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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
103/145

102:

桐生との関係を噂されてから1週間とちょっと。

ほとぼりは冷めつつあって、射殺すような視線もだいぶ減ってきた。

減ってきた、というよりは、そんなことを気にしてられないほどに忙しい、というのが正しいけれど。


もうすぐ、学年末考査がやってくるのだ。

そして、乙女の聖戦も、やってくるのだ。


「神崎、俺にチョコくれ!」

「は?寝言は寝てから言ってよ」


最近かっちは休み時間になるたびに私のもとへきてそう請うのだ。

なにがチョコくれだ。

鬱陶しいったらこの上ない。

かっちにあげるくらいなら自分で食べるっての。


「あんたは私じゃなくて、聖にもらいたいんでしょ」

「…本命はな」


小さめの声で言ったかっちは、最近私と一緒にいなくなった聖を見た。

聖は自分の席で読書をしていて、かっちの視線にはまったく気が付いていないみたいだった。


「そういやさ、ずっと思ってたんだけど、最近お前ら一緒にいないよな。なんで?」


喧嘩でもした?と首を傾げるかっちに、私も一緒になって首を傾げた。

だってその理由が思いつかないのだ。

私、聖になんかしただろうか。


「わかんないけど…避けられてるような気がするんだよなぁ」


朝も全然会わないし。

帰りだって、家が隣だから会っても全然おかしくないのに。

これはもう避けられてる以外考えられないんだよな。


「なんかしたの?」

「それがわかんないから困ってるんだって」


桐生のことでてんやわんやしてたら、気が付いたら聖が隣からいなくなってたんだもん。

正月明けくらいまでは全然普通だったのに。


「思春期?」

「あほか」


中学生じゃあるまいし。

なにが思春期だ。

ばかばかしい、と言ってはみるものの、聖が急に避けだした理由はやっぱり気になる。


「…まぁ、察しがつかないわけじゃないんだけどね、」


なんとなくなら、その理由に想像がつくんだけど。

どうしてもそれは信じたくなくて。

その答えがでかけては、いつも頭の中で否定する。


「でもお前、綿貫いないとテスト勉強できないんじゃないの?」

「あー‥それは問題ない」


うちんちに優秀な家庭教師が2人もいるから。

でもそのうちの1人が今聖が私の横にいない原因なんだろうなぁ。


「あ、そっか、お前頭良かったんだっけ」

「まぁ元からかっちよりは頭良かったけどね」

「さらっと俺をとぼすのやめてくれる?」

「傷付いてもないのにそんな顔しないでよ」

「ちょ、俺のガラスのハートが!」

「防弾ガラスでしょ?」


トンカチで殴ってもそうそう割れないっていう。

強靱なハート持ってるね、あんた。


「………」

「そんな恨めしげに見ないでよ」


あんたが私に口で勝った試しがないのに。


「…そいやさ、神崎はどうすんの?」

「は?なにが?」


主語言いなさいよ、主語。

今の何の脈絡もない言葉だけを聞いて、何を理解しろっていうのよ。


「チョコ」

「‥ああ、バレンタインね」

「どうすんの?」

「どうってどうもしないけど」


またバレンタインのチョコの話い戻ってきてしまった。

私はかっちの質問に多少はドキリとしたが、なんとか平静を装って素っ気なく返す。

そんな私にかっちは目を丸くしていた。


「なに」

「あげないの?」


なんでだろう、かっちは確かに「あげないのか」と聞いたのに、「くれないのか」という言葉に聞こえてきてしまうのは。


「誰に」


だいたい誰にあげろというのだ。

そう聞けば、かっちは「ええー」とつまらなさそうな声を出した。


「誰って、俺と桐生しかないでしょ」

「……あほらし」


なんでそこに俺が入ってるのよ、意味わかんない。

と、思ったところで気が付く。

……桐生なら別にいいわけ?

私は桐生にならあげたいと、そう思ってるということ?


「冗談だってば!っていってもそうでもないか。桐生にあげないの?」

「なんであげなきゃなんないのよ」


かっちに揺さぶりをかけられているみたいで、ふいっと時計を見るふりをして目をそらす。


「なんでって‥お前らより戻したんでしょ?」

「その話、まだ有効なの?」

「いやいや、そんな昔の話みたいなこと言うなって」


そりゃあついこの前の話ではあるけど。

ていうか、なんでよりがも戻ってるっていうのが最終的な結論になってるわけ。

実はガセでした、って、誰か言ってくれてもいいじゃない。


「で、あげないの?」

「‥私があげなくても、あいつには食べきれないくらいのチョコがくるでしょ」


去年すごかったと、かっちから聞いた。

朝、登校した桐生を待ち構えていたのは、下駄箱に入りきらずこぼれるようにして入っていたチョコ。

そして教室に入った桐生を迎えたのは、机の上に山積みになったチョコ。

休み時間のたびに桐生に押し寄せるのは、チョコを持った女の子達。

昼休みは呼び出しの嵐で。

放課後になれば、追いかけ回されて。

帰りの下駄箱を見れば、雪崩を起こしているチョコ。


…悪夢じゃない?


「去年は可哀想だったなぁ」

「今年も変わんないんじゃない」


1年生もいることだし、手渡し以外の方法で渡されるチョコの数が増えるかもね。

というか、桐生はそれを持って帰ったんだろうか。


「気になる?」

「は?」

「そのチョコがどうなったのか」


にやりと口角をあげたかっちは、意味深な笑みを浮かべて私を見る。

正直、気にならないわけじゃない。

受け取ったのかも、気になって仕方がない。

でも。


「どうだっていい」


そう答えるしか、方法はなくて。

素直じゃない自分に、なぜか苦笑がこぼれてしまった。




だって。

私は桐生にチョコなんてあげないんだから。






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