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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
53/145

52:

「ごめん、待った?」

「ううん、今来たとこ」


場所は、初めて桐生に呼び出された教室だった。

外は夕方を通り越して、すでに夜の顔を見せ始めている。

もしかしたら、曇天がそう思わせているのかもしれない。


「ごめんな、急に呼び出して」

「いいよ、別に。話が、あるんでしょ?」


そう言えば、桐生は表情を硬くした。

私と目が合った後に、なんともわかりやすく視線を私から外して外を見る。

しばしの沈黙が続いた。


「あのさ、」


沈黙を破ったのは、桐生だった。

唇を噛み締めた桐生は、言い迷っているのか、目を彷徨わせている。


「そろそろ、終わりにしようか」


待ってはなかったけど、待ってました。

わかっていても、その衝撃はけっこうあって。

見上げた桐生の顔は複雑そうな、それでいてどことなく辛そうだった。


そんな顔するくらいなら。


「神崎なら言いふらさないってわかった」


にっこりと。

笑っている桐生の顔は悲しそうで。

もしかしたら言いふらすかもしれないじゃない、という言葉を言いかけて飲みこむ。


「そういう約束だったしね」


彼は私から目をそらして言葉を紡ぐ。

見えなくなった桐生は、いったいどんな表情をしているのだろう。


「これ以上、神崎を縛っておくのも悪いしね」


桐生はそれらしい理由を並べる。

まるでそうすることが正しいと言わんばかりに。


「終わりにしよう、神崎」


最終的には、しっかりと私を見据えた桐生は、はっきりとした口調でそう告げた。

私は桐生の言葉を俯いて目を伏せて何度も頭の中で反芻させる。


この関係に終止符を。


そこに私の意思はいらない。

私には、頷く以外の選択肢は最初から、ない。


「五十嵐にも悪いからな。このまま続けてると、お前ら付き合えないもんな」

「……そ、か」


じゃあ私が五十嵐君と付き合わないと言えば、この関係はまだ続くの?

まだ、桐生のそばにいられるの?


私が好きなのは――――――、





桐生、あんたなんだよ?


「五十嵐みたいな優良物件、見逃せないもんな」


ハハッと乾いた笑い声を出した桐生は、いつもみたいな王子様の笑みを私に向ける。


それは。

それは、もう他人だという証?

遠回しに、好きじゃないと言われているようで。


「ごめんな、俺のわがままに付き合わせて」

「…ううん」


そんなことないと、そう言いたいのに。

もっと一緒にいたいと言いたいのに。


桐生はそんな言葉、望んでない。


なんで。

どうして。

こんなにも、好きなのに。


「じゃあさよならだね、桐生」


ねぇ、私は今、うまく笑えてる?


「…そうだな」


明日からは。

この教室を出てからは、私たちはただの同級生。

わかってる、わかっていた。


「けっこう楽しかったよ」

「ああ。よかったよ、一緒にいれた相手が神崎で」


それは、私が桐生を好きにならないと思っているから?

そういうこと?


「じゃあ俺はもう行くけど‥」

「うん、じゃあね」


ここで教室から出ていきそうな桐生の手を、腕を、掴めたらどんなにいいだろう。

去ろうとする背中に言葉をかけられたら、どんなにいいだろう・

それができないから。

そんな言葉をかけられないから。


ばいばい、桐生。

ばいばい、私の大好きな人。




「……っ、」


桐生がいなくなってひとりになった教室で、私の頬には涙が伝った。

泣くほど好きだったなんて、知らなかった。


どうせなら嫌いになればよかった。

どうせならもっと線引きして接すればよかった。


どうして、こんなにも気を許してしまったのか。

どうして、こんなにも好きになってしまったのか。


今更思っても遅いのに。

もう今までの時間は戻ってこないのに。


「も…やだ、」


もっとそばにいたかった。

もっとあの笑顔を見たかった。

もっと一緒に話したかった。


もっと、もっと。


好きでいたかった。




「陽向?」

「……ひじり、」


名前を呼ばれて振り向いた先にいたのは、委員会に行っていた聖だった。

聖の手には数枚の紙と筆箱があった。

おそらく委員会の帰りなんだろう。

この先には私たちの教室がある。


「ちょ、あんたどうしたの!?なんで泣いてるの!?」

「ふぇ‥聖」

「陽向?」


教室に慌てて入ってきた聖に抱きつく私を、聖は受け止めてよしよしと頭を撫でてくれる。

しばらく聖の胸で泣いたあと、目に入ったのはハンカチを差し伸べてくれた聖の顔だった。


「ごめん、」

「いいけど…話は聞かせてくれるんだよね?」

「そうだね。聖に全部話すよ」


聖にハンカチを受け取った私は目尻にたまった涙を拭いて聖に、生徒手帳を拾ったあの日からさっきまであったすべてこのことを話した。

聖は何も言わずに私の話に耳を傾けてくれた。

頷いたり、たまに私の背中を撫でてくれたり。

おかげにだいぶ落ち着いて聖に話すことができた。


聖に今までのことを話してちらっと聖を見上げると、しかめっ面の聖と目が合った。

何を言うんだろうと身構えたその時だった。


「許せない」


と、低い声で聖は言って舌打ちをついた。







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