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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
43/145

42:

「うっわ、なにこれ。お前のび太君でも目指してんの?」

「うっさい、黙れ」

「なにそんなささくれ立ってんの?」


テストを週明けに迎えた土日。

リビングで勉強している私のノートを見た旭は呆れたように言った。

私の前に座った旭は、真っ赤に直しをしてある地理のノートを手にしてパラパラとめくった。


「‥え、お前ほんとなに。なんか悪いもんでも食った?」

「なにも食べてないし、頭も打ってない」

「いや頭を打ったかは聞いてないし」

「なんでもいいけど返して。勉強できない」

「できないって‥全く頭に入ってないだろ、これじゃ」


ため息まじりに言う旭は「ひっでぇ」なんて言いながらノートを丁寧に見ていく。

その様子をじーっと見ていると、視線を感じたのか、旭はノートから私を見た。


「どうした?」

「‥なんでも」

「ないって顔してない。最近みんなが陽向の様子がおかしいって言うからなにかと思えば」

「別に勉強で疲れてるだけ」


そんだけ真っ赤なんだもん、勉強疲れってのも頷けるでしょうが。

つーか頷け。


「そういやさ、陽向」

「なに」

「お前この前、どこで飯食ってきたの?」

「この前?」

「家に誰もいなかった日。家で作った様子もなかったし、帰ってくるのも遅かったんだろ」


旭に聞かれて、私はその日のことを思い出す。

確か…伊織君と初めて会った日だ。

そして、桐生と初めて、放課後デートをした日。


「聞いた話じゃ、彼氏と飯食ってたんだって?」

「誰情報よ」

「綿貫」


今なら聖を恨めるような気がする。

ていうか、普段全く接触ないくせに、なんでそういう情報交換だけはちゃっかりしてんのよ。

マジでありえないんだけど。


「陽向、彼氏なんていたんだな」

「…違うよ」

「は?」

「彼氏じゃないよ、あいつは」


そんなのじゃない。

そんな、いいものじゃない、彼は。


「でも付き合ってる説のある男だって聞いたぜ?」

「‥あんた聖からなに聞いたのよ」

「別に、その日の帰りに会ったんだよ。そしたら教えてくれた」

「‥あのおしゃべり」

「親友をんな風に言うなって」

「思ってもないこと言わないでよ」


ていうか、たまたま帰りに会っただけで、どんな情報交換してんのよ。


「友達以上恋人未満の相手とデートしてたんだろ?」

「そんなんじゃない」

「どうだかなぁ。相手は結構本気かもしれないぜ?」

「ありえない」


それだけは絶対にありえない。


「だいたいそろそろ潮時だし」

「は?」

「‥あー‥今の無し。聞かなかったことにしておいて」

「出来ると思ってんの?」

「できるから言ってんでしょう」

「はい、むり。何でもいいから吐け」


そう言った旭は2人ぶんのコーヒーを淹れて、さっきまで座っていた場所に座りなおした。

どうやら話を聞くまでは逃がしてくれないらしい。


「で?潮時ってなに」

「それはー‥」


私は言葉を濁しながら、ところどころ隠しながら、旭に今までのことを話した。

話を聞いている間、旭は静かで、ただ眉間にはしわが刻みこまれていった。

美形が凄むと本当に怖いからやめてほしいんだけど。


「なーるほどね。期間限定のってやつ」

「期間限定っていうか‥仮初めっていうか」

「それを期間限定って言うんだよ、ばか」

「ちょ、バカってひどくない」

「で?お前はそいつに惚れちゃったと」

「は?なんで私が惚れなきゃなんないのよ」

「え、違うの?てっきり好きなんだと思ってたけど」


なーんだ、と言いながら、コーヒーを飲んだ旭はじっと私を見た。

私と同じ茶色い瞳に私が映る。

それが居た堪れなくて、思わず目をそらした。


「だって好きじゃないなら、そっちふって、その年下の子と付き合っちゃえばいいじゃん」

「簡単に言わないでよ」


バスケしか興味ないくせに。

という意味を込めて見てやれば、ふんっと鼻で笑われた。


「話じゃ、そいつは陽向の嫌いなイケメンなんだろ?」

「そう、だけど」


でもそれなら五十嵐君だってイケメンの部類に入る。


「なら乗り換えれば?」

「あのね、」

「切り離すには近くなり過ぎた?それとも情が移った?」


旭のにこにことした顔は珍しいが、どうやら逃がしてくれる気はないみたいだ。


「つーか自分で答え出せてんじゃん?なにをそんな迷ってんの?」

「‥私が桐生といるのは、約束があるからだから」

「ふぅん‥約束、ねぇ。それが邪魔なら取っ払っちゃえば?」

「約束がなかったら、私と桐生は一緒にいない」


そうだ。

もし、あの日、桐生とあんな言葉を交わさなければ、私は桐生と関わることはなかった。

こんなに近くなることはなかった。

こんなにも、好きになることなんてなかった。


「つまり」


はぁ、と一際大きなため息をついた旭は落ち着くためかコーヒーを一口飲んだ。


「その約束が果たされちゃったら、そいつとの接点はなくなるんだ?」

「まぁ、簡単に言うとね」

「でもさー、それなら好きって言っちゃえば」

「‥なんであんたってそんな楽天的なの」

「陽向が人のこと言えたくちじゃないだろ」

「うっ‥」


こういうところだけ似なくていいのに。


「俺が言うのもなんだけどさ、好きとも言わない曖昧な関係ってお互いに傷つくだけだよ」

「ほんっとにあんたが言えた言葉じゃないね」


聖に対して曖昧な関係を何年も続けてるくせに。

いい加減はっきりしてあげればいいのに。


「だから俺が言うのもって言ったじゃん」

「旭もいい加減、聖のことふってあげたら?好きじゃないんでしょ、聖」

「…気付いてたのかよ」

「あのね、私あんたのなんだと思ってんの」


これでもあんたの妹なわけよ。

それも双子。

誰よりも長く隣にいたっての。


「幼馴染だから気まずい?可哀想?」

「別に、」

「だよね、あんたがそんなこと思うような温かみのある人間じゃないもんね」

「おいこら」

「まぁ、私今人の恋路をどうするってほど余裕ないから好きにしてくれていいんだけど」


へへっと笑ってから、旭がいれてくれたコーヒーを飲んだ。

少し冷めたコーヒーは猫舌の私にはちょうどいい温度になっていた。


「でもまぁ旭がどんな答えだしたとしてもさ、私は旭の味方だから」

「……そっか」

「うん」


だからそんな遠慮はいらないよ、という意味を込めて笑えば、旭は困ったように私に笑い返してくれた。

ていうか、なんか最終的に私が励ましてるみたいになったんだけど。

なんで?







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