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「昼も夕方も片岡先輩。俺に彼女できた説を聞いて焦って来たみたいだな」
「2回も?」
「そう、2回も。取り巻きまで連れて来るからイラッとしたんだよな」
取り巻きって。
確かに片岡先輩の周りにはいつも、信者のような女の先輩たちが数人囲んでるけど。
「綾乃はこんなにいい女なのーって。自分の娘を売る西洋貴族みたいだった」
「その喩え方もどうなのよ」
先輩をどこぞの西洋貴族って。
‥いや、ある意味褒められてるのか?
「片岡先輩なんて、あんたには勿体ないくらいだと思うけどね」
「そーかぁ?」
そうでしょ!
美人だし、品行方正で、頭もよくて、誰にでも優しくて。
一部の男子からは女神だとか天使だとか言われて、崇められてるんだから。
「お前さ、俺の時はあんなに疑い深かったのに、なんで片岡先輩の噂は簡単に信じるわけ」
「は?別にあんたのときだって疑ってはなかったよ。まぁ胡散臭い男だなーくらいには思ってたと思うけど」
「同じだろうが」
「まぁ片岡先輩に胡散臭さがないわけじゃないけどねー。正直、関わるつもりないから興味ない」
「冷めてんなー」
だってあんな人と関わったらいいことないと思うんだよね。
実際、似たような人と関わりを持った途端、今これだし。
人に多大な影響を及ぼす人は、もう少し身の振り方を覚えるべきだよ。
「でもすごいねー。1回フラれたのに、その日の放課後にもう1回告白するとか」
勇気あるわー。
私なら絶対無理。
だってほんの数時間前にフラれた相手だよ?
なに、数時間たてば考えも改まって付き合ってくれるかもとか?
なにそれ頭おめでたーい。
「なんでも気に入らないそうな」
「なにが」
「先輩がダメでお前がいいのか」
「ほー‥」
それはあれか。
なんでブサイクなお前が学校の王子様と付き合えて、学校1の美人の私が相手にもされないんだっていうやつですかい。
なんかドロドロしてきたし、なんか予期せぬ方向に話が進んじゃってるような気がする。
「も・ち・ろ・ん、人格者とか言われるんだから、ちゃんと綺麗な言葉並べて話つけてきたんだよね?」
「あー‥どうだったかな。俺あの時最高潮に機嫌悪かったから」
「は?」
「もしかしたら投げちゃったかも」
「はい!?」
「ごめんね☆」
ごめんね☆、じゃねぇし!
ウインク付きで言われたって、ミジンコほどもときめかないんだよ!
そんなことしてる暇あったら今からでも話してこいやぁ!
「‥あんたってやつは、」
「だーいじょうぶだって」
「なにが!?ていうかその自信どっから来るの!?」
「自信って常にあるもんでしょ?」
「自信過剰って言葉知ってる?有無惚れって言葉知らない?」
なんなの、こいつ。
なんでこんなに自信満々でいられんの!?
ていうかなんのそもそも何の自信。
「片岡先輩は裏でネチネチやるのは好きじゃないから」
「だから?」
「なんか行動起こすにしても、真正面から来るタイプだから問題ないよ」
「いやあるから」
「問題は先輩の取り巻きとか、王子様の盲目的信者の方だろ」
うん、サラッと私の言葉、無視されたよね。
確かに言ってることは間違いないんだけどね。
王子様の信者の中にはかなり過激な子もいるみたいだから。
「最近呼び出しとかあった?」
「いや?まだないかなー」
「そっか」
「意外とその辺気にしてくれてんだね」
「彼女がいじめられてるのに、何もしないでくの坊だなんて言われたくないからな」
「結局は自分のためかい」
「俺が人のために動くわけないだろー」
カラカラと乾いた笑い声を出す王子様をちらりと盗み見ると、どことなく寂しそうな顔をしていた。
そんな気がした。
「で?自分のために何してくれるわけ?」
「んー?とりあえず助けてやる」
「ほー。簡単に言ってくれるなぁ」
女の子のいじめは誰にも見られずに、かつ精神的ダメージを食らわせるように、水面下でやられるんだからな。
男子のいじめと一緒にするなよ。
「ま、お前そんなやわな女じゃなさそうだし、大丈夫だと思ってるけど」
「悪かったわね、やわじゃなくて」
旭と一緒にいるだけで散々いじめられてきたから、そういうのは慣れっこだい。
あんまり自慢げに言えることじゃないけど。
「まぁなんかあったら言えよ」
「何にもないことを願うけどね」
「俺が助けてやる」
「はいはい。期待はしないでおくけど」
なにが助けてやるだ。
そんなセリフのその辺で言ってるから、女の子たちは勘違いするんじゃない。
「じゃあまた明日な」
家の前でそう言った王子様は来た道を帰っていく。
その後ろ姿を見ていた私の口からはため息がこぼれた。
王子様に送られるようになって、いつからか王子様は去り際にいつもあの言葉を言う。
魅惑の笑顔付きで。
ほんっと、心臓に悪い。
「…もう、」
不覚にもときめいてしまったのは、タラシの王子様が悪いんだ。




