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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
23/145

22:

「返事、聞かせてください。俺、来週のこの時間にここで待ってるんで」

「え、」


五十嵐君はそう言い切って、さっきの聖と同じように雨の中を傘をさして走っていく。

それをぼーっと見つめてふと気づく。


「…来週には答え出しとけってこと?」


そういうこと、だよね?

え、いや、今日初めて知り合った相手なのに、1週間で決めろって。

まぁ見た目だけなら優良株だしねぇ。

でもイケメンはノーセンキューだからなぁ。


「でも、どうしたらいいんだろうね」


まさかこんなことになるなんて。

そもそも私、桐生の提案に乗った覚えはないんだけど。

気付けば毎日桐生と肩を並べて一緒に帰ってて。

廊下ですれ違えば、一言二言くらい話すようになってて。


日に日に、桐生との距離が近くなる。

そして、それがどことなく、居心地良く感じてる。


だけど私は、彼を秘密を共有してるだけだ。


「ごめん、待たせた?」

「‥ううん、今来たとこ」


パタパタと廊下を小走りする音が聞こえたと思ったら、桐生だった。

私のそばまで走ってきた彼は、呼吸を乱さずにそう言った。

だから咄嗟に、私は彼に嘘をつく。


「…‥そ。お前傘は?」

「忘れた」

「は?」

「だから忘れた」

「今日天気予報で午後からの降水確率80%ってどのニュースでも言ってただろ」

「イッテマシタ」

「じゃあなんで傘無いの」


王子様はご機嫌斜めのようで、というかここにきて、ものすっごい機嫌を急降下させてる。

もう直角に下がってんじゃないだろうか。


「‥昔から、」


そう言って、空をまた見上げる。

どんよりと重く暗い空からは、横やりの雨が降りそそぐ。


「昔から傘は、旭が持ってきてたから」

「…兄貴が?」

「うん。いつもこうやって、旭の帰りを待ってたの」


今じゃそれがなくなったけれど。

中学までは雨の日はずっとこうだった。

あ、雪の日もこうだったかな。

梅雨の時期と冬は旭大変だっただろうな。


「‥持って来いよ」

「そうやって旭も言うけどね、いつもちゃんと傘にいれてくれるの」

「……それって俺に傘の中に入れろって言ってる?」


桐生はため息をつくと、1歩下駄箱から出て傘を開く。

開いた傘にぶつかった雨粒が、ぼつぼつと音を立てて流れていく。


「桐生?」

「置いてくぞ」

「え、」

「えじゃねぇ。なに、お前濡れて帰んの?」


桐生の言葉に首を横に振ると、また桐生からため息が聞こえてきた。

今日はなんだか、王子様の化けの皮がはがれるのが早いな。


「帰る」

「じゃあとっとと入れ」


舌打ちをついて、嫌そうに傘の半分を空けてくれる桐生に苦笑しながら、空いた隣におさまるように並ぶ。

そして気付く。

…相合傘ってやつじゃないですか、これ。

やばい、見られてたら、やばい。


「バカ、手遅れ」

「へ?」

「俺が下駄箱に来るまでに何人かとすれ違ったから」

「それ先に言ってほしかったんだけど」

「だから傘持ってないのかって聞いたんだろ」


はい、そうですね。

で、私は持ってこなかったですよ、傘。

だってあれ持ってるだけで荷物が1こ増えるんだよ?

邪魔じゃん、あいつ。


「俺はてっきりこれがしたくて傘忘れてきたんだと思った」

「バカ言わないでよ」


べぇっと舌を出して言ってやれば、桐生にひょいと傘をずらされた。

肩にぽたぽたと雨水が落ちる。

つめたいー!


「濡れるってばー!」

「‥っ、」


ていうか濡れたし!

慌てて傘の中に入ると隣から息を飲む音がした気がした。

濡れた肩を見ると、雨がけっこう降ってるのもあって、けっこう濡れてる。

うー‥冷たい。


「あ、ごめん、寄りすぎた。桐生濡れちゃうね」

「え?あー‥いいよ、別に」

「よくないよー。私そこだけど、桐生は電車乗って帰るんだし」

「‥ふぅん?」


桐生は意味深な言葉を言って、口元に弧を描く。

にやりと笑った彼は相変わらず悪い笑みを浮かべる。

いや、王子様の仮面をはがしちゃったら、けっこう似合うんだけどね。

ただ、すっごい悪い予感しかしない。


「えーっと?」


どうかしたかな、桐生君?

思わず、桐生から距離をあける。

いや、あけようとした。

ガッと、身体が離れる前に濡れた肩に何かが当たった。

正確には、何かに掴まれた。


「え、」

「濡れる」

「いや、ちょ、」


グイッと。

それはもう強引なくらいに。

肩を抱き寄せられて、少し大きめの黒い傘の中に2人がおさまる。

桐生と隣り合った肩がたまにぶつかる。


相合傘の醍醐味。




…まじいらない。


「近い」

「濡れちゃうって言ったの神崎じゃん」

「そう、だけど」


なんで傘持ってこなかったんだろう、私。


でも、それ以上に。



傘、持ってこなくてよかったなんて、思ってる自分がいるなんて。









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