16:
「今日も一日お疲れ様でした」
部室に戻って、大きな独り言を呟く。
携帯で時間を確認すると、7時前だった。
「なんでこんな時間までいつもやってんだろ」
外はもう暗い。
的は見えない。
のに、こんな時間まで部活をやってるとか。
ほとんど喋ってるだけの部活だってのに。
「「先輩、聞きたいことが!」」
袴を脱いでいる時に、後輩の女の子2人が詰め寄る感じできた。
思わずのけぞってしまった私にもかまわず、後輩2人は必死の顔を私に見せる。
「えっと‥なに、かな?」
部活中、ずっと私の方を見ていたような気がしたのは間違いじゃないらしい。
詰め寄ってきた2人はたたずまいを直すと、じっと私を見てきた。
「桐生先輩と付き合ってるって本当ですか!?」
「え、」
「朝倉部長はどうするんですか!?」
「瑛太?」
「「どういうことですか!?」」
えぇ!?
いやこっちこそどういうことですか!?
驚いて固まっていると、後輩たちが私を睨むように見てくる。
「えーっと、とりあえず落ち着こうっか」
と言って、実際に落ち着くのは私なんだけど。
はぁ、とため息をついて詰め寄ってきていた後輩、海藤安里と海藤千里を見る。
同じ顔だけど、性格が正反対っていうので有名な1年の双子姉妹。
「陽向先輩、桐生先輩と付き合ってるんですか?」
控えめに聞いてきたのは、双子の妹のほうの千里だ。
黒い髪を肩を少し超えるくらいまでのばした彼女を一言で表すと、清廉潔白だろう。
それか白百合といった感じだ。
「誰から聞いたの」
「誰からっていうよりも噂で、という感じです」
「で、どうなんですか!?」
今にも飛びかからん勢いで聞いてきたのは、双子の姉の方の安里だ。
こっちは、黒い髪をうなじが見え隠れするくらいの短さにしている。
彼女にはひまわりがよく似合う。
「どうって言われてもなぁ‥」
「朝倉部長はどうなったんですか?」
「瑛太?なんで瑛太?」
いきなり出てきた瑛太の名前に意味が解らないというふうに首を傾げる。
「先輩たち、すごく仲が良いじゃないですか」
「そりゃあねぇ‥小学校から弓道してれば大会があるたびに会うから」
弓道人口自体もそんなに多いわけじゃないから、顔なじみにもなっちゃうわけで。
瑛太も私も決勝の常連だったから、自然と顔なじみっていうか「こいつ知ってる」くらいになっちゃうんだよね。
「朝倉部長、先輩と話してる時すっごく笑顔だし、絶対先輩のこと好きですよ」
「瑛太が?」
「「はい!」」
「あー、それはない。うん、ないない」
手を顔の前でパタパタさせながら、頭の中できっぱりと否定する。
瑛太が私を好きとか…ありえない。
私で遊んで楽しんでるってのはあっても…ねぇ?
第一、瑛太は、
「彼女いるよ、あいつ」
「「えぇ!?」」
「これ言っちゃうと瑛太怒るから秘密ね」
「なんでですか?」
「さぁ?でもあんまり言いたくないんだってさ。あ、彼女はブサイクとかそんなんじゃないよ。何回か見たことあるけど、面食いかってくらい美人さんだったから」
なんであんなに性格悪いのに、あんな美人で性格もいい子が捕まえられるんだ。
世の中不公平にもほどがあるだろうに。
「なんだー。朝倉部長と先輩、すっごくお似合いだと思ってたのに」
「私、実は付き合ってるんだと思ってました」
「私と瑛太?いや、ありえないでしょ」
瑛太と私がお似合いって。
いやいや、一緒に並ぶだけでもばち当たりそうだし、第一私あいつに遊ばれてばっかじゃない。
「じゃあ桐生先輩が濃くなったわけだ」
「先輩、桐生先輩と付き合ってるんですか?」
この質問、この双子たちから何回目だ?
ていうか、私この前からこの質問何回されてるだろう。
「もしかして王子様ファン?」
だったら嫌だなーと思いながら2人を見る。
2人はぶんぶんと首を横に振った。
「桐生先輩って完璧すぎて手が届かないって感じしません?見てるだけでいいっていうか」
安里はそう言いながら、制服のスカートをはく。
私も黒のカーディガンを着ながら2人の小言のような言葉を聞く。
「近づき難いところはあるよね」
「そうそう!キラキラしすぎだしねー。彼氏にしたらこっちが疲れそう」
「コラ!陽向先輩の前でしょ」
「あ、すいません」
「いや、いいよ」
実際に付き合ってるわけじゃないし、実際に付き合ったら疲れるだろうし。
主に王子様なんて言われてる普段との違いっぷりに。
そうとう神経摩耗するんじゃないかな。
「先輩そのカーディガンでかくないですか?」
「え?あー‥うん」
指まで隠れて、おしりまでもを隠すぶかぶかのカーディガンを見た千里は首を傾げる。
「これねー、兄貴のなんだよね。お母さんが洗ったみたいなんだけど、間違って私のとこ持ってきちゃったみたいで」
よくあるんだよね、そういうの。
2人ともおんなじ色使うから。
「なーんだ、桐生先輩のじゃないんだ」
「残念でした。私もう帰るけど、あんたたちも遅くならないようにね」
リュックを背負って、部室の扉に手をかける。
「え、一緒に帰りましょうよ」
手をかけた私の背中に千里のそんな声がかかった。
ちらりと後ろを見ると、少し不安げな4つの瞳が目に入った。
「ごめんね、人待たせてるから」
にこりと笑って手を振って、部室から出る。
なるべくゆっくり歩いて校門まで向かうと、校門の壁に寄りかかるようにして彼が立っていた。
「お疲れ様」
「どーも、」
ふわりと、暗くなったこの時間にはあまり似つかわしくない爽やかな笑みを、王子様は私に向けた。




