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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
31/145

30:

桐生におごってもらったスムージーを堪能しながら、街中を歩いているとき。

ふいに視線を感じて振り返ると、ちらちらとこちらを女の子たちがいた。

…そんなにこのエセ王子が気になるか。


「モテ男君も大変だねー」


道行く女子がみんな振り返って王子見てるし。

隣に男の子が歩いていようがお構いなく、女の子達こっち見てくるし。


なんなの、こいつ。

なんだろう、なんか、すっごいムカつく。


「ひがむなって」

「誰がいつ僻んだよ」

「なに?じゃあ嫉妬?」

「するか、ばか」


私は手にしていたぬいぐるみを、桐生に思いっきりぶつける。

桐生はそれを片手で簡単に受け取ると、猫の顔と私の顔をまじまじと見て頷いた。


「お前似てるな」

「ブサイクで悪かったわね」

「俺ブサイクだなんて一言も言ってないじゃん」


じゃあその、どこからどう見ても可愛くないといえる猫と似てるって、どういう意味なんだろうね?


「つーかこれお前が持っとけ」

「は?なんで。それ取ったのあんたじゃん」


クレーンゲームで白熱してしまった私達は、どっちがすごいのを取るかって勝負をして、このぬいぐるみを桐生が取ったのだ。

確かにすごいんだけど、これどうするんだって話。

実際の猫よりでかいから問題なんだよ。


「このぬいぐるみはお前に持って帰ってもらいたがってる」

「いやいつからぬいぐるみの気持ちわかるようになったのよ」

「お前がこのぬいぐるみをねねちゃんのママよろしく殴ってても何も言わねぇし」

「なんで私が人形を殴る前提で話するの」


私はこれでも暴力反対派なんだから!


「俺がこのぬいぐるみ持って帰ったところで処分すんのは目に見えてんだよ」

「処分するときはちゃんと神社かどっか行ってね」


ぬいぐるみってなんか怖いから。

別に愛着持ってたわけじゃないけど、なんか嫌だし。


「お前が持ってる方が不自然じゃねぇだろ」


そう言って桐生はぐいっと私の前にぬいぐるみを出してくる。

ブサイクな顔が目の前に来て、じーっとその顔を見る。

…やっぱ似てないよね。

私こんな目吊り上ってないし。


「…大丈夫だって。意外とあんたが持ってても違和感ないから……………多分」

「笑いこらえながら言うことじゃねぇよな」

「いやだって………うん、これはこれでいいんじゃない?シュールで」

「お前ばかにしてるよな?ていうか、楽しんでるよな?」

「いやだって、」


考えてみ?

17歳の高校男子がだよ?

それもキラッキラスマイルが十八番の俺様イケメン高校生がだよ?

両手でぎゅうってできるくらいの猫のぬいぐるみを持って歩いてるって。

もう「ぷっはー」じゃん。

写真撮ってみんなに見せびらかしたいくらいシュールでありえない光景じゃん。

それもこんなブサイクな猫。


「やっぱ桐生が持っとくべきだよ、そいつ。ほら、なんか嬉しそうじゃん」


心なしかほら、吊り上ってる目がやらわいだような気がするでしょ。

実際にそんなのあったら、たまったもんじゃないけど。

怪奇現象通り越してホラーだよ、ホラー。


「んなわけあるか」


べしっと。

漫画だったら、多分背景にそんな擬音語が書かれてたと思う。

投げ返されたぬいぐるみを顔面キャッチした私を見て、桐生は満足そうに笑った。

その顔は、やっぱり普段学校で見る笑顔とは全く違う。


「…やっぱりそっちの顔のがいい」

「は?」

「学校で見せる笑顔より好きだな、そっちのほうが」

「…そりゃどうも、」


ふいっとすぐに顔をそらされたから、桐生がどんな顔をしていたかはわからないけれど、見えた桐生の耳は赤かった。

思わず、ふふっと笑みがこぼれてしまう。

それを耳敏く聞いた桐生は振り返って私の頭を小突いた。


「あっれー、桐生君じゃなーい?」


聞こえてきた厭味ったらしい声に反応して振り返れば、北高の制服を着た数人の男子がいた。

ニタニタという笑みを携えた彼らを桐生は鋭く睨みつけていた。

見たことない桐生に、思わず息を呑む。


「なーに、彼女とデート?彼女可愛いねー。名前なんていうの?」


ねぇ?とあくまで優しく聞いてくるけれど、気持ち悪くて仕方がない。

なにも言わないでいる私の前に、桐生は視界を遮るようにして立ちはだかった。


「き、りゅ?」

「言わなくていい」


ちらっとだけ振り向いた桐生は優しい口調で言って、北高の生徒の方へ向き直った。

桐生の背中しか見えないけれど、桐生のまとう雰囲気が変わったような気がする。


それはまるで、初めて桐生を見たときに似ている。

たとえるなら、殺伐とした、そんな雰囲気。


「かーっこいいー。でもさー、いくら桐生でも女の子背中に庇いながら俺たち相手にするなんて無理だよねー」


ケラケラと笑う姿は見えないけれど、そんな姿にも動じない目の前の彼は鼻でフッと笑った。


「だから?」


まるでそんなのは関係ないと。

そういうには十分すぎる言葉を皮切りに、私の目の前で桐生と北高の人達の喧嘩が始まった。









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