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「で、なにがあったんです?いい加減話してもらえません?」
「私、一言も話すなんて言ってないけどね」
あんたが勝手に強制連行してきただけで。
私、話す気微塵も持ってないからね。
「わかりました。じゃあ僕が今まで思っていたことを言いますね」
「はい?」
にっこりと笑った瑛太はお茶をずずーっとすすった。
どうやらこれが開始の合図らしい。
「ずっと不思議だったんですよね、陽向さんと桐生君が付き合うなんて」
「そう‥だね」
「今まで何の接点もありませんでしたし、陽向さん、ああいう人嫌いでしょうから」
そのああいう人にあんたも片足突っ込んでるってわかってんのかな。
瑛太も私のブラックリスト予備軍なんだから。
「それが何の前触れもなく付き合ったなんて。それも難攻不落と言われる桐生君と」
瑛太はうーんと悩んでから、茶わん蒸しを頼む。
ついでに私の分も頼んでもらって、2人してお茶をすすった。
「誰だって裏があると思うでしょう」
「思ったんだね、あんたも例外なく」
「そりゃあそうでしょう。桐生君の一目惚れだってことになってますけど、彼が一目惚れなんてする人に見えますか?」
いや、確かに見えませんけど。
仕方ないじゃない、そういう設定でここまできてるんだから。
「それに、仮に本当に桐生君の一目惚れだったとして」
瑛太は届いた茶わん蒸しのふたを取りながら言って、言葉をいったん区切る。
その間に私も茶わん蒸しのふたを取ってスプーンですくった。
「陽向さんがオッケーする確率は何%ですかね?」
「……、」
「限りなく0に近いでしょうね、桐生君がただの顔のいい男子生徒じゃないのなら尚更」
「なにが言いたいわけ」
「今までの陽向さんなら即決でコンマ数秒で相手をふってましたよ、相手の顔がいいならなおのこと」
「……こういうときの幼馴染ほど恨めしいものはないね」
なんで今まで瑛太に言ったこともないことをこいつが知ってんだ。
「それなのに付き合ってる。明らかな矛盾ですよね。だから何かあったんだろうなっていうのはすぐに想像がつきました」
「あんた探偵になれるんじゃないの」
「褒めて頂けて光栄ですね」
「褒めてねーし」
貶してるんだし。
「なんでこんなことしてるんですか?」
「‥それは、」
「こんな恋愛ごっこしても、なににもならないでしょう?」
「わかってるよ」
そんなの、自分が嫌というほど感じてるよ。
でも、自分から切れそうにないから。
だからここでこんなにもごまついてるんじゃないの。
「五十嵐君にも失礼じゃないですか、彼の方こそ真剣に陽向さんを好きでしょう」
「‥そうだね」
でも気付いたんだもの。
彼じゃだめだって。
「陽向さん、」
「なに」
「そんなに好きですか、桐生君のことが」
「え、‥‥えーっと」
「見てればわかりますよ」
にっこりと諭すように言われて、思わず顔に熱が集まる。
「じゃあ千里さんのあの時の言葉は本当だったってことになりますね」
「あの時の言葉?」
「陽向さんでも嫉妬するって話ですよ」
「別に私は、」
「嫉妬してたんじゃないですか?千里さんが今にも泣きそうな顔してたって聞きましたよ」
「……、」
「黙認ですか」
「いや、なんで肯定の意味でとっちゃうの」
自分にいいように解釈しすぎでしょうが。
「いつまで続けるんですか、それ」
「…わかんない」
「わかんないって…子供のままごとじゃないんですから」
瑛太の言葉がチクチクと刺さる。
痛いのか痺れるのかすらもうわからない。
ただキシキシと心が軋んでいく、そんな気がした。
「約束の上に成り立ってるから」
「約束ですか」
「もうすぐ、約束が終わっちゃうから」
あとどれだけ桐生のそばにいられるだろうか。
あとどれだけ桐生の声を聞けるだろうか。
あとどれだけ、桐生のことを好きでいられるだろうか。
「別に終わったからって、」
「ううん、そういう約束だから」
絶対に好きにならないって、ありえないって、私はあの日、屋上で桐生に言った。
そして桐生も同じように言った。
『好きになられても困る』と。
「好きになるのはルール違反だよ」
それも今更になって。
好きにならないと言い切った後になって。
やっぱり好きだなんて。
「好きなら関係と思いますよ」
「お互いが好きならね」
「桐生君は好いてないと?確認もしてないのに決めつけるのはどうかと思いますよ」
「‥好きになられちゃ困るって言ったのは、あいつだよ」
好きになるなという牽制を最初にしてきたのは、まぎれもなく向こうなのだ。
だからルール違反でしょ?
「諦めるんですか」
「ううん、忘れるの」
「忘れる?」
「うん。だってなかったことにでもしないと、辛いのは目に見えてるもん」
「そこまでわかってて、」
「そこまでわかってるから忘れるの」
そう言えば、瑛太に意味がわからないという顔をされた。
その目は雄弁に理由を言えと訴えている。
「それはそれで五十嵐君に失礼じゃないですか」
「なんで?」
「桐生君が好きだとわかってて付き合うんでしょ?」
「え、私五十嵐君と付き合うなんて一言も言ってないじゃない」
なんていう勘違いをしてくれてるの。
「違うんですか?」
「違うもなにも、最初から私顔がいい人はタイプじゃないもの」
別に五十嵐君が悪い子だとは思わないけど。
なんていうか…ひどいけど、ほんとにタイプじゃないのよね、イケメンって。
「桐生君とも別れるけど、五十嵐君とも付き合わない、ですか」
「悪い?」
「いや?でもまぁ…酷な事しますね、陽向さんも」
もって。
自分がひどいことしてるっていう自覚あるんだね、やっぱり。




