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「おかえりー!陽向、スウェーデンリレーの招集かかってるよー!」
応援席に戻ってきてすぐに聖に言われてため息をついているところに、ぐいっと腕を引っ張られた。
かっちかと思って振り向くと、桐生が立っていた。
いやなんでいんの。
「出るんでしょ?」
「‥あんたも出るの」
「そうみたいだよ」
他人事のように言ってのけた桐生は、さっきの借り人競争よろしく手を掴むと、わらわらと人が集まる場所へと私を連れていく。
ああー、公開処刑だー‥。
女子の目が痛いよー。
「嫌がらせですか、桐生君」
「嫌がらせ以外になにがあるのかな、神崎さん」
やだ、冷や汗。
背筋が寒いわ…風邪でも引いたかな。
「五十嵐なんて余計なもん背負い込みやがって」
舌打ちをついた桐生は小さな声で悪態をつく。
「返事まだしてないんだから、あんたのとこに行ったのは私のせいじゃないもん」
「きっぱり断っときゃこうならなかっただろ」
「それはどうだろうねー。断っててもこうなってたかもよ」
「‥めんどくせぇ」
「はいはい、そろそろみんなの前に行くから王子様モードに切り替わってねー」
眉間にしわ寄ってますよー。
笑顔が凶器みたいになってますよー。
「さっきも来た」
「誰が」
「五十嵐」
「どこに」
「応援席」
「‥そう」
「認めないって」
「よっぽどあんたのこと気に入らないんだね」
イケメンって部類にわけたら、自分も同じ部類なのにね。
あれかな、同族嫌悪かな。
「なんで俺とお前が付き合ってんのか納得いかないってよ」
「まぁ私からしたらなんでみんな納得しちゃってるのかわかんないからね」
「俺が惚れたってことになってるからな」
「はー‥一番確率が低い理由だね」
いつ聞いてもさ。
なに、惚れたって。
桐生って一目惚れとかするタイプじゃないでしょ。
ていうかそんな甘酸っぱい恋愛してきてないでしょ、絶対。
「こんなに尽くしてんのにな」
「‥どこをどうとれば尽くしてるになるんだろうね」
「尽くしてるじゃん。毎日部活の帰り待ってるし」
「それを尽くしてるっていうなら、大抵の人は尽くしてることになっちゃうね」
だいたい私は部活が終わるまで待っててくれと言ったことはない。
なんなら、別に待っててくれなくてもいい。
「しゃーねぇな、今度どっか遊びに行くか」
「うーん、なにが仕方ないのかもわかんないし、なんで遊びに行くってとこに話がいくのかもわかんない」
桐生ってたまに話通じないよね?
「だいたい遊びになんて行ったら誰に見られるかたまったものじゃない」
「それが狙いなんだけど?」
「は?」
「いいじゃん、どうせ火曜と木曜は部活休みなんだし。今週の木曜空けとけ」
いや、休みだけどさ。
なんでそうなる。
でもって私の予定は一切無視か、おい。
「相変わらず横暴だね」
「段取りがいいって言ってくれる?」
そう言った桐生は、ふわりと花が綻ぶような笑みを見せた。
ああ、王子様モードだ。
ほんと、オンオフのスイッチがしっかりしてる。
「やっときた!神崎、お前あっちだから」
「えー‥遠い」
「間違ってここに来たのが悪い。お、桐生も400mか!こりゃ負けてらんねぇな」
かっちは隣に並んだ桐生を見て鼻息を荒くした。
うげ、気持ち悪い。
「おい今すっげぇ失礼なこと考えてるだろ」
「当たり前でしょ、かっちなんだから」
「ひでぇ!そこは否定しろよ!」
きゃんきゃんと子犬のように叫ぶかっちを放って、私は300m走者が集まる場所へと行く。
「神崎さん、ここ並んどいて」
運営委員にそう言われて、言われたところに並んで周りを見る。
なんていうか、運動部です!と主張している足の筋肉がすっごく目につく。
たくましい足してんなぁ。
「始まります、始まりますよぉ、今年から取り入れた男女混合のスウェーデンリレー!」
実況の声で、一斉に応援席から声が出る。
賑やかになる周りを、ピストルを持った体育委員が鎮めると、すっと腕を垂直に上げる。
発砲、3秒前。
パンッと。
いっそ軽快なくらいの音が響いて、一斉に女子が走り出す。
それを見ていた私の肩をぐっと誰かが掴んだ。
痛いと思って振り向くと、誰かわからない女子が私を睨みつけてきた。
「あんたが彼女?」
いや、誰のだ。
主語。
主語プリーズ。
日本語は正しく使ってください。
「確かに綺麗な顔はしてるけど、それ以外特にって感じだね」
「は?」
え、なにこの失礼でしかない人。
不愉快ですよ、私。
「あんたに桐生君はもったいないよ」
上から下まで値踏みするように見た彼女は自分の中の結論を私に伝える。
「と言われても」
「別れなよ」
「は?」
「だから別れなよ。あんたと桐生君じゃ釣り合わないって言ってんの」
そんなこともわかんないの?とでも言わんばかりに言った彼女は、見下すように私を見る。
「とりあえず言いたいことはわかりました」
「じゃあ、」
「でも答えはノーです」
「は?」
「だからノーです」
目を点にさせる彼女をほって、私はコースに入る。
そんな私の動きを見た彼女も、私の隣のコースにスタンバイする。
なんだ、私たちの団の後ろにいる団の人なのか。
「そういうことは私じゃなくて桐生に直接どうぞ」
こういうのに巻き込まれるのはごめんだ。
だいたい、私と桐生は仮の恋人なんだから、関係ないし。
そう、関係ないもん。




