表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
4/145

03:

放課後。

人気のない教室。

あるのはたった2つの影。

誰もが思い描くのは、告白というシチュエーション。

私の前にいるのは、女子のほとんどが恋心を大なり小なり抱いてる、学校の王子様。




…なーんでこんなことになってるんだか。



5限目の終わり。

いきなり現れた王子様にあっぷあっぷなっていたら、王子様からのお呼び出し。

もうなんていうか「今日この後ご飯行こうよ」みたいなくらいの軽いノリだった気がする。

で、普通なら行かないわけよ。

こんな呼び出し。

それも王子様からの。

しらばっくれようと画策してたわけよ。

それがさ、


「迎えに来たよ」


って、爽やか~な笑顔を携えてわざわざ1組にまで来て下さったわけ。

どこのバカップルだって。

いや、迎えに来られてるの私なんだけどね。


で、今に至ると。


「はぁ、」

「ため息深いね」


そりゃあため息も深くなるでしょうが、という意味も込めて王子様の顔を睨んでやれば、王子様は笑顔でそれを一蹴した。


「何の用、ですか」

「んー?何の用だと思う?」


にこーっと、人が良さそうな笑みを向けてくれる王子様。

なんだろう…背中の汗がすっごい。

なんか、今すっごい逃げたい。


「用がないなら行ってもいい?」


私、これでも部活あるんだけど。

ていうか用ないよね?

てかあってもなくなれ。

勝手に自己解決した私は、くるっと王子様に背を向ける。



「ねぇ神崎さん、これなーんだ」

「…は、って、え?」


聞こえてきた王子様の言葉に振り返った私の目に飛び込んだのは、黒い、小さな冊子。

それはそれは見覚えのある冊子。

ていうか、ここ数日間くらい、切に会いたかった存在。


生・徒・手・帳っ!


ぴらっと開かれた生徒手帳の顔写真は私が毎朝鏡で見る顔。

……って、私じゃん!

いやいやいや。


え、なんで?


「‥それ、どこで、」

「どこだと思う?」


王子様は楽しそうな笑顔を浮かべて私を見る。

それとは正反対にみるみる口元が引きつっていく私。


「10日くらい前かなー。拾ったんだ」

「拾……った?」


どこで?

ていうか、なんで?


「そ。拾ったの」

「……素直に返してくれそうに…ないね」


じっと、私の生徒手帳と王子様の顔を交互に見る。

王子様の顔は相変わらず笑顔だ。

なんかもうその笑顔が憎ったらしいくらい胡散臭い。

やだ、殴りたくなってきちゃう。


「ふふ、わかってて言うんだ?」

「…こんのエセ王子」

「女の子がそんな言葉使っちゃいけないよ」


生徒手帳を閉じた王子様はにこやかに言うと、窓に背を預ける。

そりゃあもう絵になる。

ただ、なんていうか、腹立たしい。


「エセ王子っていうのは否定しないのね」

「そうだなぁ‥君にはそう言われても仕方ないしね」


てーことは…やっぱりあの日に私が見た彼は、王子様ご本人だったってわけ。

私ってあの時相当ついてなかったんだなぁ。

思わず、ため息がもれてしまった。


「あの時見てたのって、君で間違いないんだよね?」

「…やっぱり王子様だったんだ、あれ」


双子のお兄さんだとか、従兄弟とか、そういう感じじゃないんだ。

うう、残念。

今からでも遅くないから、そういう訂正いれてほしいなぁ…今なら素直に信じるし。


「王子、兄弟とかは?」

「?いないよ?」

「‥さいですか」


あー、うー、やっぱり本人?

そろそろ諦めた方がいい?


「まさかここの学生に見られてるとは思わなかったよ」

「私もまさか近所で品行方正で人格者って言われてる人が喧嘩してるとは思わなかったよ」


もう目から鱗だよ。

目が点になっちゃったよ。


「意外?」

「それ以外になにがあんのよ」


この学校のみんなが見たら卒倒しちゃうわよ。


「ばれないようにしてたんだけどなぁ」

「‥ならもっと別の場所でやってよ」

「仕方ないだろー?あの時はあの空き地に連れ込まれたんだから」


連れ込まれたって…もしかして、もしかしなくても、この人喧嘩の常習犯だったりする?

する?

するよね?

やだ、顔が引きつってきちゃう。


「ね、君、見たよね?」


にこっと、綺麗な笑顔を向けてくる王子様に、ゾゾゾっと背筋が凍る感覚を覚える。

思わず、足を退いてしまった。

怖いと、感じる。

私が退いた分、王子様は退いた分×2くらいの歩幅で近づいてくる。


「‥し、知らない」

「嘘。じゃあなんでそんなに怯えた顔してるの?」

「それ、は、」


て・い・う・か!


「顔、顔、近いっ!」


綺麗な顔近づけないでっ!

近すぎて、条件反射で手を出してしまったのは不可抗力だと思う。

王子様は「おっと」と目を丸くしながらそれを避けた。


「あんた本当に女子?」


くくっと、のどを鳴らすように笑った王子様に、今度は私が目を丸くする。

なんていうか…うん、誰だ。


「口は悪いし、すぐに手は出るし、せっかくの可愛い顔が台無しだな」

「…は?」

「だーかーら、台無し。もっとさ、しおらしくしたら?」


…え、ちょ、本当にこの人だれ。

さっきまでの完璧な笑顔携えてた王子様どこ行った?


「‥二重人格」

「失礼だなぁ。せめて猫かぶりって言ってよ」


そう言って、王子様は意地の悪い笑顔を見せた。


なんだか、泥沼っていうか…なんかにはまっていってる気がするなぁ。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ