表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
54/145

53:

地を這うような声で「許せない」と言った聖は大きな舌打ちをついた。


「聖?」

「あいつ、勝手に自分の意見押し付けて‥陽向はそれでいいの?」


いいわけない。

でもこうするしか方法はなかった。


「ていうか‥そもそもなんでそんな関係になったの?」

「それは…ごめん、言えない」

「…あくまで秘密は守るわけね」

「まぁ、」


言わないとわかったから私フラれたわけだし。

これでべらべら言っちゃったら元も子もないんだよね。


「好きなら好きって言えばいいじゃない」


聖はため息まじりに言って、暗くなった空を見る。

そろそろ帰らないと、本格的に空は真っ暗になりそうだ。


「約束がって言うけど、人の気持ちほど変わりやすいものなんてないよ?」

「そう、だけど」

「当たって砕けろって言葉あるでしょ」

「砕けちゃったら意味ない」

「砕けてから言いなさい」

「え、ひどい」


この子、私を慰めにきたとかそういうわけじゃなさそう。

なんだろう、たまってた涙も引っ込んじゃった。


「好きなんでしょう?」

「…うん」

「恋は自分本位なものって偉い誰かが言ってたわよ」


だからって聖が偉そうにするのは間違ってると思うんだけど。


「どうしたいの、あんたは」

「私?」

「そうよ。このまま諦めちゃうの?少なくとも、王子様だってあんたのこと嫌ってなかったわよ」


ふんと鼻を鳴らすように言った聖は、泣きやんだ私を連れて教室の方へと歩いて行く。

どうやら帰りながら話そうとのことらしい。


「違うんだって」

「なにがよ」

「私が好きにならないって約束したの」


だってあの時は本当に好きになると思ってなかった。

好きになるなんてあるわけないと信じてた。


「だから?」

「へ?」

「だからなんだっていうのよ」


聖は振り返って私を見る。

呆れたような表情の中には、さっきまでの不安そうな色はない。


「あんたが王子様にどんな宣言しようが、王子様があんたのタイプと真逆の人間だろうが、好きになっちゃったものは仕方ないでしょ?惚れさせた向こうが悪いの」


廊下のど真ん中で、いくら人気がないとはいえ、そんなことを堂々と言っていいのだろうか。

呆気にとられている私にかまうことなく、聖はまた言葉を紡ぐ。


「泣くなら砕けてからにしなさい。した後悔よりしてない後悔のが大きいってよく言うでしょ」


聖は男前に言い切ると、誰もいない教室に入っていく。

その後ろ姿を追って教室に入って、机の上に置いてあるかばんを背負った。

何も言わずに下駄箱までの廊下をゆっくりと歩く。

隣には、いつもと違う、でも少し前には毎日と言っていいほど隣にいた聖が歩いている。

見えない姿に、思い出す姿に、また涙腺が緩んでくる。

溢れてきそうな涙をこらえるために、私は俯いてため息をこぼした。


「シェイクスピアのお言葉も満更じゃないわね」


じっと私を見ながら聖は言うと、下駄箱に入っていた靴を地面に落とした。


「シェイクスピア?」


ってあの喜劇王の?

あれ悲劇王だっけ?

なんかそれっぽい言葉ってあったっけ。


「恋ってのはため息と涙でできてるんだってさ」


今のあんただね、と、笑って言った聖は、よくわからないけどオペラ座の怪人を鼻歌で歌っていた。

…シェイクスピアってオペラ座の怪人じゃないよね。


「で?どうすんの?」

「どうしようね」


持て余しちゃったこの恋心ね。

しばらくはくすぶってんのかな、やっぱり。


「そんな簡単に諦められそうにないんだよね」

「あんた、けっこう惚れてるね」

「私もさっき気付いた」


私、桐生のこと、自分で思っていたより好きだったみたい。


「告白する気は?」

「ない、かな」

「ふぅん?いいの?それで」

「…うん」


聖は納得いかないという顔をしているけれど、何も言わずに「そう」とだけ言った。


「まぁ好きになっちゃったものは仕方ないからね」

「失恋って辛いなー」

「あーバカそれ言っちゃう?あんた五十嵐君ふったんでしょ?」

「まぁ‥遠回しに」


まだあきらめてないって感じだったけどね。

俺待ちますなんていうスタンスだったし。


「五十嵐君も絶賛失恋中でしょ」

「そうなるね」

「ならそれ言っちゃダメでしょ。ていうか、乗り換えちゃったらいいのに。五十嵐君だって優良物件ってのには変わりないでしょ」


勿体ないと付け足した聖は好奇心の色を帯びた目を私に向ける。


「五十嵐君ならあんたを大切にしてくれると思うよ」

「うん、そうだろうね」


きっと彼は、目に入れても痛くないってほどに愛してくれるだろう。

砂糖菓子にはちみつをかけたくらいに甘い言葉をくれるだろう。

だけど、それじゃだめなんだ。


「忘れられそうにないんだよね」


あいつを。

残念ながら。

きっと彼のことはしばらく忘れられそうにない。

ほんの数か月一緒に帰って、廊下ですれ違えば笑って話していただけなのに。


彼が私を占める割合は大きい。

それこそ、今、彼で頭の中がいっぱいになるくらいに。

だけど、彼のそばにはいられない。

彼の隣は私じゃない。


「次の恋が始まってるといいんだけどね、」


そんな願いが叶うことはないんだろうね。




恋がこんなにも切ないなんて。


初めて知ったよ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ