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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
32/145

31:

それは1時間にも、10分にも思えた。

どれくらいそこにいるのかわからない。

気付けば、桐生は鋭い眼光を向けながら、北高の生徒たちをなぎ倒していた。

肉と肉がぶつかりあう音が耳に響く。

その時に聞こえる低いうめき声もしっかりと耳に届いた。


怖い、と。


本能的に感じた私は1歩、後ろへと退く。

桐生は1度もこちらを見ない。

いや、もしかしたら見ないようにしているのかもしれない。


6人くらいいた北高の生徒は今じゃ2人になっていた。

すでに地面に伏せてしまっている4人と恨めしそうに桐生を見る2人を見た桐生はつまらなさそうにため息をついた。


「よっわ」

「ああ!?」

「弱いって言ってんの。聞こえなかった?」

「‥っ、ふっざけんじゃねぇ!」


桐生の言葉に、1人が拳をあげる。

それを簡単にかわした桐生は相手の鳩尾に自分の拳をめり込ませた。

聞こえてきた何とも言えない、声にならない声。


「そこまでだ!」

「…っ」


近くで聞こえてきた声に思わず息を呑んだ。

首筋にあてがわれたのは、刃の出たポケットナイフだった。

…ポケットナイフって銃刀法違反にならないのかな。


「でかしたぞ!」

「…っち」

「そうだ、動くなよ、桐生。この女に傷がつくのは嫌だろ?」


その言葉に桐生は何も言わない。

ただじっと、ぬいぐるみを抱きしめる私を見ている。

ここにきて、初めて喧嘩をしている桐生と目が合った。


なんて、目をしているんだろう。

引き込まれそうなほどの漆黒の瞳は、今まで見たことがないくらい、光を無くしていた。


「…桐生?」


彼は一体、何を見ているのだろう。

呼んだ声は彼に聞こえているのだろうか。

ただじっと、桐生は私を見続ける。

それがどれくらい経っただろう。

痺れを切らした北高の生徒がぐっと持っていたポケットナイフに力をこめた。


「つ、」


そのせいで、首筋にあてがわれていた刃が、少し触れてしまったらしい。

ピリッとした痛みが走って、ツーッと何かが流れる感覚がした。


「おっと、動くなよ桐生」

「いい気味だな。お前に報復する日がくるなんて」

「はっ、別に俺はなんもしちゃいねぇけどな」

「この前も可愛がってくれたみたいじゃねぇの」

「この前?あー‥あれか。俺はなんもしてねぇよ。お前らの部下が俺に突っかかってきただけだろ」


桐生はため息をついてそう言うと、ガシガシと髪を乱暴にかいた。

それすら様になるってのは、本当に狡い。


「しかしまぁ‥どうすっかな」


困り果てましたと言わんばかりの顔で言った桐生は、ポリポリとほほをかく。


「あ、」

「あ?」

「あ、じゃないんだけど。こんな街中でなにしてんの」


聞こえてきた第3者の声。

聞き覚えが全くないけれど、桐生の顔を見る限り知り合いなんだろう。


「伊織。今帰りか?」


桐生は「おう」と片手をあげて挨拶をする。

その桐生のあいさつに、後ろから同じような言葉が返ってきた。

なにこの緊張感の無さ。

お宅のせいで私今、人質としてナイフ首にあてがわれてるんだけど。


「で?何してんの?」

「見てわかんねぇ?」

「…こんなとこでしてたら誰に見られるかわかんないよ?」


物腰柔らかなその言葉使いは、今のこの状況にはかなり不似合だ。


「お前ら俺らを無視して話してんじゃねぇ!」

「い、」


ほら怒っちゃったじゃない。

でもって、その感情に合わせて手元をぶらすのやめてほしい。

さっきから首に刃が当たって痛い。


「俺が手出しちゃってもいい感じ?」

「頼むわ。俺動けねぇんだわ」

「はー‥そんなこと微塵も思ってないくせに」


そう言った第3者がどう行動したかはわからないけれど、人を殴る音が聞こえたと思ったら、隣で人が倒れた。


「大丈夫だった?」

「…へ?あ、はい」

「そう、ならよかった」


にこりと笑いかけた彼は、私たちと同じ制服、同じ色のネクタイをつけていた。

同じ学校の2年‥?

黒、というよりはこげ茶に近いサラサラの髪に赤縁のメガネをかけた、パッと見チャラ男の人。

フツメンとは言い難いその容姿に、内心でため息をつく。

…最近イケメンとの遭遇率高くね?

私、イケメンよりフツメンのが好きなんだけど。


「マジで助かったわ」

「まったく…見つけたのが俺じゃなかったらどうしてたの?」


赤縁メガネの彼は呆れた口調でそう言うと、ざっと周りを確認する。

それを見た桐生は苦笑しながら、顔の前で手をあわせて謝った。

…どうやら、この2人はかなり仲が良いらしい。

王子様って特定の友達がいないって聞いてたけど、そんなことなかったんだね。


「はいこれ」

「え、」

「首。血が制服についちゃうから」

「いいですよ、そっちが汚れるし」


血ってなかなか取れないんです、いやほんとに。

私は差し出されたタオルをやわーく押し返して、自分のタオルを取り出す。

感覚ではけっこう流れているように思えたけど、そうでもなかったみたいで、血はけっこう簡単に拭えた。


「女の子巻き込むのは感心しないね」

「うっせぇな」

「しかもその様子だと、デートの途中だったんでしょ?どうして逃げなかったの」

「逃げる前に絡んできたんだからしゃーねぇだろ」

「でももっと得策があったでしょ?彼女だけどこかに逃がすとかさ」

「んな余裕なかったんだよ」

「結果的に何もなかったからよかったけどさ。何かあったらどうするつもりだったの?」

「‥悪かったよ、反省してる」


……なんだろう。

なんかさ、見た目チャラいお兄さんが王子様を叱ってるって、けっこうシュールだよね。


「えっと、神崎さんだっけ?」

「あ、はい」

「この後時間大丈夫?」

「え、あ、はい、まぁ‥」

「そう。じゃあちょっとついてきて」


え?と聞き返す前にぐいっと腕を引っ張られてどこかへと連れて行かれる。

その後ろを桐生が面白くなさそうについてくる。


「え、ちょ、どこ行くの」

「ん?澪んち」

「………………え?」


澪って…澪って……え、女の子ですか?










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