髪の毛から引き締めましょ♪
がやがやと騒がしい教室。その中で、セミロングの髪の毛をゆったりと流している女子がいた。彼女の名前は大黒詩織。公立の学校に通う中学生だ。ほかに特徴を挙げるとすれば――
「詩織ー、一緒にトイレに行こー」
そう言って、長い髪の毛を二つに分けた女の子が詩織の前へ進み出る。彼女はクラスメートの後藤優姫奈だ。ややつり目の彼女は、詩織の答えを待たずに手首を掴んだ。
「う、うん、行こうか……」
消え入りそうな声で詩織は答えた。そのまま彼女に引きずられるようにしてついて行く。切羽詰まっている訳ではないので、詩織は無理に行く必要はない。しかし、詩織は優姫奈の提案を断れなかった。
そうして休み時間は過ぎていき、授業が始まる。女の先生が丁寧な字で板書していく。授業なんてどこ吹く風、とばかりにおしゃべりしている生徒もいるが、詩織は一生懸命ノートに書き写していた。やがて先生の手が止まり、一呼吸の間の後くるりと振り向く。
「じゃあ、次の文章の音読を……大黒さん、お願いします」
「はっ、はい……」
名を呼ばれ、おどおどとした様子で詩織は立ち上がる。教科書の指示された場所を開き、ぼそぼそと読み始めた。が、その声は床に落ちるばかりでほとんど聞き取れない。
「ああ、もう少し大きな声で読んでください」
先生が注意すると、詩織はすみませんと呟いて頭を下げた。深呼吸の後、今度はもう少し大きな声で読み始める。その声は張っておらず、やはりぼそぼそとはっきりしない。が、それでもどうにか聞き取ることができるレベルであった。読み終わると、詩織はおどおどと椅子に座る。先生はどこか苛ついたように詩織を見ていた。
そう、これが大黒詩織という人物である。普段から引っ込み思案で、前にぐいぐい出ることは滅多にない。むしろ縮こまって後退ってしまう、そんな女の子であった。
日も暮れた頃、帰宅した詩織は自室で宿題に手をつけていた。部屋にはシャーペンを走らせる音だけが響く。と、ペンを動かしていた手が止まる。詩織は目を細め、窓を見やった。
「詩織、ザイノーアの気配だよ」
檻の中の小動物が人の言葉でそう言った。詩織は頷き、シャーペンを置いて立ち上がる。鏡の前に立ち、ヘアゴムを手に取った。流した髪をするりとまとめ、上に上げてゴムで縛る。ポニーテール姿になった彼女は、キッと窓の外を見据えた。
「行こう、ミナ」
詩織が傍らの小動物に呼びかけると、ミナはこくりと頷いた。刹那、詩織の体を光が包む。光はドレスとなり、詩織の服装が変わっていく。ピンクを基調としたふりふりのワンピース。ヒールのある白い靴。なめらかな白い手袋。そして洋式の弓矢。変身した彼女は窓から躍り出ると、軽やかに跳躍して屋根を越えていった。
たどり着いた先にいたのは、人型をしているが腕の長い妙なモノだった。体は半透明で、表面が淡く光っている。だらりと口を開き、目はぎらりと輝いていた。その怪物は橋の上にたたずみ、誰か通りがからないかとうろうろしている。ザイノーア。常人には見えず、人に襲いかかって喰らう怪物だ。
詩織はポニーテールをなびかせ、怪物の前に出る。怪物は彼女に気付き、咆哮と共に腕を振り上げた。詩織は弓を引き絞り、矢を放つ。光の筋が闇を貫く。怪物の腕が飛ぶ。片腕を失ったザイノーアは耳障りな奇声を上げた。
「今だ、詩織!」
ミナが叫ぶ。詩織はぐっと弓を引いた。
『闇に住まう化け物よ、光の道に誘われ、人の世より立ち退け!』
詩織の矢が光を放つ。それは一直線に怪物の心臓を貫いた。ザイノーアは悲鳴を上げ、射られた胸から破裂する。あとにはただ、夜の静けさだけが残っていた。
ウェ~ぶさん(@confidence668)からのリクエストで、「セミロングからロングの引っ込み思案の女の子(年齢はおまかせ)を出して欲しい\(^o^)/笑
んで、髪を結んでポニーテールにしたときは気合いを入れているときで、何事にも前向きになるとか!笑」とのことでした。
うん、ど う し て こ う な っ た
えっと、遅くなりましたが、こんな感じでよかったでしょうか?