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「神崎、迎えー」
体育祭が無事終わって2日。
まだ少し体育祭のお祭り気分が抜けきっていないクラスに響いた、私の名前を呼ぶ声。
最近、恒例になりつつあるこの言葉。
ほんと、やになっちゃう。
「‥木曜日だ、」
黒板に書かれた曜日を見てため息をこぼしてしまった。
忘れてしまいたい。
ていうか忘れてろ。
「毎日迎えって、王子もあんたにお熱だね」
「おっさんみたいな言い方やめてよ」
「でもそうじゃない。ほんとあんたたちって仲良いよね」
「そう見える?」
「見えるよ。十分見える。けっこう一緒にいること多いし。どこのバカップルだって思うもん」
「…そ、」
「どしたの、急に。ほら、王子待たせてんだからはやく行く」
聖に背中を押されて廊下に出ると、廊下で待っていた桐生と目が合った。
にこりと笑う彼はいつも通り王子様だ。
誰もが羨む、完璧を絵にしたような人。
「大丈夫?急がせちゃった?」
「いや、大丈夫。待たせてごめん」
「いいよ。それじゃあ帰ろっか」
「うん」
先に歩き出した桐生の背中を追うようにして歩くと、桐生は遅れてくる私を待ってから、歩幅を合わせて隣を歩いてくれた。
「おーおー、見られてる、見られてる」
小さな声で言った桐生はくつくつと、王子様らしくない笑みをこぼす。
ていうかふつうに楽しんでるでしょ、この人。
人の気も知らないで。
「私明日から女子にモテちゃうわー‥」
昼も放課後もお呼び出しがかかっちゃうわ、桐生のせいで。
「よかったじゃん」
「‥誰のせいだと……いや、なんでもない」
言っても無駄だな、うん。
黙って耐えろ、私!
いつかほとぼりも冷めて、付き合ってたなんて話もなくなるんだから!
今こいつにこの拳をふるったらそれこそ死刑宣告くらうぞ!
「わかってるよ、俺のせいだろ?」
あ、やだ、手のひらに爪が食い込んじゃう。
「もう開き直ってると思ってた」
ああもう、青筋まで立ちそう。
漫画でいうなら、こう…ぴきっていうやつ。
いやこの際、ブチってのでもいいや。
「神崎って意外とメンタル弱い?」
…私、そろそろこいつ殴ってもいい?
え、殴ってもいいよね?
「女の子がグーはないでしょ」
「平手ならいいのかなー?」
「平手ってけっこう痛いんだよ?」
「じゃあチョキで」
「目つぶしなんて怖いことしないでくれるかなー」
「…っち」
「神崎と喋ってると友達と喋ってるみたいなんだけど‥」
桐生は少し複雑そうに言う。
そして言葉を続ける。
「お前、女じゃないよな」
「はいはい、どーせ女じゃないですよー」
旭にも似たようなこと言われたから、もう言われ慣れてますよー。
けっこう心に響くんですからね、その言葉は。
男に一物ついてんのかって言ってるようなもんだからねー、それ。
「神崎どこ行きたい?」
靴を履きかえて校門を出るくらいに、桐生はこっちを見ないで聞いてきた。
「考えてるもんだと思ってたけど?」
実はノープランだったりするんですか。
ノープラン万歳だけども。
「お前普通の女子とするデートで喜ぶの?」
「いやいや、私も生物学上では女子だから」
「生物学上って自分で言っちゃってるし」
「まぁ行先によるんじゃないの」
さすがにいかがわしいとこに連れて行かれない限りはだいたいオッケーだと思うよ、うん。
「どうっすっかなー‥時間が時間だしな。神崎、帰り何時とか決まってんの?」
「いや、別に。うちんち結構自由度高いから」
「まぁ、夜にコンビニに行くくらいだもんな」
桐生はこの前のことを思い出したのか、ひとりで笑っていた。
その様子を見ながら、私は久しぶりに切符を買った。
「時間に余裕があるならー‥でもまぁ時間が時間だし、映画か、買い物か、カラオケか、…ゲーセン?」
「こっち見ながらゲーセンっていう選択肢出すのやめてくれない?」
「いやゲーセンにいそうな顔だったから」
「どんな顔だよ」
「そんな」
「指さすな、ばか」
まだ同じ高校の生徒いるんだから、王子様キャラ続けてろ!
もっとキラキラしてろ!
「どれ行きたい?」
「どれでもって言ったら何にする?」
「ゲーセン」
「即答でそれかい」
いや、ゲーセン好きだけども。
実はめちゃくちゃ楽しむ派だけども。
「まぁ任せる」
「じゃあゲーセンで」
「はいはい」
「女とゲーセン行くとか初めてじゃね?」
「その言葉そのまま返すわ」
私だって男と…いや旭はよくあるけど、彼氏とゲーセンとか行ったことないし。
まぁカップルで行くとこじゃないよね、あそこは。
「つーか女ってゲーセンあんま行かないでしょ」
「そうでもないよ」
「それ、絶対お前だけだろ」
「……否定しない」
「そらみろ」
「仕方ないじゃん。旭がゲーセン好きだったんだから」
付き合わされてたの、こっちは。
おかげでその辺の男子よりゲーム強いんだから。
クレーンゲームとか神だからね、私。
「じゃ、とりあえず行こうか」
桐生は掲示板を見て電車の時間を確認すると、はい、と、私の前に手を差し伸べる。
「‥‥手、おっきーねー‥」
「神崎」
「指長いねー」
「神崎、現実逃避やめろって」
いやいやだってさ、考えてみ?
なに、その手。
当たり前な感じで手出してくれてるけどさ。
全っ然当たり前じゃないんですけど!?
今の今まで手とかつないだことありました!?
「はい、ビバ強制」
ぐいっと私の手を掴んだ桐生は指を絡めて手をつなぐ。
「普通につなげばいいじゃん、」
「こっちのがぽいでしょ?」
ね?と言って顔の前まで持ってきた手は恋人つなぎをしていた。




