが、なんで知ってると思うんだよ。

クラスメイトの委員会なんていちいち把握してないし。


「なにを隠そう、俺は広報委員会だよ!」


そもそもそんな委員会あったんだ?

新聞でもなく、放送でもなく、広報なんだ?

広報委員会って、なんか聞きなれないし言いにくいよね。


「王子様関係のネタならいくらでも知ってるってこと」

「それもっと早くいいなよ。かっちと縁切るところだったじゃない」

「それは思ってても言うことじゃないよな!?」

「で?その人達が何て言ってんの?」

「なんつー無理やりな方向修正」

「いいから言いなさいよ」


…なんていうか、前々から思ってたけどこの2人の会話って漫才みたいなんだよね。

もしかしたらわざとやってるんじゃないだろうか。


「神崎が他校の生徒と駅で待ち合わせして並んで歩いてるとこを見たとか、夜にスーパーとかコンビニで知らない男と一緒に買い物に来てたとか、その人とはやたらと親密そうな関係に見えたとか」


駅で待ち合わせするような人って旭しかいないし、夜に買い物に行くような人って旭しかいないし。

親密かどうかは別にして、それって間違いなく私の実兄じゃない?


「背の高いイケメンって言ってたよ。日暮高校の制服着てたとも言ってた」

「…旭だ」

「旭君だね」

「え、綿貫も知り合いなの?ていうか、神崎この人とどんな関係?」


かっちはどこぞの記者よろしく、ペンとメモ帳を持って聞く体勢に入る。

誰のモノマネだろう、これ。


「どんなって…旭は双子の兄だよ」

「お兄さん!?え、嘘、マジ!?」

「おおマジ。私、日暮高校の知り合いって旭しかいないけど」


ため息まじりに言えば、かっちは「マジか」と呆然としていた。

なにその拍子抜けみたいな顔。

二股とかしないやつとか何とか言ってたのはどこの誰だよ。


「じゃあやっぱり勘違いか」

「ていうか、この話、王子様はどこまで知っててどこまで信じてるの?」

「さぁ‥桐生ってそういうの言わないらしいから。あ、でも、自分以上に仲のいい男の人はいるみたいですって言ってたらしい」

「なにそれ」

「だろー?これを聞く限りじゃ、桐生も二股信じてるっぽいし」


なんだかよくわからないけれど、モヤモヤした。

桐生がそんな簡単に二股説を信じるような人間じゃないことはわかってる。

でも、彼はその話を信じてる。

二股を信じてるのかは知らないけれど。

それでも彼は。


「どこで見たんだろうね?」

「なにが?」

「かっちには関係ないよ」


隣では2人がまた漫才みたいな会話をひろげている。

それを聞き流しながら、頭はいろいろ考える。


「もしかして、これが別れた原因?」

「へ?」

「‥いや、だって普通に考えたらそうだろ?」


遠慮気味に言ったのは、事情を知らないかっちだ。


「引き金には、なったのかもね」


きっと。

あの日桐生が言っていた、縛っちゃいけないものに含まれていたんだろうね、これも。

だけど、これも。

ただの一因にすぎないんだよ、きっと。


「じゃあ修復の余地あり?」

「いや、」


それはきっと、


「ないんじゃない?それは」


この関係が直ることなんて、きっとこの先、永遠にない。



君が君である限り。

私が私である限り。







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