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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
51/145

50:

街では夜になるとキラキラとイルミネーションが光るようになった。

どこへ行っても、同じような音楽が鳴り響いている。


クリスマスはもうそこまで迫ってきている。

そう思うたびに、私の口からはため息がこぼれてしまう。


「いいよね、リア充のクリスマスは」


厭味100%にジト目を足して、聖は言った。

よく言う、と思う。

別に旭を諦めて、その辺の男に声をかければいくらでも駆け込みで間に合うだろうに。


「旭は今年も合宿らしいよ」


クリスマスに。

先生も鬼だよね。

わざわざクリスマスイブからクリスマスにかけて合宿しなくてもいいのに。


「ほんとありえないんだけど、それ」

「そんなこと言われてもねー。去年もそんな感じだったし」


カップル泣かせだねって、去年から旭と言ってるし。


「陽向んちに行っても会えないとか本当に辛いわ」

「あ、今年は私もいないよ?」

[わかってるわよ。王子と会うんでしょ?」


それ以上言うなと言わんばかりに言った聖はふんっと鼻を鳴らした。


「いやー…部活なんだよね、クリスマス」

「ええ?みやっち意外と鬼だね」

「なんていうか‥合同練習みたいなんだけど、その日しか予定が合わなかったんだってさ」


それも聞いた話じゃ、ほぼ1日部活だって言ってた。


「じゃあ会わないの?」

「そうだねー‥会えないかな」


会わないんじゃなくて。

そろそろ、会えなくなる。


「それはそれで悲しいね」

「部活だし別にって感じだけど」

「…そういうところ、旭君とそっくりだよね。相手の誕生日だろうがクリスマスだろうがお構いなしなところ」


聖のいじけたような言葉に思わず苦笑する。

本当に、私の愚兄も罪な男だ。


「旭君っていっつもそうだったもんね」

「あー‥そうだったっけ?」


そういやクリスマスも年末年始も誕生日も家にいなかったかもね。

でもそんなこと言っちゃったら日和もそんな感じだったからね。

血は争えないんじゃないの?

まぁ日和から生まれたわけじゃないけど。


「でも珍しいね、合同合宿なんて」

「そうなんだよねー。これがまた問題でねー」


なーんでわざわざ日暮高校にしたんだろーね。

日暮高校って確かに強豪校だけど男子しかいないんだよ。

しかも瑛太とか日暮高校にいるライバルのことすっごい気にしてるし。


「瑛太が暴走しなきゃいいけど」

「え?朝倉君に限ってそんなことないでしょ。朝倉君の女子の人気すごいんだから。純和風な王子様って言われてるくらい」

「‥なにそれ」


純和風な王子様って…和風っていう時点で王子様じゃないよね。

王子様ってどう考えても西洋だもんね。


「知らないの?1年の時から一部じゃ超がつくくらい有名だよ?」

「瑛太が?うっそだぁ」

「いや事実だから。あんたね、朝倉君の顔ちゃんと見たことある?」

「月水金で見てます」


なんなら、2年生2人だけだし、この前も一緒にご飯食べに行きましたよ。

なんなら昨日も会ったし、明日も会うよ。


「イケメンでしょ?」

「あーまぁ‥そうだね」


和風美人だもんね、彼。

中身が真っ黒なタヌキでもねー。


「だからあんた1年生の時から目はつけられてたんだよ?朝倉君目当てで弓道部に入ったんじゃないかって」

「そうなの!?」

「知らずに生きてこれたって平和よねー」


うんうんと頷きながら言った聖は頬杖をつきながらちらりと廊下を見た。

その目を追って廊下を見ると、廊下には見覚えのある顔が見えた。


「…伊織君?」


きょろきょろと私たちのクラスを見渡す伊織君は、私と目が合うとホッとしたような顔をして教室の中に入ってきた。


「あんたまたイケメンと仲良くなっちゃって」

「うるさいな、不可抗力でしょ」

「どんだけ女子から睨まれれば気が済むのよ」

「喜んで代わってあげるけどね」


こんな立ち位置なんてね。

私だって好きでこんなポジションにいないからね、ほんと。


「不可抗力ってひどいなぁ、陽向ちゃん」

「…何の用?教室まで来るって珍しい」


挨拶しかしないような仲なのにね。

見上げるようにして見ながら言うと、伊織君は言いにくそうな顔をしながら頬をかいた。


「席外そうか?」

「いや、こっちがどくわ。ごめんね、ちょっと空けるね」


聖が気を遣ってくれて席から立ち上がったけど、それを静止して、伊織君を見た。

伊織君は申し訳なさそうな顔をしながら教室から出ていく私のあとをついてきた。

教室から出て、階段を上がっていく。

先にあった扉を開けると、冬空が顔を覗かせた。

寒く冷たい風がほほを掠める。

吐いた息は白く染まって空気に溶けた。


「で?」

「で?ってきついなぁ」


へラッと笑う伊織君は、顔は笑っているけど目は笑ってないって感じだ。


「桐生のことでしょ?」

「…陽向ちゃんさ、澪のことどう思ってる?」


にっこりと笑った伊織君は遠慮気味にそう言うと、さっきと同じようにほほをかいた。

もしかしたら、頬をかくのは伊織君の困った時の癖なのかもしれない。


「どうって?」

「そのままだよ。澪のこと、どう思ってる?」

「……最近その話ばっかだなぁ」


ほんと、嫌になるくらいだ。

ため息まじりに言って伊織君を見る。


「もし、澪のことなんとも思ってないならさ、」


伊織君は一度言葉を切って、私の方を見つめる。

その目は真剣そのもので。

思わずこっちが目をそらしたくなる。


「澪との関係、そろそろ終わりにしてくれない?」


―――――――――ああ、やっぱり。

そんなことを言われるような気がしてたんだ。


気持ちを、涙を、堪えようとして見上げた空は、今にも雨が降り出しそうな曇天だった。







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