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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
3/145

02:

「そういやさ、陽向今日どうしたの?遅刻ぎりぎりだったじゃん」

「あー‥それね」


私が胃を痛めてる、もう1つの理由。

聞いてくれますか。


「いつからかわかんないんだけど。生徒手帳がさ…行方不明なんだよね」

「は?」

「生徒手帳が、行方不明なの」


もうほんと、どこいったのかさっぱり。

どこでなくしたのかとか、どこで落としたのかとか、皆目見当もつかないってやつ。


「あんたなんでそんなものなくすのよ」

「だってー」

「もっと他になくせるものあったでしょうが。なんでよりによって生徒手帳なのよ」

「それは私がここ3日ほど自問自答してるから」


それで答えが返ってこないんだから仕方ないじゃない。


「だいたいいつまであったのかもわかんないのに」

「ばか陽向」


そう言った聖からは、盛大なため息が聞こえてきた。


「どうすんのよ。あれないと怒られるわよ」

「そーなのよ。明日までになんとしてもあれがないと困るんだって」


この学校は毎月0のつく日に、服装検査と持ち物検査を定期的に行っている。

まぁたまーに抜き打ちでやったりもするんだけど。

で、この持ち物検査に生徒手帳さんがいないとまずいわけで。

そりゃあもう、脂ぎったはげ教頭からネチネチと怒られるのだ。

そして今日は19日だ。


「どうすんの?」

「明日風邪ひく予定」

「それ、おばさんが許してくれんの?」

「…だよねー‥」


でも遅刻していっても結局のところ検査は受けなきゃならないし、休むくらいしか逃れるすべはないんだよね。


「旭が女の子だったらなー…」

「学校違うんだから意味ないでしょ」

「あーそっか」


むーっと唸ってからため息をつく。

最近ずっとこんな感じだから、旭にすっごい顔でにらまれる。

そこそこに整った顔をしてらっしゃるから、そりゃあもうすっごい迫力なわけよ。

怖いったらないわ、ほんと。


「毎朝落し物探しながら行くとさ、どうもぎりぎりになっちゃうんだよね」

「だからぎりぎりなのね。交番とか行ったの?」

「この辺に交番なんてものないじゃん」


私の知る限りじゃ、この辺の交番って行ったら車で30分はかかる場所にしか知らない。

"この辺"なんていうレベルをはるかに超えてる気がするもん。


「心優しい誰かが、徒歩2時間くらいかけて交番まで届けに行ってくれたかもよ?」

「そんな優しさがあるくらいならその辺に置いといてほしかったね」

「それまったく優しくないんだけど」

「私にしてみれば、それが一番優しいんだって」


そしたら今頃、生徒手帳は私の手元に返ってきてるかもしれないわけじゃん。


「でも明日までに見つけないと本気でやばいんじゃない?ないってばれたら買わされるし」

「そうなんだよねー。生徒手帳の再発行ってバカにならないらしいよ」

「そうなの?あんな冊子が?」

「そう、あんな冊子が」


期間もかかるし、お金もかかるらしい。

この前隣のクラスの男子がデカイ声で言ってた気がする。


「生徒手帳を買うか、ブラックリストに載るかってとこだね」

「嫌な二択に絞られたもんだよね」


どっちに転んだって、私にいいようにはならないからね。

と、そこまで言って、特に何かをしたわけじゃないけど、身体をそらして伸びをする。

話し込んでいたせいで、自習の時間はほとんど終わりを迎えているようだ。

ちらほらと、廊下には移動教室から帰ってくる学生の姿が見える。

と、目の端に何かをとらえた。


「…あれ、誰に見える?」

「あれ?あれって……」


指をさした方向を聖は見ると、何も言わずに首を傾げる。

私の目が正しければ、私たちの教室の前に立っているのは、この学校で有名な王子様だ。

相変わらず、イケメンだ。

立ってるだけで絵になるってなんか悔しい。


「この教室に何の用だろうね」

「ほんとに」


王子様のクラスは6組らしく、私たちの教室は1組だから、教室の位置でいうと端と端になる。

だから使う階段も通る廊下も全く違うし、このクラスに王子様が来ることはまぁない。

ただでもこのクラスに出入りしない人がいるってだけでも不思議に思われるのに、それが学校1の有名人となれば、教室中にハテナマークが浮かぶ。

お前何しに来たんだよ、的な。

あ、これ男子の意見かも。

女子はどっちかっていうとウェルカム状態だ。

さっきまで泣いてた立花さんだって、ほほを赤く染めてるくらいだもん。


「王子様の人気っぷりはすごいねー」

「陽向ってびっくりするくらい傍観者だよね」

「だって関係ないし、聖だって似たような反応してるじゃん」

「いやそうなんだけどさ。私は旭君一筋だからいいけど」

「ミーハーな私ってきもくない?」

「確かに。まぁ近くにあんなイケメン連れてたら目も肥えるか」

「あんなイケメン?え、誰。もしかして旭と日和のこと言ってる?」


日和(ひより)は私と旭の兄で、神崎家の長男だ。

確か今年22歳で、大学4回生だって言っていたような気がする。

同じ親から生まれたのかって言いたくなるくらい、日和は男前で、昔からすっごくモテた。

いや多分今もモテてるんだと思うけど。


「日和はともかく旭は‥ねぇ?」

「かっこいいわよ!あんたが知らないだけで旭君モテるんだから」

「はいはい。でも心配しなくてもあの愚兄は彼女なんか作んないよ」


なんたってバスケ馬鹿だから。

彼女なんかそっちのけでバスケしてるから。

もう私が彼女に同情するくらい、彼女の扱いがお粗末だから。


「やっぱりおんなじ高校行けばよかったぁ」

「いやぁそれは無理でしょ」


なんたってあのバスケ馬鹿はむさ苦しいとしか言いようがない男子校になんて通っちゃってるんだから。


「そんなこと…「あのー、」

「はい?」


聖の言葉を遮って聞こえてきた遠慮気味の声に返事をする。

振り向いた先にいたのは、このクラスの大人しめな男子生徒。

私たちにいったい何の用だ。


「神崎さん、だよね?」

「そうだけど…なに?」

「えっと‥桐生君が呼んでる」

「桐生?」


誰それ、と言いかけて口を噤む。

廊下にいる王子様と、目が合ってしまった。


「あー…」


思い出した。

確かあの王子様の苗字は、桐生だったような気がする。








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