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やたらと賑やかな音楽と、ゲームの音が耳に鬱陶しいくらいに入る。
それに混じるのは、どこかの学生の笑い声と話し声。
ゲームセンターはいつでも人でごった返している。
「人酔いしそう」
空気悪いし。
音とか頭にガンガン響いてくるし。
「ゲーセンで了承したんだから文句言うなよ」
「久しぶりなんだから仕方ないじゃん」
旭と来たのだって中学校の卒業式が最後だし、旭と行かなきゃほかに行く人いないし。
私あんまりプリクラとか好きじゃないし。
「何でもいいけどはぐれんなよ」
「手つないでてはぐれるってあんまりないよね」
「どっかの好奇心旺盛なバカはすぐにどっか行くからな」
桐生はそう言って、私の方をちらりと見る。
「誰が好奇心旺盛な馬鹿よ」
失礼しちゃう。
そりゃあ昔はよく旭と2人でどっか行って、日和にすっごい怒られてたけどさ。
もう私17だよ?
1人でどっかいってもちゃんと帰ってこれるし。
「とりあえずなんかするかな。何したい?」
「うーん‥なんでもいいよー」
「じゃああれしよっか」
あれ、といって桐生が指をさしたのは、どこのゲームセンターにでも置いてあるようなシューティングゲーム。
…女子を誘うもんじゃないってのはわかってもらえると思うんだよね。
しかも、内容がバイオハザードちっくなね。
いや、もういいけど。
「ほらやるぞー。負けたほうがなんか奢るな」
繋いでいた手を引っ張られて、そのまま座らされる。
桐生は隣の席に座って、お金をいれてゲームが始まる。
横に置いてあるおもちゃの銃を持って、バンバン撃っていくっていうシンプルなゲームなんだけど。
女子高生が制服着ながらシューティングゲームって。
セーラー服と機関銃、的な?
セーラー服でも機関銃でもないけど。
「…お前うまくね?」
「なに奢ってもらおうかな」
「まだ負けてねぇし」
「すっごい劣勢でそんなこと言われてもちっとも響かないんだけど」
「いや、お前うますぎるだろ」
ため息まじりに言った桐生は、持っていた銃を横に置いて私を見た。
私の前にある画面にには『you win!』と表示されている。
「ごちそうさまでーす」
なにを奢ってもらおうかと考えながら、私も銃を置いて椅子から立ちあがる。
なんかよくわかんないけど、気分的にすっごいスッキリした。
さっきまでの人酔いが嘘みたいだ。
「どんだけ通い詰めたんだよ」
「別に通い詰めたわけじゃないよ。兄貴たちがゲームとか好きだったら、身に付いただけ」
学校から帰ってきたらゲーム。
休みの日は、朝起きたらゲーム。
小学校の夏休みなんて1日中ゲームに付き合わされて散々だったもん。
それからいくつかゲームをして、景品も手に入ったせいで、私の手には大きなぬいぐるみがいた。
両手でぎゅうってできるくらいの大きなぬいぐるみ。
なんかよくわからない、とりあえずブサイクな猫。
なんていうの、ブサ可愛い的なね。
「さ、なに奢ってもらおっかな」
「賭けなきゃよかった」
「人を下に見るからそうなるんじゃん」
べぇっと舌を出してやれば、桐生は私の頭を小突いて苦笑した。
その表情が、普段学校で見る表情とは全く違ったから、思わず魅入ってしまった。
「なに?惚れた?」
「バカ言わないで」
「あ、そ。俺のど渇いた」
「じゃあ飲み物買いに行こうっか」
そこでなんか奢ってもらおうっと。
2人でゲーセンを出て、近くにあったスムージーを売ってる店に入る。
相変わらず、女子高生で賑わっているみたいで、いろんな制服を着た女子が中で女子会をしていた。
「ここでよかったの?」
「よかねぇけど、気分はスムージーなんだよ」
‥気分がスムージーっていうのもよくわかんないけど、まぁ深くは追及しない。
とりあえず、彼はスムージーをご所望らしい。
「なに飲む?」
「んーとね‥あ、あれがいい!アップルシナモン!」
「アップルシナモンね。買ってくるし、ちょっと待ってて」
桐生はそう言って、レジのお姉さんのところへと行った。
その後ろ姿を見ながら、離れていった体温に、ほんの少しの寂しさを感じる。
「…寂しいねぇ」
思わずぽつりと呟いてしまう。
こんなことを感じるようになっちゃうなんて。
絆されちゃったんだろうか。
それとも……と考えたところで、考えるのをやめる。
考えることをやめる代わりに、店の中にいる女の子たちに目を向けて見る。
綺麗に巻かれた髪に、ばっちりメイクに、手入れされた爪。
女の子って感じの女の子達。
無縁だなーって、同じ女子なのに遠く感じてしまう。
そしてその女の子達の視線を一身に浴びる、さっきまで私の隣にいたイケメンの王子様。
どこにいても彼はやはりモテるのだと、痛感させられる。
釣り合わないと、感じてしまう。
「………意味わかんない」
なにが釣り合わないだ。
そんなこともともとわかってたし、そもそも私は彼を好きじゃないじゃない。
なのに、なにが釣り合わないよ。
それじゃあまるで、私が彼を…彼を好きみたいじゃない。
「なに難しい顔してんの?」
「へ?」
「へ?じゃなくて。眉間にしわ寄ってたけど?」
「‥気のせいじゃない?」
「気のせいで1分近くも眉間にしわ寄せるの?」
「1分も放っといたわけ、」
「いや面白くって。あ、はいこれ」
「ありがと」
「いいえ。ま、ゲームに負けたの俺だからね。お礼言われてもって感じだよね」
「確かに。前言撤回で」
「で?なにそんな難しい顔してたの?」
「してない、気のせい」
「いやいやすっげぇ怖い顔してたよ?」
なんでそんな食い下がるんだ。
いつもなら「別にいいけど」とか何とか言って、流してくれるくせに。
今日に限ってなんでそんなんなんだ。
「女子の視線、気になる?」
「……気にならないとでも思ってる?」
「だよねー。居心地が悪くて反吐が出る」
そう言った桐生は私の手をまた引っ張って店から出た。
その時に見えた表情はどことなく寂しそうに見えたのは、きっと気のせい。




